2024年12月5日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録が決まった「伝統的酒造り」。無形文化遺産とは、その国の歴史や文化、生活風習と密接に結びついた重要な文化のこと。今回認定された「伝統的酒造り」とは、麹を使って米や麦などの原料を発酵させ、日本酒や焼酎、泡盛、みりんなどを造る、日本古来の技術を指す。ここでは「伝統的酒造り」とは何か、とりわけ日本酒の魅力について考えてみたい。まさに新酒のシーズンが到来。新酒の魅力について、約400種もの日本酒を揃え、多くの蔵元からも厚い信頼を寄せられている『朝日屋酒店』(東京都世田谷区)の店主・小澤和幸さんと、気軽な焼き鳥店ながら希少な日本酒を多く提供している『焼き鶏 青天上』(東京都杉並区)の店主・齋藤正浩さんにお話を聞いた。
「麹」の力、「並行複発酵」…「伝統的酒造り」とは
「伝統的酒造り」とは、国内各地の気候風土を生かして発展した昔ながらの手作業で行われる酒造りのこと。
登録要件は、
・米などの原料を蒸すこと
・手作業で伝統的な麹菌を用いてバラ麹を製造すること
・並行複発酵を行っており、水以外の物品を添加しないこと 等
となっている。
今回は日本酒について考えてみたいと思う。日本酒とはそもそも、米と水のみを原料として、麹菌や酵母など微生物の働きを応用した発酵技術によって造られたもの。アルコール発酵するためには、酵母が糖分を分解することでアルコールと炭酸ガスに分かれる。日本酒の原料である米はデンプンは多いものの、糖類はほとんど含まれていない。そのため米のデンプンを麹菌によって糖化させる必要がある。
そのために行われるのが、蒸した米に麹菌を振りかけて繁殖させる「製麹(せいぎく)」。この工程により造られた米麹をバラバラにしたものが「バラ麹」と呼ばれる。酒蔵見学などでこれらの手作業を見たことがある方もいるのではないか。
ちなみに麹菌(Aspergillus oryzae=アスペルギルス・オリゼー)は、2006年10月12日に日本醸造学会大会により、日本の“国菌”に認定されている。日本酒や醤油、味噌などなど、日本の発酵文化にとって馴染み深いのが麹菌だ。
「並行複発酵」とは米、水、米麹、酵母の原料すべてを同じタンクに加え、糖化と発酵の2つの工程を同じ容器で同時に行う、世界でもまれな日本酒独自の醸造法のことをいう。
なお、ワインの原料であるブドウはもともと糖を持っているので、搾った液体に酵母を加えるとアルコール発酵が促される。これを「単発酵」という。
2013年に和食登録、これで計23件
日本政府は2021年にこの「伝統的酒造り」を国内の登録無形文化財に選定し、22年にはユネスコに無形文化遺産への登録を申請していた。
世界のお酒にまつわる無形文化遺産では、2013年登録の「古代グルジアの伝統的なクヴェヴリワイン製造方法(ジョージア)」、2016年登録の「ベルギーのビール文化」、2019年登録の「馬乳酒の伝統的な作り方と関連づいた慣習(モンゴル)」がある。
日本の無形登録文化遺産は、2008年の能楽や歌舞伎、人形浄瑠璃、2009年の雅楽やアイヌ古式舞踊など、これまで22件が登録されている。2013年に登録された和食については、大きく報じられたし、より身近に感じられるものだったこともあり、高い関心を持たれた方も多かったのではないだろうか。ちなみに、書道も無形登録文化遺産を目指している。