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若き日の失恋に重なる「DOWNTOWN BOY」

「DOWNTOWN BOY」は、名作の多いユーミンのアルバムの中でも、とりわけ人気の高い『NO SIDE』(1984年)に収められている。いわゆるお嬢さんが、ちょっと不良っぽい“DOWNTOWN”の男の子に恋した思い出だ。多分、その恋に反対したのだろう家族の中の兄は、彼からの電話さえ、取り次いでくれない。そんな恋もいつか忘れられない思い出になってしまう。二人が愛を誓いあった工場跡の夕陽の空き地には、今ではビルが建っている。そんなストーリーだ。

この曲を好きになったのは、10代終わりの自分と重ね合わせたからだ。3歳年上のその頃のぼくの彼女は、高級住宅街に住み、まだ1960年代、マイカーが珍しかった時代に自分の車を持っていた。ぼくの恋は彼女の家族の大反対にあった。結果、彼女はアメリカに留学させられ、恋は強制的に終わらされた。

「DOWNTOWN BOY」を初めて聴いた時、まるで自分の若き日の失恋が歌われているように思えた。ユーミンの楽曲のストーリーには、ああ、自分もそうだったと思われる方も多いと推測している

愛し合う人間の宿命を描いた「Now Is On」

これまでの2曲ほど有名ではないが、アルバム『FROZEN ROSES』(1999年)の「Now Is On」も忘れられない1曲だ。ある恋の真っ最中、ふと、ふたりはずっとここにいられないから貴方を心に焼きつけておこうと思ってしまう。恋をして、愛し合っているから別れるのが恐い、そんな感情は誰でも持ちがちだ。

ストーリー構成はシンプルだ。少々、深読みになるかも知れないが、ユーミンはこの曲を別れ~死に結びつけていると思ってしまう。どんなに愛しあっていても、ふたりはずっとここにはいられない。恋が成就しても、いつかは死がふたりを引き離してしまう。これは愛し合う人間の宿命を描いている。ぼくはそう解釈し、だから、この曲が好きなのだ。

ユーミンの曲を愛している人は、誰もがその曲を自分の思いと重ね合わせる。そして、自分のストーリー~人生にその曲を取り入れてゆく。そこが、そうさせてしまうのがユーミンの凄さだと思う。

2012年発売の『日本の恋と、ユーミンと。』は、デビュー40周年記念ベストアルバム

岩田由記夫

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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