酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?女性杜氏から女性杜氏へ、珍しいバトンタッチ。しかし醸す酒は同じだ。料理と合わせておいしい純米の酒。ふたりと社長で酌み交わす席にお邪魔した。
画像ギャラリー酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?女性杜氏から女性杜氏へ、珍しいバトンタッチ。しかし醸す酒は同じだ。料理と合わせておいしい純米の酒。三重県伊賀市の『森喜(もりき)酒造』ふたりと社長で酌み交わす席にお邪魔した。
2016年、『森喜酒造株式会社』の杜氏に就任
豊本理恵さんは1980年、神奈川県生まれ。東京農業大学短期大学部醸造学科在学中に、蔵女性サミットで森喜酒造の蔵元・森喜るみ子さんと知り合う。2000年、卒業翌日に同社に入社し、住み込みで酒造りに取り組む。2016年、杜氏に就任。
日本酒は365日、2合ほど
「初めにビール。それから燗酒を1、2合酌む」と杜氏は言った。
森喜酒造の杜氏・豊本理恵さんだ。同蔵は蔵元である森喜英樹さん・るみ子さん夫妻と豊本さんが力を合わせ、三人四脚で理想の酒を追求している。
代表銘柄「るみ子の酒」は漫画「夏子の酒」の作者・尾瀬あきらさんとの交流から生まれた酒だ。豊本さんの名前を冠した「RIE STYLE」は、近年力を入れている山廃の特別純米酒。
「知り合いがイラストを描いたラベルをプレゼントしてくれたんです。そしたら、るみ子さんが『ほな、伊勢錦の山廃はRIE STYLEでどやろ?』と決めちゃって。ちょっと照れくさかったですね」と豊本さんは笑う。
20歳から住み込みの蔵人となった豊本さんは、3食を夫妻と共にし、夜な夜な盃を交わしてきた。蔵人の働き方が変わり、ひとり暮らしになってからも飲まない日はない。勉強も兼ね色々飲む。懇意にしている酒屋が一升瓶を6本見繕って届けてくれるそうだ。
よそのお酒を飲むことで、発見
「よそのお酒を飲むと、発見も多いですね。この前、『旭菊』の6号酵母を開けて放置しておいたら、瓶熟してさらにおいしくなってました。肴は適当です。ナスを炊いただけ、キュウリを塩揉みしただけ、それに焼き魚とか。日本酒がご飯代わりです」
今も昼ご飯はるみ子さんの手料理を囲む。仕事終わりには一緒に一杯やることも多い。
その晩、食卓にはタコの唐揚げ、サバの塩辛、牡蠣のオイル煮、菊芋の酒粕漬けが並んだ。豊本さんは頃合いを見て、電気ポットとチロリで燗をつける。あうんの呼吸だ。
「タコは私が大好きなんで、るみ子さんがよく芋と炊いたり、唐揚げにしてくれたり。タコみたいに素材の旨みが強いけど味の要素は少ない物と、うちのお酒のぬる燗は相性いいと思います」と豊本さんが言うと、「そやな。うなぎの白焼きなんかもええんちゃうやろか」と英樹さんが引き取る。「白焼きとワサビと粗塩で、それにうちの古酒の燗。あれはテッパンや」とるみ子さんが続ける。
四半世紀もの間、じっくりと熟成された3人の自然な空気感。それが最高のアテになっている。
酵母を添加せず、天然の乳酸菌と蔵付き酵母を取り込む「RIE STYLE」
『森喜酒造』は1893年創業。5代目の森喜るみ子氏が純米酒の酒造りに転換し、1998年から全量純米酒蔵に。無農薬での米作りにも取り組んでいる。2016年からは生もと、山廃の酒は酵母を添加せず、天然の乳酸菌と蔵付き酵母を取り込んで酒母を育てている。
【純米酒 るみ子の酒「秋のるみ子」】
【山廃特別純米酒 RIE STYLE】
撮影/松村隆史、取材/渡辺高
※2024年11月号発売時点の情報です。
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