シャバシャバなカレーに心奪われた、若き日の思い出
新宿紀伊國屋ビルの地下に佇む『モンスナック』。
私、ライターの市村にとっては、カレーについていろいろ考えさせられた”恩店“とも言える存在だ。初めて食べたときの衝撃は今でも忘れられない。
紀伊國屋書店に行くたびに気になりつつも、カウンターでただひたすらに食べる人々、ズラリと並ぶ有名人のサインなどを目の前にすると、なんとなく「入れない……」と感じていた若かりし頃。
20歳で行きつけのバーができ、立ち食いそば店や焼肉店などにひとりでも入れたが、ここだけはなぜか『ラーメン二郎』に行くよりもハードルが高かったのだ。
転機は勤めていた出版社を辞めた30歳のとき。フリーランスで働くことを決め、紀伊國屋書店へ資料を買い出しに行った際、思い切って入ってみたのだ。
とろりとしたカレーやキーマカレー、あとはドライカレーくらいしか知らなかった私にとって、初めてのシャバシャバカレー体験。……それは驚きの連続だった。
サラサラなのにコクがある。具材があまり入っていないのに複雑味がある。ルウが多そうに見えるが、ご飯とのバランスがちょうど良い塩梅になっている。
そして何より美味しいのだ。
そんな恩店『モンスナック』が閉店するというショッキングなニュースが入ってきた‼
ご主人の矢吹雄一郎さんに7月15日の閉店について伺うと、
「前回の東京オリンピックの年に創業し、二度目のオリンピックを迎えることができるかと喜んでいましたが、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、延期。オリンピックを迎えることなく、ビルの耐震補強工事のため、一時休業を余儀なくされてしまいました。
残念ではありますが、これもお客様の安全安心のためと思い、今は営業できる残された日を大切に過ごしていこうと従業員一同、がんばっています」と教えてくれた。
……一時休業。閉店ではなかった。ちょっとホッとした。
カツカレーを食べて気付かされたこと
閉店の経緯の流れから、シャバシャバカレー誕生について話してくれた。
「お店は知人からの紹介で私の祖母が店主となりました。ある日、洋食のコック経験がある方から、こういうカレーは食べやすくて美味しいのではないかと提案していただき、現在と同じシャバシャバなカレーが生まれました。
当時のメニューは『ポークカレー』のみ。大盛もなく、お客様の中には1杯百数十円のカレーを2杯食べられる方や1階通路から美味しそうな匂いを辿って地下に降りて来られた方など、様々なエピソードがあったようです。
やはり当初からお客様に一番言われるのは、このシャバシャバなルウは何口か食べるうちにクセになるということ。この唯一無二なカレーが今日まで続けてこられた最大の理由です」
現在は各地でシャバシャバカレーが定着しているが、今から50年以上前にこのカレーを生み出していたというのがとにかくすごい!
当時は今のようにコンビニも、もちろんインターネットもない時代。半世紀以上に渡り愛されるカレーは、熱心なファンに支えられてここまで受け継がれているのだとしみじみ感動してしまった。
なお、現在は14種類のカレーメニューがあり、トッピングやセットなども充実している。
「創業当時を知るお客様は『ポークカレー』を懐かしみつつ召し上がられます。ちなみに現在の1番人気は揚げたての『カツカレー』で、若い方や女性にも人気です」(矢吹さん)
記事冒頭に書いた、『モンスナック』で考えさせられたというのが、美味なるシャバシャバのほかに、この「カツカレー」の”カツの厚み“。
カツは薄いほうがカレーとのバランスがいいということに気づいたのだ。スープのようにサラリとしたカレーに、揚げたてサクサクのカツが実に合う。
カツが1cmほどの厚みがあるものだったら、カレーがソース的になりすぎる、カツのためのカレーになっていたのではないか。が、こちらは5mm程度と薄めなので、カレーはカツの“ソース”として、カツはカレーの具材の1種として、絶妙のバランスに仕上がっている! それから私は「カツカレー」のカツは厚すぎないほうが好きになりました。
原稿を書いていたら、久しぶりに食べたくて仕方なくなり、『モンスナック』へ行ってみた。
「カツカレー」を食して実感!
2021年6月12日(土)のお昼。閉店を知ったファンで行列ができていた。「ありがたいことに、昨今のSNSなどの効果もあり、閉店を悲しんでいる間もなく忙しい日々が続いております」と矢吹さんが言っていた通りだ。
11時35分頃の到着で14人の並び。私の後ろにも続々と列ができていく。でも列から抜けている人もいるし、みんな黙々と食べているので、回転は想像以上に早いのでご安心を。11時50分過ぎには入店でき、「カツカレー」をオーダー。
サクサクに揚げられたカツの存在感と脂身がとろとろのポーク、ルウの中には具材らしいものはあまり見当たらず、とろけた玉ネギとカボチャがなんとなく確認できるくらい。
そのルウは、野菜で甘みとまろやかさを与え、フルーツチャツネを加えることで、ほんのりとした酸味と甘みを感じる。さらに肉などの旨みが重なって、コクと深い味わいを生み出しているのだ。口に残る余韻も心地よい。
と、悦に浸っている間にふと思う。また「カツカレー」を頼んでしまった。食べたいのは間違いなかったが、「カレーバターライス」など、気になる未食のメニューがまだまだあったのだ。うーん、あと何回来られるだろうか。
なお、矢吹さんに今後の予定について伺うと、
「工期が約1年半近くと長いため、他の場所での出店も検討しています。工事終了後も再開できるように紀伊國屋書店に申し入れはしております」とのこと。
とはいえ、食べ終わったそばからまた食べたくなる不思議な魅力をもったこのカレー。趣のあるこの店舗でいただける7月15日まで、油断していたらあっという間だ。みなさまもお早めにぜひ!!
[住所]東京都新宿区新宿3-17-7 紀ノ国屋ビル地下1階
[電話]03-3352-3052
[営業時間]11時〜20時
[交通]地下鉄丸ノ内線ほか新宿三丁目駅B7出口直結
https://www.monsnack.com/
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。