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どこに行っても山また山。北アルプスにぐるり囲まれた、人口約2万の小さな飛騨市。縄文人が暮らし飛騨の匠を生んだ豊かな森は今、宇宙物理学や石棒の聖地となった。けれど人の暮らしは今も変わらない。飾らず、気負わず、自然体。飛騨は遠い。それでも行くのだ。

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【白石あづさのワンダートリップ】日本全国の不思議な町を訪れる不定期連載の第一回は、岐阜県飛騨市へ。神岡のガッタンゴーや科学館、縄文人の愛した宮川、「飛騨の匠」の技術が光る古川を巡ります。

縄文人も愛した豊かな森と清き川「宮川町」

過疎地の町で縄文人の心に寄りそうアバンギャルドな博物館を見つけました

山また山、そして谷。神岡町から東の宮川町へと渓流沿いを車で走ると、急峻な山が眼前にグイグイと迫ってきた。ふと思い出したのは、アニメ映画『君の名は。』のワンシーン。そういえば、飛騨市はモデル地のひとつと言われているらしい。

『棚田と板倉の里 種蔵集落』縄文遺跡で有名な宮川町だけど、「群れる蔵」で知られた「種蔵集落」の散策もぜひ。街道から脇道を少し上がった高台にある

道の先に思ったよりも立派な『飛騨みやがわ考古民俗館』の白い建物が見えてきた。昔の農具や漁具、縄文時代の土器などがめいっぱい展示されているのだが、私のお目当ては「石棒」だ。縄文人が男根を模して作った石の作品である。えー、やだ、何かと思えば男根って……と引かないでほしい。

『飛騨みやがわ考古民俗館』。昔の山仕事や釣り道具なども興味深い

その魅力?正直に言おう、インスタ映えもせず装飾もなく地味である(そこがいい)。おまけに石棒自体は全国の縄文遺跡から出土するらしく、そう珍しくない。ではなぜはるばる東京から足を運ぶのかと問われると、宮川町は石棒ファンにとって日本最大の石棒の聖地だからだ。

通常、ひとつの縄文遺跡から多くても数本しか出ない石棒が、この博物館裏の遺跡からは千本以上も一気に発見された。澄んだ川には鮎、奥深い山では猪や鹿が獲れる自然豊かな宮川町は、縄文人にとって住みたい村ランキング上位の一等地だったに違いない。

館内の考古学ゾーンへ向かおう。縄文コーナーのセンター、お立ち台に立つのは高さ70センチほどの色違いのW石棒だ。ライトを浴びてグルグルと電動で回り続けている。その脇を固めるのは、ナマコやチンアナゴ型、さらにフランスパンや「ヤクルト1000」風と、シンプルだけど個性豊かな石棒ブラザーズたち。

『飛騨みやがわ考古民俗館』旧石器時代から昭和まで、考古・民俗資料合わせて5万点以上収蔵

子孫繁栄を願ったとも言われているが真実は分からない。けれど固い石を時間をかけて削って磨くのだから何か強い祈りを込めたのだろう。

実は知る人ぞ知る地下アイドル的な石棒が注目されたのはつい最近のことだ。こんな立派な博物館だが、数年前まで過疎で管理人不足のため年間30日しか開館できず、1年の来場者は約80人。県外はおろか市内の人すら不便だと足を運んでもらえない。

当時、担当になりたての学芸員三好さん、飛騨古川駅そばの町の施設を借りて、宮川のお宝を運び「石棒展」を開催。ところが入場者は予想をはるかに下回り、大ショック。藁をもつかむ思いで東京の人などに相談すると、そもそも石棒を誰も知らないのだと指摘され目が覚めた。そこで「石棒クラブ」を結成し会員を募ることに。三好さんは語る。

「会員さんとインスタで『1日1石棒』を始めました。5年間かけ約千本をUPし、今は『1日1削除』中。縄文人は完成した石棒をなぜか割っていた。私たちも失うことで縄文人の心を知りたいのです」。

インスタを通じて縄文人の気持ちに寄り添うという前代未聞のアプローチに私は思わず震えた。

さらに本物の石棒を触って当てる『石棒神経衰弱』や、石棒を語る『石棒ナイト』などの謎イベントを発表するといずれも大盛況。ついに国宝でもないのに、宮川の石棒が文化庁の雑誌『月刊文化財』の表紙を飾るという快挙?を成し遂げる。

うれしかったのは、石棒クッキーを焼く町の人が現れたり、宮川の小学生たちが博物館に関心を持ち、一日ガイドをしてみたいと申し出てくれたことだ。

石棒特需で来場者も10倍に。けれど、やみくもにお客を増やすのではなく、自宅にいながら楽しんでもらおうと、ネット上で展示物を見られる「バーチャル博物館」を公開。冬季休業に入る11月でもおかまいなしに「石棒強化月間」と称して、全国の石棒ファンと博物館の枠を超えて盛り上がる。予約制の無人開館も始まり、過疎地の博物館としての新しい可能性を模索しつつ、宮川と縄文の魅力を伝えている。

石棒強化月間2025チラシ

『棚田と板倉の里 種蔵集落』

縄文遺跡で有名な宮川町だけど、「群れる蔵」で知られた「種蔵集落」の散策もぜひ。街道から脇道を少し上がった高台にある。飢餓に備えて種を貯蔵した板倉(種蔵)は先祖の「家を壊しても倉は守れ」という教えのため今も現存している。棚田も美しい。

『棚田と板倉の里 種蔵集落』昔、飢餓から救ってくれた板倉は今日も群れてます

[名称]『棚田と板倉の里 種蔵集落』
[住所]岐阜県飛騨市宮川町種蔵
[交通]飛騨古川駅から車で40分
・駐車場あり

『飛騨みやがわ考古民俗館』

旧石器時代から昭和まで、考古・民俗資料合わせて5万点以上収蔵。昔の山仕事や釣り道具なども興味深い。11月は「石棒強化月間」開催中。オンラインや東京でのイベントも。詳細はHPで。

『飛騨みやがわ考古民俗館』

[施設名]『飛騨みやがわ考古民俗館』
[住所]岐阜県飛騨市宮川町塩屋104
[電話]0577-73-7496
[営業時間]9時~17時、4月~11月初旬開館(開館日年間約30日間+無人開館日約120日間、開館はHPで確認)
[料金]無料
[交通]飛騨古川駅から車で約40分
[HP]『飛騨みやがわ考古民俗館』https://www.city.hida.gifu.jp/soshiki/32/61468.html
[HP]『石棒クラブ』https://113www.sekiboclub.com/

写真・文/白石あづさ…大学卒業後、地域紙の記者を経て3年間の世界一周後フリーに。著書に『逃げ続けていたら世界一周していました』(岩波書店)、『中央アジア紀行』(辰巳出版)、『佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)ほか

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

※画像ギャラリーでは、宮川町の画像をご覧いただけます

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