女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう?その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。今回は、2017年に東京・新宿区で開業した日本料理を提供するお店『燗コーヒー 藤々』の藤極由衣さんです。
自由な父の冗談みたいな願望を夫婦で実現
夫を今も「藤さん」と呼ぶのは、最初の呼び方を変えられない性分だから。
藤極(ふじきわ)由衣さんと藤川武志さんが結婚して、『燗コーヒー 藤々(ふじふじ)』。店の物件は、元スナック「藤」。
「荒木町って偶然、父が若い頃に暮らしていた街みたい」
フリーカメラマンにしてドラムも叩く、料理上手な父。忙しく働く母の留守番で一緒にご飯を作り、親父バンドにも女子小学生が、大きなベースを与えられ放り込まれる。コーヒーは、自由な父の冗談みたいな願望だった。“将来は喫茶店を開いて、俺をレジ係で雇ってくれよ”
20歳になった由衣さんは喫茶店で3年働き、より深く学ぶため焙煎工房を持つ岐阜の店へ。父の余命を聞いたのは、半年後だ。東京の実家へ戻り、父を見送るとすべての気力を失っていた。毎日、犬の散歩とスーパーだけ。
「私の生活にずっといたので、当時の記憶があまりない。母に“そろそろ働いたら?”と言われて、確かに、と。昔習った着付けを活かしたくて、京懐石店に勤めました」
再起動まで、1年弱。だが本来の彼女は、おそらく父譲りの多趣味、母譲りの行動派である。子どもの頃から「古い建物や文化が好きで」小・中学校では茶道部を創設。3歳からピアノ、小学生でベース、高校時代は軽音楽部に所属して同世代とのバンド活動もした。
絵を描くこと、食べること飲むことも好き。かつてワイン会に酒蔵見学にと好奇心旺盛だった、自分らしい自分を少しずつ取り戻す。
武志さんとの出会いは、レゲエと日本酒のイベントだった。お互い十分に酔っていて、初対面で大喧嘩。かろうじて翌朝、彼のワイシャツにはピンクの蛍光ペンでメールアドレスが残されており、解読して由衣さんへ連絡成功。お詫びの日本酒をご馳走したから、今ここがある。
『燗コーヒー 藤々』は、武志さんの一品料理と日本酒を自由に選べるが、悩める数の品書きから選び出すには由衣さんの采配が必要だ。で、締めには彼女のコーヒーを。一度は途切れたコーヒーの道が、ぐるりと回り着地した。
ちなみに武志さん、プロポーズは「藤さんが藤さんに富士山で」と企て富士登山に誘ったら、マチュピチュを望むワイナピチュ山に登ったばかりと断られて作戦変更。世界遺産巡りもまた、古きに惹かれる彼女の趣味だった。





