「ぬる燗」「人肌燗」…日本酒は提供温度で呼び名が違う! 計10種類ある「温度」の魅力を調査 【祝】無形文化遺産登録!

常温で、冷やして、温めて、温めたものを冷やして、ロックで、ソーダなどで割って、さらに酒器の違いでも感じられる味わいの変化が楽しい日本酒。もちろん、種類によって向き不向きや好みはあれど、一つの液体でこれほどバラエティに富んだ飲み方ができるお酒はそうない。日本酒を美味しく飲むための一つの方法として、今回はお酒と温度の関係性について考えてみよう。およそ400種もの日本酒を揃え、多くの蔵元からも厚い信頼を寄せられている『朝日屋酒店』(東京都世田谷区)の店主・小澤和幸さんと、気軽な焼き鳥店ながら希少な日本酒を多く提供している『焼き鶏 青天上』(東京都杉並区)の店主・齋藤正浩さんに日本酒について聞いた。

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常温で、冷やして、温めて、温めたものを冷やして、ロックで、ソーダなどで割って、さらに酒器の違いでも感じられる味わいの変化が楽しい日本酒。もちろん、種類によって向き不向きや好みはあれど、一つの液体でこれほどバラエティに富んだ飲み方ができるお酒はそうない。日本酒を美味しく飲むための一つの方法として、今回はお酒と温度の関係性について考えてみよう。およそ400種もの日本酒を揃え、多くの蔵元からも厚い信頼を寄せられている『朝日屋酒店』(東京都世田谷区)の店主・小澤和幸さんと、気軽な焼き鳥店ながら希少な日本酒を多く提供している『焼き鶏 青天上』(東京都杉並区)の店主・齋藤正浩さんに日本酒について聞いた。

お酒の種類による、飲み方のおすすめは?

飲み方のバリエーションの広さが日本酒の一つの魅力だ。おすすめの飲み方について、お酒のプロたちはどう考えているのだろう。

『朝日屋酒店』の店主・小澤和幸さんは、「冷やしたり、常温だったりは一般的な飲み方ですよね。お燗には昔ながらの造り方をする生もと(※「もと」の漢字は酒編に「元」)や山廃(やまはい)が向いているとされます。原酒はロックで飲むのもいいですね。ソーダ割りにする場合、僕はお酒でお酒を仕込む甘いお酒・貴醸酒(きじょうしゅ)をおすすめしています。貴醸酒はお好みでチョコレートやアイスクリームにかけてもいいですよ」と教えてくれた。

生もとや山廃とは製造工程のこと。生もとは製造過程の途中で、米の糖化を早めるために原料をすり潰す「山おろし(もとすり)」と呼ばれる工程を施す。現在のような技術が発達する前、明治時代までは主流だった技法だ。

山廃は、この重労働だった山おろしを廃止した製法のこと。糖化力の強い麹や柔らかい酒米の登場など、技術革新の結晶なのだ。

生もと・山廃それぞれの味や香りの違いは諸説言われているので、ご自身の舌でぜひ飲み比べてみてほしい。そういえば、近年流行っている華やかなタイプの日本酒は、香りを逃さないワイングラスで提供するお店も増えていてそれも素敵だなと思っている次第だ。

日本酒は通常、割水(わりみず)という、アルコール度数と香味のバランスを整える工程を行い、15〜16%ほどに調整する。割水を行わないお酒のことを「原酒」と呼ぶ。小澤さんが原酒をロックでおすすめする理由に以下があるだろう。

世界でも珍しい「並行複発酵」

日本酒は「並行複発酵」という、糖化と発酵の2つの工程を同じ容器で同時に行う、世界でもまれな日本酒独自の醸造法のおかげで、高いアルコール度数となっている。ワインのアルコール度数は12%前後だが、日本酒は原酒の状態では18%前後。これは糖度の高い液体の中では糖の浸透圧が高すぎてしまうと、酵母が十分に活動できなくなるため。日本酒の場合は並行複発酵によって、糖分の供給が徐々に行われることで酵母の働きが活発になり高アルコール度数になるのだ。

割水も、一度も菌を抑制するための火入れもしていない生原酒は、仕込んだタンクそのままの味が楽しめる。フレッシュでパンチがあっていいよねぇ。

セオリーはあるが、好きな飲み方を見つけると楽しい

『焼き鶏 青天上』の店主・齋藤正浩さんは、「セオリーはもちろんありますが、基本は嗜好品なので好きに楽しんでいただくのがいちばんです。僕は生酒をちょっとだけお燗するのも好きなんです。常連さんの中には、濁り酒の上の層(上澄み部分)だけを好まれる方もいます。上の部分だけ飲んだらあとは振って混ぜて、“濁り”と一緒に飲まれます。もちろんそのボトルは、すべて飲んでいただくことになりますが」と笑う。

なおアルコール発酵したのち、お酒と酒粕などの固形物をさまざまな方法で搾って分離させる。“濁り”とはあえて目の粗い布などで搾り、固形分を多く残したもの。キレイなお酒も好きなのだが、濁りなどはお酒を丸ごといただけているような気になるから好きだ。この固形分を搾らずそのまま詰めたものは「どぶろく」に分類される。

しかし、“濁り”は思いのほか沈殿物が固まっていて、こんなに振って大丈夫?と不安になる時がある。

小澤さん:「振ってもらって大丈夫です。ただ、しっかり撹拌させるものでもないとは思いますが、実はそういう飲み方もあります。思いっきり振って分子の結合が崩れた時に飲むと、味が丸みを帯びるとされています。でも振ったことで空気が入り酸化して、どんどん悪くなっていくのであまりおすすめはできませんが、すぐ飲みきれる時に試してもらってもいいのではと思います」

“濁り”の上澄みだけとか、かなり振るとか、お酒のバランスや味わいが変わってしまうのではと心配になるが、試してみたい気持ちも。やっぱり日本酒って楽しいなぁ!

『朝日屋酒店』の小澤和幸さん(右)と『焼き鶏 青天上』の齋藤正浩さん

「お燗」で変わる味わいを楽しむ

冷酒や冷やと呼ばれる常温のままでいただくのも楽しいが、近年目覚めたのが熱燗の美味しさだ。提供される温度での名称はけっこう細かく設定されている。

【日本酒の提供温度と名称】
5度:雪冷え
10度:花冷え
15度:涼冷え
20度:常温
30度:日向燗
35度:人肌燗
40度:ぬる燗
45度:上燗
50度:熱燗
55度以上:飛び切り燗

お燗をすることによる、アルコール度数やアルコールの感じ方はどう変わるのだろうか。

小澤さん:「アルコール度数はそれほど変化しませんが、温度が異なることで味の感じ方が変わってきます。味噌汁でも温かく飲むのと冷たく飲むのでは、風味や塩みなどの感じ方が変わってくるのと一緒です」

齋藤さん:「お燗にすることの最大の特徴は、味わいや香りの広がり方が変わることだと思います」

小澤さん:「燗でも膨らみを求める方と、キレを求める方がいると思います。スパッと刺さるような辛口のお酒を燗にすると、ツンとしたアルコール臭を感じることもあります。昔ながらの造りの生もとや山廃は基本的にそれがなく、燗酒に向いています」

お燗と冷やでは味の感じ方がまるっきり変わる。熱燗にすることで硬かった酒質がふわりと開いていくこの経験はまさに燗酒の醍醐味だと思う。

ぜひ味や香りをしっかりと感じられる、浅く広い形をした平杯と呼ばれるお猪口で楽しんでみてほしい。

美味しく燗をつける方法

ただ、家で燗をつけるのが難しいと感じているのは確か。

小澤さん:「家だったら小さい鍋などに熱湯を張り、とっくりを入れて湯煎のようにすると2〜3分も経ったらぬる燗くらいになります。火にかけるわけではないので、ぬるめに感じるかもしれませんが、お燗したお酒の味を見るにはぬる燗がベストです」

朝日屋酒店で取り扱っている「燗たのし」という器具もおすすめ

齋藤さん:「うちも湯煎するタイプの器具を使っています。アルバイトも燗づけするので、スタッフのパフォーマンスを考えた結果です。お酒にもよりますが、基本的には提供時50度前後がいいと思っているので、湯は60度くらいで設定しています。注いでいる間にも温度は下がるので、気持ち熱めにしています。
実際には置いておくと温度帯も変わりますし、お客さまの好みもあるので、もっと温めてほしいなど、気軽にお伝えいただきたいですね」

気軽にお願いできるのはありがたい。そういえば、過去に「燗ざまし」と、わざわざお燗したお酒を冷ましてから提供してくれるお店もあったなぁと思い出した。

本当に日本酒の飲み方ってたくさんあってユニークだ。

「熱燗」は悪酔いしにくい?

小澤さん:「熱燗でよく言われるのが、悪酔いしにくいということです。熱燗は体温に近い温度なので吸収されやすく、酔いが回るのが早くなります。だからそれほど量を飲まなくてもすむと言われています」

確かに冷酒や冷やだと口当たりが良く飲みやすいので、あれこれ飲んでしまい気づくとかなり酔っている状態に陥りやすい気がする。熱燗でいただくことは、体にも家計にも優しくて、いいことづくめではないか。

無形文化遺産に登録された今がまさに今年の“日本酒はじめ”にピッタリ!

近年は蔵元の代替わりや杜氏の若返りなどで、ますます注目度が高まっている日本酒の世界。

自分の好みを見つけて、素敵な日本酒ライフを送ってほしい。

熱燗が美味しい季節になってきた!

参考資料:『新訂 日本酒の基 利酒師必携』(※本来は、口編に「利」)

■『朝日屋酒店』
1956年創業、日本酒は約400種類、焼酎は約200種類を並べる地酒専門店。キャッチコピーの「隠れた美酒・名酒を求めて…」の通り、日本酒通でなくても唸るような有名銘柄はもちろん、家族で酒造りをしているような小さな蔵元の酒なども取り揃えている。東京農業大学の醸造科で学ぶ蔵元の子息・息女が在学中には同店でアルバイトをするケースも多数。
まろやかな口当たりながら強い旨みとキレのよさも楽しめる食中酒にぴったりのオリジナル日本酒「竜巻」(720ml 1375円・1.8l 2801円)も展開。
東京農大の研究室との勉強会や全国の蔵元との利き酒会なども積極的に行っている。インスタライブも行っているので要チェック。

住所:東京都世田谷区赤堤1-14-13
電話番号:03-3324-1155
営業時間:10:00〜19:30
休:水曜
交通:小田急線豪徳寺駅・東急世田谷線山下駅から徒歩6分、小田急線共同駅から徒歩7分

■『焼き鶏 青天上』
2021年6月、系列店の3店舗目として西荻窪にオープン。さっぱりとしているのに味が濃い千葉県産の総州古白鶏を使った焼き鳥や刺身、一品料理などを提供する。2014年開店の焼き鳥がメインの1号店と、魚料理がメインで2015年オープンの2号店は、東京メトロ丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅からほど近く。西荻窪の店舗は南阿佐ヶ谷の両店のいいとこ取りをしたような構成。いずれの店舗も日本酒の品揃えに定評があり、メニューにはお酒の説明書きに加え、味わいのタイプ別一覧、料理との相性などを示しており選ぶときの参考にできるようになっている。『おとなの週末』本誌やテレビなどでも多数紹介。お酒の仕入れは朝日屋酒店などいくつかの酒店で行っている。

住所:東京都杉並区西荻南3-24-1
電話番号:03-6913-7719
営業時間:16:00〜0:00、土日祝15:00〜0:00
休:無休
交通:JR総武線西荻窪駅から徒歩2分

文・写真/市村幸妙

いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。

……つづく、日本酒の季節到来!プロが教える本当にうまい「新酒」の味わい方とは?

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