福が集まったつくしのバターソテーを朝食に
ある春のこと、美智子さまの元にいくつかの宮家から「お福分け」のつくしがたくさん届いてしまった。せっかくの手摘みの旬の食材である。おいしく調理して食卓にのぼらせたい。
さて、どうしたものか。調理を担当する大膳は、考えた。つくしの調理法はそれほど多いわけではない。ふつう、はかまを取ったつくしは茹でてお浸しにしたり、和え物やつくだ煮にする。しかし、それだけでは物足りない。たくさんのつくしを飽きずに食べていただく工夫はないものか。
苦肉の策として思いついたのが、「つくしのバターソテー」だった。摘みたてのつくしを温野菜のように茹でて軽くバターで炒め、陛下(当時は皇太子殿下)と美智子さまのご朝食の料理としてお出ししたのである。つくしのほろ苦さが春の目覚めを感じさせる、おいしい一皿になったことだろう。
春ばかりではない。陛下と美智子さまは、カリンの実るころや銀杏の落ちる季節も楽しみにされていて、おふたりで摘まれるのはもちろん、職員とともに銀杏拾いを楽しまれることもあった。そうして、たくさん採れたものは「お福分け」される。
こうしたささやかなやり取りを、天皇家の方々は普通の日常として過ごされている。旬を楽しまれること、そして幸福をみんなで分かち合う習慣をごく自然にお持ちになっているのだろう。(連載「天皇家の食卓」第31回)
参考文献/『宮中 季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)、『皇太子同妃両殿下御歌集ともしび』(婦人画報社)、『殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして』(渡辺誠著、小学館文庫)、『皇后美智子さま 愛と喜びの御歌』(渡辺みどり著、講談社α文庫)
文/高木香織
たかぎ・かおり
出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。