古今東西、美味しいグルメを追い続けてきた、東の食のジャーナリストのマッキー牧元(まきもと)さんと、西のグルメ王の門上武司(かどかみ・たけし)さんが互いに「オススメの一皿」を持ち寄って紹介します。食の達人たちが織りなす“おいしい往復書簡”をどうぞお楽しみください。今回のお題は、イタリアから伝わり、日本で独自に進化を遂げ、長く愛されてきた「ペペロンチーノ」です。
本国イタリアとは違う日本のペペロンチーノ
日本ではペペロンチーノもお店の立派なメニューですが、本国イタリアでは家庭で食べるものという説も。そしてそもそもアーリオ・オーリオ(ニンニクとオリーブオイル)のソースが主体のパスタなので、ペペロンチーノ(唐辛子)は主役じゃないと。つまり“ペペロンチーノ”というメニュー名は存在しないのだとか……まじですかーーー???いや、しかしここは日本。しっかりそれで通用します。誰もが思い浮かべるあの味、です。
長い歴史を背負った懐かしさ漂う昭和の味わい@『六本木 シシリア』
【東のペペロンチーノ】
「シンプルなパスタですが、このボリュームはなかなかのもので、満足感も高い。ニンニクの香りや味わいも食べ進むうちどんどん変化して、最後はなぜか甘さすら感じる」(牧)
ペペロンチーノ1300円
門上さん。ペペロンチーノときましたか。今東京では様々なペペロンチーノが食べられますが、元来イタリアでは、レストランメニューに載せている店はなく、メインの後にもう少し食べたいという常連客が、特別に頼んで作ってもらっていたそうです。今回店はどこにするか考えあぐねましたが、古くからやられている『六本木シシリア』にしました。
創業は昭和29年ですから、まだアルデンテの概念も無かった時代です。東京では『ニコラス』『キャンティ』『アントニオ』しかイタリア料理店が無かった時代に誕生した店です。僕も今から50数年前に初めて行って、衝撃を受けました。
パスタは、おそらく乾麺で100gは使ったスパゲッティで、こんもりと盛られて出されます。麺はテカテカと光輝き、ニンニクと唐辛子の輪切りが点在する。口に運べば、まずオイルとニンニクの香りが広がり、噛んでいくと唐辛子の辛みが顔を出す。そこにほのかなアンチョビの練れた塩気がある。
バランスがよく、昭和的和風ですが、ニンニクも白い色のままで、キツネ色まで炒めていないのが、イタリア流でもあります。そしてどうしてだか、最後に残るオイルの中に浸かったパスタが、なぜか甘く感じる。そんな不思議さを持ったペペロンチーノなのです。どうです門上さん。昭和の哀愁を味わいに東京にいらっしゃいませんか。
[店名]『六本木 シシリア』
[住所]東京都港区六本木6-1-26六本木天城ビル地下1階
[電話]03-3405-4653
[営業時間]16時~23時、土・日・祝12時~22時
[休日]無休
[交通]地下鉄日比谷線ほか六本木駅3番出口から徒歩1分
マッキー牧元
自腹タベアルキストであり、コラムニスト。『味の手帖』主幹。また、東京・虎ノ門ヒルズにある飲食店街〈虎ノ門横丁〉のプロデュースを務めるなど、ますます多彩に活躍。