京都市内だけを巡って、帰路に着いていたあなたへ。古都の北と南、千年の都を支えてきた山々と川の向こうには、さらなる美味と豊かな自然、悠久の歴史が眠っています。新たな京都と出会いに、いざ森の京都、お茶の京都、海の京都へ。 今回のテーマは、「海の京都」後編です。意外にもあまり知られていない海の京都は、歴史ある佇まいと良港が育む美食が自慢の地。知られざる京を求めて、いざ。
画像ギャラリー日本でここにしかない舟屋とその穏やかな時間
舞鶴から宮津を経て、天橋立を右手に見るように海沿いの道を車で1時間強。丹後半島を北上していくとやがて伊根湾に到達する。そこに待ち受ける景観は、日本中探してもここにしかない。「伊根の舟屋群」だ。
舟屋とは、水際に接するように建ち、1階が船のガレージ、2階が居室となった伝統的な漁師の家屋だ。湾の周囲約5kmに230軒ほどが所狭しと並ぶ。
伊根湾は北と東西の三方を水辺ぎりぎりまで山に囲まれ、南には防波堤のように青島という小さな島がある。そのため年間を通して水面は穏やか。そして昔から豊かな漁場である。その独特の条件が、この景観と漁を中心とした人々の生活スタイルを生み出したというわけだ。
舟屋と山側にある母屋の間の道を、どこか懐かしい気持ちで歩きながらまず伺ったのが『向井酒造』だ。江戸時代から続く“日本で一番海に近い酒蔵”。
「料理にさわりなく、体にすっと染み込むような酒を」と語るのは、女性杜氏の向井久仁子さん。地元伊根や京都府産の、顔の見える農家さんの酒米を主体に造られた酒が素朴に旨い。伊根自慢の魚介との相性はあえていうまでもないだろう。
伊根で生まれ育ち、京都で30年、地元の有名旅館でも料理長を務めて来た大将、市井八州司さんが昨年10月に開店したのが『鮨いちい』だ。伊根漁港の浜売りで揚がったばかりの魚を目利きして旬の魚を握る。
味の決め手のひとつは“塩”。「丹後の海水からここで焼いて作る」塩が、魚そのままの味を引き出す。
「舟屋の正面玄関は海側ですから」と案内してくれたのは、小型遊覧船ハービーの鍵海斗さん。大型の遊覧船もいいが、小型の海上タクシーで歴史や景観の細やかな説明を聞きながら湾を巡るのも、実にいいものだ。
もうひとつおすすめなのが、伊根町が整備・民間運営している施設“舟屋日和”。ここでは伊根湾の移ろいゆく景色を眺めつつ、ゆったりと過ごせる。
その施設内にある『海宮』は、お造りから煮魚、焼魚、揚げ物、寿司まで、伊根でその日に水揚げされた魚や朝採れの農産物を堪能できる。地産地消の豊かさを感じながら、伊根に流れる穏やかな時間を満喫できるはずだ。
伊根の舟屋/伊根町
[住所]京都府与謝郡伊根町字平田77
向井酒造/伊根町
[住所]京都府与謝郡伊根町平田67
[電話]0772-32-0003
[営業時間]9時〜17時(12時〜13時は昼休み)
[休日]木
[交通]丹後海陸交通バス・平田下車徒歩1分
鮨いちい/伊根町
[住所]京都府与謝郡伊根町日出116-4
[電話]090-5155-5621
[営業時間]17時〜22時(21時半LO)
[休日]木・日
[交通]バス停日出小坪下車徒歩1分
鮨割烹 海宮(わだつみ)/伊根町
[住所]京都府与謝郡伊根町平田593-1
[電話]0772-32-1710
[営業時間]11時半〜14時半、17時〜21時半
[休日]水
[交通]バス停伊根下車徒歩7分
撮影/鵜澤昭彦、s.Fukuda(『鮨いちい』料理)、取材/池田一郎
※データは、2022年4月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
画像ギャラリー