三軒茶屋の三角地帯をグルメライターが食べ歩いて見つけたおすすめ店のご紹介。赤提灯が重なり、個性派の店が密集する路地裏……大山道(現・玉川通り)と登戸道(現・世田谷通り)の分岐点エリアは、通称「三角地帯」と呼ばれる。世田谷区のもう一つの顔、昭和が色濃く残る飲み屋街のディープな懐の名店をご紹介。
画像ギャラリー自分好みの宝を探し出せ!三軒茶屋・三角地帯グルメ探検
三軒茶屋のこの場所は、通称「三角地帯」と呼ばれる。世田谷区のもう一つの顔、昭和が色濃く残る飲み屋街のディープな懐の名店をご紹介。
ちさとちゃん
〆にガツンと掻っ込みたい!ド迫力の土手飯
カウンター越しの鍋でくつくつとたっぷり煮込まれているのは、1本から注文できる名物のどて串。味噌ダレは塩分が少なめの白味噌に、水・ザラメ・黒糖を加えたもの。甘すぎずクドすぎず、鍋に毎日継ぎ足されていくので旨みが濃縮している。どて飯は串から外した牛すじを白米にどーんと乗せたシンプルな一品で、呑みの〆にスプーンでわしわしと口に運びたい。お通しは単品注文でも人気の「もつ煮込み」。気軽に立ち寄りやすく、店主の温かい人柄もあって、会話も弾む店だ。
写真:やかんビール490円、どて焼き1本150円
生ビールをやかんにたっぷりと入れて出すのがちさとちゃん式。ビールがぬるくなりにくいのだとか。どて串のコクに、酒もどんどん進む
店舗情報
[お店から一言]
新鮮な刺身にも自信アリます。
店主・平野雅史さん
日本酒専門店 采
ツウな日本酒を純米から大吟醸までワンコインで楽しめる
置いてある日本酒は約60種類と多岐にわたるが、純米から大吟醸までどれを選んでもコップ1杯(約半合)500円。量販店ではなかなか手に入りにくい酒が全国各地から集まっている。何を飲もうか目移りするが、酒の味わいに合わせた銘柄案内が店内の黒板に書いてあるので参考にすると◎。肴は手作りの惣菜から刺身、肉、野菜、珍味までほぼ何でもそろう。自分の気分にとことん合わせた酒と肴の組み合わせに出合える店だ。
写真:お1人様来店限定おつまみ盛り 800円
入ってすぐに出される定番お通しのお粥。1軒目でもハシゴのあとの来店でも、ほんのり温かい汁気で胃が優しく落ち着く。鶏出汁がベースだが、味やトッピングは日替わり
写真:上・夏野菜のトマト煮450円、下・鴨ロースたたき600円
シンプルなようでいてひと手間かかった、味わい深い肴が並ぶ
店舗情報
[お店から一言]
毎日通うお客様もいらっしゃいます。
店主・三輪英司さん
ラムジンギスカン 羊々
“コの字”カウンターで味わう柔らかジンギスカン
カウンターを陣取るのは5台のジンギスカン鍋。10人入れば満員の店内だが、窮屈ではない。最初の注文は必ずラムともやしの「ジンギスカンスタートセット」(860円)から。あとはマトンでもロールでも自由に注文可。羊肉専門の卸からチルドで届くため、ドリップが少なく、肉に旨みが残る。飲まずにご飯と食べて帰る「夕飯型ひとり客」も多いとか。
写真:ジンギスカン ラム(中)710円〜
柔らかいラムに店内ではお替わり続出。羊肉の香りが残るマトン、ロールも人気。野菜は各種240円
写真:ジンしめの焼きうどん290円
肉・野菜を全部焼いたあとに食べる「ジンしめの焼きうどん」(290円)。すべて焼き終わった鍋の上でタレとドライガーリックを混ぜ、スパイシーに焼き上げる
店舗情報
[お店から一言]
ひとりジンギスカンも大歓迎です!
店主・小梨治さん
薬酒Bar
ハーブや漢方を漬けた“薬酒”専門の小さなバー。ウコンやショウガなど40〜50種の自家製リキュールが常備され、炭酸と合わせたり、ロックで楽しめる。漢方の五加皮を漬けたウイスキー(写真左)は他にはない苦味で人気。工場産のリキュールとは違い、香りに立体感があり、酒に対する新しい感覚が開くはず。男性客が5 〜6割で、三角地帯で11年続く隠れた繁盛店だ。
店舗情報
[お店から一言]
悪酔いしないお酒がたくさんありますよ♪
店主 花村奈々子さん
なかみち 名西酒蔵
徳島の素材を活かした料理・酒が中心の店で、看板メニューはすだちを搾り阿波九条葱を散らしたカルパッチョ。残ったネギは味付け海苔と合わせて食べるので、最後まで旨い。
店舗情報
和音人 月山
串焼きを中心に、都市部ではあまり知られていない山形の肉・野菜・酒をたっぷりと提供する。特に山形県河北町の黒毛和牛「千せん日にち和牛」は舌の上でとろける柔らかさだ。
店舗情報
再開発前に行くべし! 迷宮・三角地帯の妙
三軒茶屋、通称“サンチャ”といえば、「こだわりカフェが多い」「キレイめ世田谷区の代表地域」……といった印象があるだろう。しかし世田谷通りと玉川通り(国道246号)に挟まれた「三角地帯」と呼ばれるエリアへ足を踏み入れると、イメージは一転するはず。かつての大山道の分岐点に位置し、終戦後のヤミ市が発祥という三角地帯は、足場もデコボコの細い路地が交差しまくり、古い建物が多い居酒屋密集地なのだ。
ボロボロのトタン板に囲まれた古い銭湯が残っていたり、長屋のような建物に小さな店が肩を寄せ集まっていたりと、「よくぞ21世紀まで残っていてくれた!」と声をかけたくなるような街並みが広がる。細い道にある店は一見が入りにくい雰囲気があるかもしれないが、一見お断りの店はそのようにわざわざ張り紙をしているくらいで、基本的に排他的な居酒屋は少ない。『ちさとちゃん』『采』『羊々』は“ゆうらく通り”と呼ばれる道に並ぶ。個性的な居酒屋がシノギを削る三角地帯の中、店の売り(どて焼き、日本酒、ジンギスカン)を打ち出しつつ、味と接客性の高さで群を抜いていた。
また『なかみち 名西酒蔵』がある“なかみち通り”は、三角地帯の二辺を結ぶ道。この道から横に延びた場所にも飲み屋が散らばっている。小さい店が多く、ひとりかふたりで、ハシゴ酒前提で出かけるのもいい。狭い道を探検気分で歩き、お気に入りの店を探すのも一興だ。
ヤミ市のバラック発祥から考えると約70年もの歴史がある三角地帯だが、残念なことにオリンピック開催を前に再開発計画が浮上している。迷宮のように入り組んだ小路の魅力を存分に味わうなら、本当に今しかない。新宿・ゴールデン街よりもしっかりとした酒肴を楽しめ、同じく新宿・思い出横丁ほど騒がしくない。若い客が増えたようだが、大手資本が入る画一的な商業施設に飽きている人も多いのかもしれない。今、都内で最も行くべき「消えゆく昭和系路地裏酒場」のひとつである。
三軒茶屋・三角地帯グルメMAP
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