いつのころか、「天皇晴れ」という言葉を耳にしたことがある。天皇陛下がお出ましになると、それまで降っていた雨が上がり、晴れ間が顔をのぞかせる。1993(平成5)年6月9日の天皇、皇后両陛下のご成婚パレードの日もそうだった。偶然とはいえ、“天皇晴れ”とはこのことか、と妙に納得したものだ。とはいえ、“皇室の方々に傘の必要はない“ということにはならないだろう。では、どのような傘をお持ちなのか、どこでお買い求めになられているのか。皇室ならではの”こだわりの銘品“に迫ってみたい。
画像ギャラリーいつのころか、「天皇晴れ」という言葉を耳にしたことがある。天皇陛下がお出ましになると、それまで降っていた雨が上がり、晴れ間が顔をのぞかせる。1993(平成5)年6月9日の天皇、皇后両陛下のご成婚パレードの日もそうだった。偶然とはいえ、“天皇晴れ”とはこのことか、と妙に納得したものだ。とはいえ、“皇室の方々に傘の必要はない“ということにはならないだろう。では、どのような傘をお持ちなのか、どこでお買い求めになられているのか。皇室ならではの”こだわりの銘品“に迫ってみたい。
※トップ画像は、降りしきる雨のなか、お出迎え者にお手ふりでお応えになる天皇、皇后両陛下=2023(令和5)年10月8日、鴨池港フェリーターミナル(鹿児島市鴨池新町)
きっかけは修理だった
東京都台東区に、皇室に「洋傘」を納めている銘店があるのをご存じだろうか。この銘店と皇室との“ご縁”のはじまりは、1965(昭和40)年ころに上皇后美智子さま(当時は皇太子妃殿下)のパラソルを修理したことがきっかけだった。
1948(昭和23)年に創業した「前原光榮商店(まえはらこうえいしょうてん)」は、以来、昭和天皇、香淳皇后をはじめ、上皇陛下、上皇后美智子さま、皇后雅子さま、秋篠宮さま、紀子さまら、皇室の方々へ洋傘を納めている。そのなかでも、昭和天皇に納めた傘は、のちに秋篠宮さまが佳子さまの幼稚園ご入園の際に、お使いになられた。
天皇陛下の傘は、海外製のものを昔からお使いだと伝え聞く。もしかしたら、英国オックスフォード大学へ留学中にお買い求めになられたものなのだろうか。
ご注文は、どうされているのか
皇室の方々が、ふらっと傘をお買い求めのためにお立ち寄りになることなど、あるわけもない。注文は、老舗百貨店を通じて依頼を受けることもあれば、侍従職といった皇室の方々の身の回りのお世話をする職員から、直接オーダーを受けることもあるという。
宮内庁が表向きに購入していないということは、いわゆるポケットマネー(私費)で購入されているということなのだろうか。
ビニール製の傘
平成の時代、上皇后美智子さま(当時は皇后美智子さま)から、「傘をさすと顔のあたりが暗くなるため、出迎えの市民から(自分たちの顔が)見えづらいのでは……」という、お気持ちが示されたことがあったという。そこで宮内庁より相談を受けて生まれたのが、“透明のビニール素材”を使用した傘だった。この素材は、市販されているビニール傘と同じものではなく、前原光榮商店が世界で初めてビニール傘を考案したといわれるホワイトローズ社の三層構造の生地を使用し、強い風雨にも耐えられるようにと、2社の合作として納められたものだった。
半世紀以上も愛用されているご成婚当時の傘を修理
皇室の方々は、身の回りの物を長く愛用し、大切に使われていると伝え聞く。傘も同様で、長く使われるものでは、修理しながら50年以上も愛用されているものがあるという。前原光榮商店では近年、上皇后美智子さまから1959(昭和34)年のご成婚のときに、正田家から持参したと思われる傘の修理依頼を受けたことがあるそうだ。経年で傷んだ部分を直すため、お付きの女官(じょかん)を通じての依頼だったという。
同じ傘は購入できる?
皇室に納めている傘は、さまざまな部分に工夫が凝らされている。骨は8本、石突きの先端(傘の先端)部分には「水牛の角(つの)」、ハンドルには最高級の「マラッカ籐(とう)」、生地には「絹の綾織り」を、畳んだ時に骨を固定する「玉留め」と呼ばれる部材には「純銀製」のものが使用される。また、傘をさした時のシルエットが美しくなるように、傘の直径もそれぞれお持ちになる方々に合わせて微調整を行なうそうだ。
こうした作りになっているものは、前原光榮商店の市販品にはないが、同等のものをオーダーメイドすることは可能で、男性用のもので1本15万円、女性用のものでは3万円ほどになるという。前原光榮商店の店舗「浅草三筋町店」に行けば、相談に応じてくれる。詳しくは、同社ホームページ(https://maehara.co.jp/)で確認してほしい。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。