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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「本場オクトーバーフェストでの苦い思い出」

ドイツ人の男性と日本人女性が食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともにお届け。妻がはじめて本場のオクトーバーフェストへおでかけ。でも、そこには悲しい現実が待っていました……(ふたりは主に英語で会話していますが、日本語に翻訳してお届けします)。

ミュンヘンが発祥の“ビールの祭典”

ミュンヘンに秋がやってきました。

となったら避けては通れないのが、「オクトーバーフェスト」の話題。
近ごろ日本でもさかんに開催されるようになった「オクトーバーフェスト」こと、飲めや歌えやのビールの祭典は、ここミュンヘンが発祥。
9月末から10月にかけての約2週間、このお祭り目当てに世界中から観光客も集まり、いつもは穏やかな街が3℃ほど体温を上げているみたいに感じます。
住民たちの間でも、「もう行った?」「まだなのよ~」なんて会話があちこちで交わされます。

その歴史、181年。
今年のデータを見ると、
最大1万人を収容できる巨大テントが14棟。
訪れた人の数、約630万人。
消費されたビールの量、約650万リッター。
みんなのお腹におさまったソーセージ、約20万本。
丸焼きになった牛、160頭。
警察が記録したケンカやスリ、救急搬送などのトラブル約2200回(!)。

数字を並べるだけでも、日本のものとはケタ違いなのがわかります。

今年の春からミュンヘン生活が始まった私にとっては、今回が初めてのオクトーバーフェスト。お祭り騒ぎはあまり得意ではないけれど、それなりにそわそわするものです。

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大混雑の会場で知った衝撃の事実

「ねえねえ、オクトーバーフェストどうする?」
「はぁ。またクレイジーな季節がやってきたねぇ。君、行きたいの?」
「そりゃあ、ね。なに、あなたは行きたくないわけ?」
「だってさぁ、酔っ払いが山ほどいるし、ビールも料理も高いし、ゴミだらけだし……」
と、ミュンヘン生まれミュンヘン育ちの夫はあまり楽しくなさそう。
実際、この時期を嫌い、街を“脱出”する地元民もいるといいます。

「でもね、やっぱりね」
期間中のとある祝日、一応行っておこうか、と出かけると決まったら、なんだか突然うきうきし始めた夫。
日本人がお祭りのときに浴衣を着るように、民族衣装のチェックのシャツやレーダーホーゼン(鹿皮のハーフパンツ)なんかをちゃっかり身に着け、ひとりで準備万端です。
(私も女性用衣装のセクシーなドレス・ディアンドルで……と言いたいところなのですが、夫のお古のレーダーホーゼンを着せられ、なんだか子どもみたいな変な格好)

祝日だったこともあり、会場は夏休みのディズニーランドも目じゃないくらいの人、人、人。まっすぐ歩くこともままなりません。
そして、肝心のビールが飲めるテントの前にはさらなる人だかり。テントにはしっかりと入場制限がかかり、中に入れなかった人たちが、4重5重になって羨まし気に中をのぞき込んでいます。

「あ~、こりゃダメだね。待ち時間3、4時間ってとこかな」
「えっ、ウソ! なに、ここまで来てあそこには入れないの?」
「無理無理! 個人客がテントに入りたかったら、朝イチで飛び込まなきゃ」
「えぇ~! じゃあなんで予約とかしてくれなかったのよ?」
「予約は長テーブル単位だから。小さいスペースを確保しておいてもらうことはできないんだよ」
「そんなぁ……! はじめからそう言ってよね~!」

ビールを「マス」と呼ばれる1リットルジョッキで飲む気満々だった私はすっかり意気消沈。
「じゃあもう帰る?」
とヘソを曲げると、夫は私の顔を覗き込んで、
「ビールだけがオクトーバーフェストだと思ったら大間違いだよ! ほら、あれに乗ろう!」
と、絶叫マシンのほうを指差しました。

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楽しいのが一転! 飲んでもないのに酔ってダウン

そう、いつもはがらんとした広場であるオクトーバーフェストの会場には、メインのテントのほか、数えきれないくらいのソーセージやスイーツの屋台、ゴーカートやメリーゴーランド、ジェットコースターといったアトラクションのたぐいがところ狭しと建設され、言わば巨大な移動遊園地と言ったところなのです。
どうやら、夫ははじめからこっちが目的だった様子。

日本の遊園地にはないようなレトロな「蚤のサーカス」や、機械を操作するおじさんが完全に見えているお化け屋敷、手動の観覧車など、懐かしくてどこか怪しい雰囲気のするアトラクションもあり、不思議な世界に迷い込んだような気持ちにもなります。

「絶叫マシンは嫌だ。私は蚤のサーカスが見たい。あと、あのちゃちなお化け屋敷も!」
始めはあまり乗り気ではなかった私も、久しぶりの“遊園地”に次第にうきうきとした気分になってきました。
「オクトーバーフェストにはこれがなきゃ!」と夫が言うゲブランテ・マンデル(ナッツの砂糖がけ)を買ってポリポリ食べ歩きながら、会場内をあっちこっち。
ハイスピードで回る観覧車に乗ってはしゃぎ、ポニーにまたがって頬を上気させる可愛らしい子供たちや、力自慢のハンマーを振り上げる男たちを眺め、熱々の焼きソーセージをぱくついて……気付けばビールのことなんか忘れて、すっかり童心に返ってしまった私たち。

しかし、
「ねえ、あれもオススメだよ! 僕の子供のころから毎年来てるんだ」
と夫にすすめられ、三半規管が弱い自分をすっかり忘れて、“回転系”の古い遊具に立て続けに乗ったのが失敗でした。

「気持ち悪い……吐きそう……」
視界はぐるぐる、胃はムカムカ。
風に当たっていてもちっともよくならず、指先冷たく、顔色は真っ白(鏡を見なくてもわかります)、ついには会場のはじに座り込んでしまいました。

はたから見れば、ビールを飲み過ぎてダウンした残念なアジア人だったでしょう。
「いえいえ、違うんです。ビールは1滴も飲んでないんです」と言ったら、どんな顔をされたでしょうか。
自分のことながら、ほとほと情けなくなります。

そして、「もううちに帰る……」。
おろおろする夫の手にぶら下がりながら、陽気な酔っ払いたちをかきわけ会場を後にしたのでした。
(帰宅途中で復調し、ビアガーデンに行って1杯飲めたのがせめてもの救いです。来年こそは……!)

イラスト/なをこ

●文:溝口シュテルツ真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)/
1982年生まれ、石川県加賀市出身。編集者。週刊誌編集、グルメ誌編集を経て、現在はドイツ人の夫とともにミュンヘン在住。ドイツを中心に、ヨーロッパの暮らし、旅情報などを発信中。私生活ではドイツ語習得、新妻仕事に四苦八苦する日々を送っている。

2014年10月12日公開

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