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常温で、冷やして、温めて、温めたものを冷やして、ロックで、ソーダなどで割って、さらに酒器の違いでも感じられる味わいの変化が楽しい日本酒。もちろん、種類によって向き不向きや好みはあれど、一つの液体でこれほどバラエティに富んだ飲み方ができるお酒はそうない。日本酒を美味しく飲むための一つの方法として、今回はお酒と温度の関係性について考えてみよう。およそ400種もの日本酒を揃え、多くの蔵元からも厚い信頼を寄せられている『朝日屋酒店』(東京都世田谷区)の店主・小澤和幸さんと、気軽な焼き鳥店ながら希少な日本酒を多く提供している『焼き鶏 青天上』(東京都杉並区)の店主・齋藤正浩さんに日本酒について聞いた。

お酒の種類による、飲み方のおすすめは?

飲み方のバリエーションの広さが日本酒の一つの魅力だ。おすすめの飲み方について、お酒のプロたちはどう考えているのだろう。

『朝日屋酒店』の店主・小澤和幸さんは、「冷やしたり、常温だったりは一般的な飲み方ですよね。お燗には昔ながらの造り方をする生もと(※「もと」の漢字は酒編に「元」)や山廃(やまはい)が向いているとされます。原酒はロックで飲むのもいいですね。ソーダ割りにする場合、僕はお酒でお酒を仕込む甘いお酒・貴醸酒(きじょうしゅ)をおすすめしています。貴醸酒はお好みでチョコレートやアイスクリームにかけてもいいですよ」と教えてくれた。

生もとや山廃とは製造工程のこと。生もとは製造過程の途中で、米の糖化を早めるために原料をすり潰す「山おろし(もとすり)」と呼ばれる工程を施す。現在のような技術が発達する前、明治時代までは主流だった技法だ。

山廃は、この重労働だった山おろしを廃止した製法のこと。糖化力の強い麹や柔らかい酒米の登場など、技術革新の結晶なのだ。

生もと・山廃それぞれの味や香りの違いは諸説言われているので、ご自身の舌でぜひ飲み比べてみてほしい。そういえば、近年流行っている華やかなタイプの日本酒は、香りを逃さないワイングラスで提供するお店も増えていてそれも素敵だなと思っている次第だ。

日本酒は通常、割水(わりみず)という、アルコール度数と香味のバランスを整える工程を行い、15〜16%ほどに調整する。割水を行わないお酒のことを「原酒」と呼ぶ。小澤さんが原酒をロックでおすすめする理由に以下があるだろう。

世界でも珍しい「並行複発酵」

日本酒は「並行複発酵」という、糖化と発酵の2つの工程を同じ容器で同時に行う、世界でもまれな日本酒独自の醸造法のおかげで、高いアルコール度数となっている。ワインのアルコール度数は12%前後だが、日本酒は原酒の状態では18%前後。これは糖度の高い液体の中では糖の浸透圧が高すぎてしまうと、酵母が十分に活動できなくなるため。日本酒の場合は並行複発酵によって、糖分の供給が徐々に行われることで酵母の働きが活発になり高アルコール度数になるのだ。

割水も、一度も菌を抑制するための火入れもしていない生原酒は、仕込んだタンクそのままの味が楽しめる。フレッシュでパンチがあっていいよねぇ。

セオリーはあるが、好きな飲み方を見つけると楽しい

『焼き鶏 青天上』の店主・齋藤正浩さんは、「セオリーはもちろんありますが、基本は嗜好品なので好きに楽しんでいただくのがいちばんです。僕は生酒をちょっとだけお燗するのも好きなんです。常連さんの中には、濁り酒の上の層(上澄み部分)だけを好まれる方もいます。上の部分だけ飲んだらあとは振って混ぜて、“濁り”と一緒に飲まれます。もちろんそのボトルは、すべて飲んでいただくことになりますが」と笑う。

なおアルコール発酵したのち、お酒と酒粕などの固形物をさまざまな方法で搾って分離させる。“濁り”とはあえて目の粗い布などで搾り、固形分を多く残したもの。キレイなお酒も好きなのだが、濁りなどはお酒を丸ごといただけているような気になるから好きだ。この固形分を搾らずそのまま詰めたものは「どぶろく」に分類される。

しかし、“濁り”は思いのほか沈殿物が固まっていて、こんなに振って大丈夫?と不安になる時がある。

小澤さん:「振ってもらって大丈夫です。ただ、しっかり撹拌させるものでもないとは思いますが、実はそういう飲み方もあります。思いっきり振って分子の結合が崩れた時に飲むと、味が丸みを帯びるとされています。でも振ったことで空気が入り酸化して、どんどん悪くなっていくのであまりおすすめはできませんが、すぐ飲みきれる時に試してもらってもいいのではと思います」

“濁り”の上澄みだけとか、かなり振るとか、お酒のバランスや味わいが変わってしまうのではと心配になるが、試してみたい気持ちも。やっぱり日本酒って楽しいなぁ!

『朝日屋酒店』の小澤和幸さん(右)と『焼き鶏 青天上』の齋藤正浩さん
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「お燗」で変わる味わいを楽しむ...
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この記事のライター

市村 幸妙
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