松平定知の「一城一話55の物語」

家康は、切腹と決まった真田昌幸・幸村親子の助命をどう聞いたか 93歳の天寿を全うした真田信之、松代城はかつて武田信玄も拠点にした

松代城 (「Webサイト 日本の城写真集」より)

『その時歴史が動いた』や『連想ゲーム』などNHKの数々の人気番組で司会を務めた元NHK理事待遇アナウンサーの松平定知さんは、大の“城好き”で有名です。旗本の末裔で、NHK時代に「殿」の愛称で慕われた松平さんの妙趣に富んだ歴史のお話をお楽しみください。今回は、真田信之と松代(まつしろ)城(長野市)です。

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『その時歴史が動いた』や『連想ゲーム』などNHKの数々の人気番組で司会を務めた元NHK理事待遇アナウンサーの松平定知さんは、大の“城好き”で有名です。旗本の末裔で、NHK時代に「殿」の愛称で慕われた松平さんの妙趣に富んだ歴史のお話をお楽しみください。今回は、真田信之と松代(まつしろ)城(長野市)です。

桶狭間の戦いの年に築城

真田昌幸の嫡男・信之が城主として治めたのが、松代城です。松代城は、永禄3(1560)年、武田信玄が北信濃支配のために作った海津城がもとになっています。軍師だった山本勘助の築城とされます。

三方を山に囲まれ、西に千曲川が流れるという自然の地形を利用したもので、半円形の土塁の外側に掘られた三日月堀を持ち、甲州流築城の模範になりました。1560年といえば、織田信長が今川義元を奇襲し破った桶狭間の戦いが行われた年です。

松代城跡に復元された北不明門 Photo by Adobe Stock

川中島の戦いで最大の激戦

川中島の戦いは天文22(1553)年から永禄7(1564)年まで5度にわたって上杉謙信と武田信玄がぶつかった戦いですが、海津城は永禄4(1561)年に行われた第四次合戦(八幡原の戦い)の重要な舞台になります。

この第四次合戦は川中島の戦いのなかでは最大の激戦となり、軍師山本勘助が考案した「キツツキ戦法」が謙信方に見破られ、信玄の弟の信繁や勘助本人が討ち死にするなど、武田側は大打撃を受けます。真偽のほどはともかく、謙信が信玄の本陣に単騎切り込んだとされるのも、この時です。松代城から川中島の古戦場は遠くありませんから、ぜひ立ち寄ってみてください。

信玄亡きあと城主が変遷、海津城が松代城に

さて、信玄亡きあと、海津城は織田信長の家臣・森蘭丸の兄、森長可(もりながよし)や、豊臣秀吉の有力な家臣・蒲生氏郷の姉婿、田丸直昌などが城主になります。

関ヶ原の合戦の後、家康の六男忠輝(ただてる)が入り、その後、真田信之(昌幸の長男で信繁[幸村]の兄)が上田から移封、松代藩の地を与えられ、元和8(1622)年に入城しました。信之は上田が真田家代々の地であったことから、松代へ行くことを悔しがりますが、結局それから明治維新まで、松代藩10万石の藩庁として続きます。後に3代藩主、幸道の時に、松代城と名を改められます。

松代城の風景 Photo by Adobe Stock

父昌幸とは違い勇猛な性格、裏表のない誠実な人柄

信之自身は昌幸譲りの勇猛さを持っていましたが、手練手管の父とは違い、裏表のない誠実な人柄だったと伝えられます。

父昌幸と、弟信繁(幸村)は上田城での籠城によって徳川秀忠軍を関ヶ原の合戦に遅参させるなど徳川軍に打撃を与え、関ヶ原の合戦では石田方の西軍につきます。天下人家康に盾ついたのですから、いったんは切腹と決まります。

しかし、信之は自身の戦功と引き替えに両名の命を助けるべく嘆願し、結局父子は罪一等を減じられます。秀忠遅参事件での家康、昌幸の水面下の動きを勘ぐるムキもありますが、何はともあれ、この父子は死刑にはならず、紀伊の九度山に流罪となります。

その九度山に、家康の目を気にしながら援助の手をさしのべ続け、父の死の際は、幕府に葬儀を願い出るなどしています。また、昌幸に従って九度山に赴いた家臣が帰ってきた時は、温かく迎え入れたとの記録が残り、徳のある人物だったことがうかがえます。

松代城 Photo by Adobe Stock

身長185cmの長身

信之の特長としては、身長6尺1寸(約185cm)という長身と、93歳という当時としては考えられないような長寿を全うしたことでしょう。戦国の比較的初期に生を受けながら、万治元(1658)年まで生きたのです。

前田利家が182cm、藤堂高虎が190cmというように、ほかにも大男はいましたが、90歳以上という長寿を全うした武将は、松平忠輝の92歳くらいのものでしょう。ちなみに長寿で知られる北条早雲でも88歳です。

8代藩主は佐久間象山を登用し、藩の近代化を図る

松代藩は後に、信之の血筋自体はなくなりますが、養子を迎えることで10代・幸民まで続き、明治を迎えます。この間6代藩主・幸弘に仕えた恩田木工(おんだ もく)は、財政再建を成功させた名家老として知られます。また、8代藩主・幸貫は老中松平定信の次男。真田家に養子として迎えられ、自身も老中になったほか、勝海舟や坂本龍馬の師として知られる蘭学者・佐久間象山を用い、藩の近代化を図りました。このように、松代藩はなかなかの人材を輩出しています。

松代城の石垣 Photo by Adobe Stock

明治になって廃城、天守台は残った

松代城は明治になり廃城、取り壊されましたが、平成16年に本丸太鼓門や太鼓門前橋、北不明門(きたあかずもん)、二の丸土塁の復元が終了、天守閣はありませんが天守台が残ります。また本丸戌亥隅櫓台(戌亥=いぬい=西北)には、自然石をそのまま積み上げた野面積みと呼ばれる石垣があり、一見の価値があります。桜の名所としても有名です。

江戸時代末期の邸宅として貴重な真田邸も公開されており、特に庭園の美しさが印象に残ります。この真田邸は、松代城とともに国の史跡になっています。また、真田氏の大名道具約5万点を集める真田宝物館や、8代藩主・幸貫が水戸の弘道館にならって計画し、9代幸教の時代に完成した藩校文武学校、佐久間象山の業績を展示する象山記念館などがあり、見所はたくさんあります。ゆっくりと散策されることをおすすめします。

松代城 Photo by Adobe Stock

【松代城】
武田信玄の軍師だった山本勘助が築城した海津城をベースにする平城で松代真田家3代、幸道の時に松代城と改められた。明治に廃城となって壊されたが、平成に入って復元が進み、本丸太鼓門や太鼓門前橋、二の丸土塁などが完成した。桜の頃はひときわきれいで多くの観光客が訪れる。
住所:長野市松代町松代44
開館時間:9~17時(11月~3月は16時半まで)
定休日:12月29日~1月3日
入場料:無料
電話:026-278-2801(松代文化施設等管理事務所)

戌亥隅櫓台
松代城には天守はなく、真田信之が治めた頃は戌亥隅櫓が実質的な天守だったようだ。

戌亥櫓台跡 Photo by Adobe Stock

真田邸
9代藩主、幸教が義母である貞松院の住居として1864(元治元)年に建築した城外御殿。隠居後の幸教も住み、明治になって伯爵となった真田家の私邸になった。
住所:長野市松代町松代1
入館料:大人400円、小中学生100円
開場時間:9~17時(11月~3月は16時半まで)
定休日:12月29日~1月3日
電話:026-215-6702

真田邸 Photo by Adobe Stock

【真田信之】
さなだ・のぶゆき。1566~1658年。戦国武将、真田昌幸の長男として生まれる。父の昌幸や弟の信繁(幸村)に比べると地味な存在だが、生涯無敗の合戦上手にして、徳川四天王のひとり本多忠勝の女(むすめ)を正室にし、父と弟と袂を分かつなど、政治力のある人物でもあった。信濃松代藩10万石の藩祖であり、93歳まで生きたことで最後の戦国武将と呼ばれる

松平定知 (まつだいら・さだとも)
1944年、東京都生まれ。元NHK理事待遇アナウンサー。ニュース畑を十五年。そのほか「連想ゲーム」や「その時歴史が動いた」、「シリーズ世界遺産100」など。「NHKスペシャル」はキャスターやナレーションで100本以上担当。近年はTBSの「下町ロケット」のナレーションも。現在京都造形芸術大学教授、國學院大学客員教授。歴史に関する著書多数。徳川家康の異父弟である松平定勝が祖となる松平伊予松山藩久松松平家分家旗本の末裔でもある。

※『一城一話55の物語 戦国の名将、敗将、女たちに学ぶ』(講談社ビーシー/講談社)から転載

※トップ画像は「Webサイト 日本の城写真集」

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