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カキが旨いである。ジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。
そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く！』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。
「カキをもっと知りたい！」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。
世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。
連載9回「日本のカキ王「宮城新昌」とは何者か…？マッカーサーが注目した、日本の「旨いカキ」を作った男の仰天ヒストリー」にひきつづき、アメリカワシントン州シアトルの汽水域で育つオリンピアガキを訪ねる旅。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
オリンピアガキの味
ちなみにシアトルとは、歴史的に有名な大首長のチーフ・シアトルから名付けられたそうです。シアトルといえば、野球選手のイチロー。そして宮城県出身の大魔神、佐々木主浩が属していたマリナーズの本拠地です。2人ともカキが大好きで、カキの栄養であるグリコーゲンが活躍の源だったのです。アメリカでは、カキの養殖漁民は「オイスターマン」と呼ばれ、社会的に認められた職業だそうです。
シアトル・タコマ空港から小一時間ほどで、ワシントン州都オリンピアに到着しました。アメリカ合衆国議会議事堂を小さくしたような建物も見えます。
「これだけ産物が集まっていれば、水産物もあるはずだ」
と勘を働かせていると、白い前掛けをした売り子が派手なジェスチャーで、「オイスター、オイスター」と声を張り上げていました。時は8月、真夏にカキ？ と思われるかもしれませんが、アメリカ西海岸北部は寒流が支配する海なのです。そういえば、さっき来る途中、アザラシが岩の上で昼寝していたのを思い出しました。
この地で売られているのは、おもにマガキです。約100年前、宮城新昌が宮城県から移植した種です。この種は水温が上がる夏に抱卵するのです。抱卵すると身がドロドロして、味が極端に落ちるのです。しかし、ここは水温が低いので抱卵せず、夏でもおいしいのです。日本から渡った種ですが、パシフィック・オイスター（太平洋ガキ）と表示されていました。
殻の大きさは日本で販売されているものの3分の1ほどですが、カップ（身の入っているほうの殻）が深く形がそろっています。殻の下側に小さなフジツボがついていました。1つ開けて食べさせてもらうと、塩っ辛さがほとんどありません。これは養殖されている海域の塩分の濃度がかなり薄いことを意味しています。文字通り、汽水域の産物なのです。真夏だというのに、まったく抱卵していない。それは、天然ではカキの種苗がとれないことを意味します。
宮城新昌はそのことをちゃんと観察していました。カキの種苗が売れ続けることを見抜いていたのです。新昌は事業家としても優れた才覚の持ち主でした。
