ちかごろ『腸活』という言葉を聞くようになった。腸内細菌環境を意識して整えることで、睡眠の質を向上させたり、免疫力を向上させたり、メンタル面の安定まで図れるのだという。実際のところ、腸活とはどういうもので、どの程度に頼りになるものなのか、専門家に訊いてみた。【全2回】
画像ギャラリーちかごろ『腸活』という言葉を聞くようになった。腸内細菌環境を意識して整えることで、睡眠の質を向上させたり、免疫力を向上させたり、メンタル面の安定まで図れるのだという。実際のところ、腸活とはどういうもので、どの程度に頼りになるものなのか、専門家に訊いてみた。【全2回・前編】
適切な『腸活』で、便通がよくなり、睡眠の質や肌のハリにも改善が!
今回お尋ねしたのは、京都府立医科大学・大学院医学研究科・生体免疫栄養学講座、内藤裕二教授。専門は腸内微生物学、抗加齢医学、消化器病学で、この分野の専門家だ。『腸活』について、専門家の立場から整理・案内してもらった。
──内藤先生は『腸活』の具体例として『内藤式スペシャルスムージー』を提唱してらっしゃるそうですが、そのレシピと期待できる効果について教えてください。
内藤裕二教授/一日の始まりの朝に、食物繊維をしっかりとろうと考案したのが『内藤式スペシャルスムージー』のきっかけです。
『内藤式スペシャルスムージー』
・バナナ1/2本
・豆乳200ml
・はちみつ小さじ1杯
・緑茶青汁粉末3g
・グアー豆食物繊維(粉末の水溶性食物繊維)6g
これらをミキサーで混ぜることで、おいしいスムージーができあがります。腸内細菌のエサになるオリゴ糖や食物繊維をたっぷりとれるので、腸の活動を活発にして快便となるのに最適です。
朝食は私たちの体内時計を調節するのにたいへん重要です。規則正しく朝食を摂ることで、血糖値にもよい影響があり、おなかも空きにくくなるといわれています。材料のグアー豆食物繊維は顆粒で水に溶けやすく、不足しがちな食物繊維を手軽に補給することができるという特徴があります。
──聴き慣れない名称ですが、『グアー豆食物繊維』とはなんですか? 他の食物繊維となにが違うのですか?
内藤裕二教授/グア―豆食物繊維について簡単にご紹介すると、インド・パキスタンで生育する植物『グアー豆』から採れるグアーガムを酵素分解し低粘度化した植物由来の食物繊維です。
腸内細菌は食物繊維をエサとして発酵し、『短鎖脂肪酸』という全身に有益な効果をもたらす代謝物を生み出します。しかし食物繊維にもいろいろあり、ほとんど発酵しないものから高発酵性のものまでさまざまです。食物繊維が違えば発酵性も違うのです。
また、発酵の速度も重要な観点で、腸内で早く発酵が進んでしまうとガスの発生や下痢の原因になることが知られています。なじみが無いかもしれませんが、FODMAP(発酵性オリゴ糖など、小腸内で消化・吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖類の総称)と呼ばれる食品で注意が必要です。
『グア―豆食物繊維』は発酵性が高いことが示されており、腸内での短鎖脂肪酸の産生を促すことが期待できます。また、おなかの中で発酵がゆっくり進むことも特徴で、日本で初めてLow-FODMAP食品に認定されています。
発酵性の高い食物繊維でありながら発酵スピードがおだやかという特徴から、過剰なガスの発生などでお腹がゴロゴロしにくく、いろんな方が安心して使用できる食物繊維です。
便通に関してもユニークな特徴があり、便秘だけでなく軟便や下痢の改善に関する研究報告があり、正常な便性状(バナナ便)に近づけるのに有用であることが期待できます。
研究報告が多いという特徴もあり、近年では睡眠の質や肌のハリの改善効果に関する研究報告がありました。今後の研究の発展も楽しみです。
『腸活』がメンタル面に作用するというのはホント?
──食物繊維にも種類があり、そこまで特性に幅があるとは知りませんでした。摂取にあたり、なにか留意すべき点はありますか?
内藤裕二教授/現代の日本人は、平均して14~15gの食物繊維を一日に摂っていると推定されていますが、WHO(世界保健機関)は食物繊維を1日あたり25g摂取することを推奨しています。国が定めた基準では男性20g、女性18gが目安とされていますが、それでも現代人は食物繊維が不足しています。このギャップを埋める意味でも、一日の追加摂取量は5~10gが理想的だと考えています。
食物繊維は、摂取が途切れがちなタイミングで補うのがコツです。特に朝食など、なかなか十分に野菜がとりにくい方は、冒頭でご紹介したスムージーなどを用いて、意識して食物繊維を摂ることで腸内環境改善に繋がります。グア―豆食物繊維は水に溶かして手軽に摂取することができるので、忙しい方にも利用しやすいと思います」
──『腸活』がメンタル面に作用することはあるのですか?
内藤裕二教授/腸と脳の関係は腸-脳相関と呼ばれ、近年注目を集めています。ストレスなどにより自律神経のバランスが乱れると、排便のコントロールがうまくいかない原因になるほか、腸内細菌叢が乱れる原因ともなります。一方で腸内細菌の作る一部の代謝産物が私たちのメンタルの調節に有用とする報告もあり、腸と脳には密接な関係があることが示唆されています。
グア―豆食物繊維は臨床試験で『目覚めのすっきり感』や『起床時の疲労感』、『仕事や勉強に対するやる気』を改善したとする研究報告があり、腸内環境の改善との関連に注目しています。
…つづく:後編では、より深く『腸活』について解説してもらった。次回の更新をお待ちいただきたい。
内藤裕二/京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授
農林水産省農林水産技術会議委員
2025大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー
著書:『消化管(おなか)は泣いています』(ダイヤモンド社)、『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢〜基本知識から疾患研究、治療まで』(羊土社)、『酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる』(あさ出版)、『すごい腸とざんねんな脳』(統合法令出版)など多数
メディア出演:ヒューマニエンス、あさイチ、クローズアップ現代(NHK)、世界一受けたい授業(日テレ)など
文/深澤紳一(ふかさわ しんいち):PCゲーム雑誌から文芸誌、サブカルチャー誌まで幅広い寄稿歴をもつライター。レーシングスクールインストラクターなども務めつつ、飼犬のために日々働く愛犬家。
写真/太陽化学株式会社、Adobe Stock(アイキャッチ画像:photka@Adobe Stock)