両国『江戸蕎麦手打處 岩ぶち』 『岩ぶち』の夜は近所のお馴染みさんでにぎわっていた。手書きボードには本日のおすすめのつまみがズラリで、日本酒の揃えもセンス良し。居酒屋のような気取らない風情も心地いい。とは言っても店主は江…
伝統を大切にしつつ、自身の考えるおいしい蕎麦と酒肴を用意し、実に居心地の良い店を実現させた蕎麦屋の新店たちをご紹介します!
西荻窪『蕎麦カネイ』
艶やかなもり汁をまずは舐めてみてほしい。キリッと立った醤油の風味から、本枯節と昆布のどっしりとした旨みが広がり、頬の奥がキュッと引き締まる。その濃さは都内でもトップレベルだろう。
一方の蕎麦は甘皮ごと粗めに挽いて外一で打つ。穀物らしいふくよかな甘みにかすかな雑味も加わって、素朴な味わいがなんとも愛おしくなる。平日には産地や品種、挽き方違いの限定のざるもあり、食べ比べてみるのも楽しい。
さらに店は通し営業で、気の利いたつまみも昼から準備万端。蕎麦屋酒するならこんな店がいい。
入谷『蕎麦 ほしのま』
つまみはごく少数で酒は純米か本醸造。蕎麦もざるとかけに伝統的なタネ物が数種類と、どこか老舗のようなお品書きだ。店主は若いながらも「並木藪蕎麦」で十数年腕を磨いた職人と聞いて、その潔さの理由も腑に落ちた。
ざるは藪と言えばの辛汁で、3週間ほど寝かせたかえしによって、重厚かつ実にまろやか。十割の細打ちにした蕎麦は歯応えのあるコシが粋な風情ながらも、しっかりお腹を満たしてくれる飾らないボリュームにうれしくなる。
そこに毎朝豊洲に足を運んで目利きした穴子やエビの天ぷらを添えれば、旨さはさらに加速する。
浅草橋『手打ちそば 和仁』
書きを開けば旬の魚介の刺身に煮物や焼物が並び、隣の席のグループはホクホク顔で鍋を囲んでいる。和食も学んだ店主による料理は、どれも品のいい味わいで、割烹としても充分な実力にのけぞった。
加えて〆には絶対的エースの手打ち蕎麦が控えている。それもわざわざ3種類を打ち分けるのだ。二八はもっちりのど越し良く、十割は素朴な甘みにあふれ、丸抜きをコーヒーミルで挽いた粗挽きは香りが弾けるように広がっていく。
ここの料理と蕎麦を味わえば、どちらにも全力を注ぐ店主の真摯な仕事ぶりがしみじみ伝わってくるはずだ。
祖師ヶ谷大蔵『遊香里荘』
蕎麦好きな直樹さんと、日本酒好きな征樹さん。あまり似ていないけれど(?)れっきとした双子で、若かりし頃からの目標がふたりで店を開くことだったそうな。
さて、直樹さんが打つのはその時々で産地やブレンドを変えて味のブレなく仕上げた二八。モチッとしたコシと、なめらかなのど越しの素直な蕎麦だ。
日本酒の揃えは淡麗から濃醇まで幅広く。蕎麦屋王道のつまみから、アレンジを利かせた一品まで征樹さんがピタリと合わせてくれる。
阿吽の呼吸で切り盛りするふたりを眺めていると、なんだかいつもより杯が進む自分がそこにいるはず。
両国『江戸蕎麦手打處 岩ぶち』
『岩ぶち』の夜は近所のお馴染みさんでにぎわっていた。手書きボードには本日のおすすめのつまみがズラリで、日本酒の揃えもセンス良し。居酒屋のような気取らない風情も心地いい。とは言っても店主は江戸期創業の「あさだ」出身で、確かな技をさりげなく詰め込んでいる。
細すぎず、太すぎずのちょうどよい塩梅の蕎麦は、自身が惚れ込んだ赤城山麓産をブレンドし甘みと香りを引き出した。天ぷらは専門店顔負けのネタを揃えゴマ油の香りの衣で包み込む。
どれも実直な旨さに満ちていて、この先ずっと愛される町蕎麦になること間違いなしだ。
…つづく「東京のうまい 「東京老舗の「絶品そば」ベスト3店…のどごし最強クラスの絶品を《浅草・目白・小川町》で見つけた」では、あまたひしめくそば屋の中から、選りすぐりのお店を紹介します。
『おとなの週末』2022年1月号より(※本内容は発売時のものです)