自然が豊かな皇居には、春になるとふきのとうや蕨、つくし、よもぎや筍などがかわいらしい姿を見せる。緑の芽吹きのなかを散策される陛下や美智子さま、皇族の方々は摘み草を楽しまれる。たくさん摘まれた旬の食材は、他の宮家に「お福分け」されるという。それは幸福を分かち合うお気持ちの表れなのだ。そうして、皇居のお庭産の旬の味覚が食卓を彩る。今回は「お福分け」のお心を大切に、ひと工夫して調理したつくし料理の物語である。
幸せな気持ちを分かち合う「お福分け」
天皇家では、たくさんの美味しいいただきものがあったときには、「みなさんに『お福分け』いたしましょう」といって、他の宮家に届ける習慣があるという。
一般の「お裾分け」にあたるものだ。余り物を分けるというより、「幸せな気持ちを先に分かち合う」という、あたたかな響きの言葉である。
天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さまは、朝、御所のお庭をお歩きになる。つくしが芽を出し始めたころや、草イチゴの白い花が咲くころなど、おふたりが楽しみにされている季節のものがたくさんある。おふたりは、どこにどんな植物が生えていて、何が実っているのかをよくご存じなのだ。そうして、散歩のかたわらお庭産の旬を摘まれる。
「今、どの辺りにこんなものが生えていますよ」
と連絡が入ると、調理を担当する大膳が採りに向かう。陛下と美智子さまが御所にお招きになったお客さまを、お庭産の食材を使った料理でおもてなしされることもあった。
皇族の方々も、摘み草を楽しまれる。春先になると、それぞれの宮家から摘まれた旬のものが美智子さまのもとに「お福分け」として届く。ところが、しばしば旬のものは重なってしまうものだ。