チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。みなさん、学生時代によく食べた料理をまた食べたいと思ったことはありますか? でも、その店はもうない。もしそれに似た味に出合ったら? そんなチャーラーのお話です。
画像ギャラリーチャーラーとは、故・林家こん平師匠が挨拶に締めくくる「チャラーン♪」ではない(笑)。あらためて説明すると、中華料理店やラーメン店で出される定番の中華定食、チャーハンとラーメンのセットを意味する。
生まれも育ちも愛知県の私は当たり前のように使っていたが、この呼び方は東海地方限定らしい。関東や関西では「半チャンセット」や「ラーチャン」と呼ばれているという。
「半チャン」はハーフサイズのチャーハンという意味だろうが、店によってはフルサイズのチャーハンが付くこともある。いや、そもそも「チャン」ってナニ? そう考えると、チャーラーという呼び名がいちばんしっくりとくる。そう思わないか?
ボリューム満点だった中華ファミレス『カンカン』
前置きが長くなったが、ここからが本題。50歳を過ぎると、さすがにたくさんの量は食べられなくなった。人生でいちばんチャーラーを食べていたのは、食べ盛りの中学や高校時代だったかもしれない。
自宅から自転車で10分ほどの場所に『サッポロラーメン カンカン』という店があった。隣町にも同じ名前の店があったので、チェーン店だったのかもしれない。午前中に授業が終わる土曜日に友達とよく食べに行った。
店の雰囲気は、町中華という感じではなく、当時街ナカに増えはじめたファミレスのエッセンスが採り入れられていた。強いてジャンル分けをするならば、中華ファミレスといったところか。
当時、チャーラーが600円とか650円くらいだったと思う。安さもさることながら、ここのラーメンがスゴかった。丼が洗面器くらいデカかったのだ。チャーハンもしっかりと1人前のボリュームがあり、食べ盛りの私にとっては天国のような店だった。
しかし、いつの間にか店はなくなり、現在はその跡地にコンビニが建っている。あの量を完食できるかわからないが、もう一度食べてみたい。ずっと、そう思っていた。
ある日、名神高速道路一宮インターの近くを車で走っているときに、「ジャンボラーメン」と書かれた中華料理店の看板が目に飛び込んできた。ジャンボラーメンといえば、私の中では『カンカン』しかない。瞬時に思い出が蘇り、吸い寄せられるように店の駐車場に車を止めて店へ入った。
『カンカン』そっくりのチャーラー
それが今回紹介する『ジャンボラーメン 愛ちゃん』。店構えも店内の雰囲気もまさに『カンカン』のような昭和の中華ファミレス。メニュー数はとても多く、ラーメンだけでも20種類以上ある。ちなみにノーマルな「ラーメン」は550円と安い。プラス270円で麺2玉の「ジャンボラーメン」に変更できるようだ。
もちろん、私が注文したのは、「Aセット」(800円)ことチャーハンとラーメンのセット。チャーラーを出す店の多くは、オペレーションの都合でチャーハンかラーメンが先に運ばれる。片方を半分以上食べた頃にもう片方が出てくると興ざめする。何度も書いている通り、チャーラーは交互に食べてナンボなのだ。
ここはチャーハンとラーメンが同時に出てきた。中華鍋を振りながら麺を茹でて……というチャーラーを同時に提供するオペレーションが確立されているのだ。やはり、丼がデカい! しかも、このチャーラーのビジュアルは、『カンカン』と酷似している。
まずは、ラーメンからチェック。具材は、メンマとコーン、モヤシ、ネギ。この値段ゆえにチャーシューは入っていない。たしか『カンカン』では、チャーシューの代わりに四角いハムが半分だけ入っていたと思う。コーンが入っているのは、サッポロラーメンの流れを汲むからだろうか。
では、まずスープを飲んでみよう……。あれ? うわーっ! むちゃくちゃ懐かしい! シンプルな鶏ガラ醤油のスープは『カンカン』そのもの。後味がすっきりとしているのでいくらでも飲める! ここまでビジュアルも味も似ていると、両店は無関係とは思えない。
そして、麺。やや黄色味を帯びているので卵麺だろう。昔はこのような麺が多かった。食感やコシ。のど越しなど特筆すべき特徴はない。逆にそれがイイのだ。
チャーラーはシンプルこそ正義!
そして、チャーハン。ボリュームはしっかりと1人前のフルサイズ。チャーシューとネギ、卵というシンプルかつ王道の具材。チャーハンの味付けも塩、コショウがメインと、シンプルこの上ない。これも『カンカン』とそっくり。
素人的な考えを述べると、醤油やチャーシューのタレ、オイスターソースなどいろんな調味料を加えた方がそれだけ複雑な味わいになるから旨いと思っていた。それはチャーハンに限らず、ラーメンも然り。
しかし、ここのチャーハンとラーメンは、その対極にある。にもかかわらず、旨い。おそらく、好みが分かれることはなく、誰からも好まれる味。それは味付けのセンスのみならず、調理技術も伴わなければ出せない。ひょっとしたら、複雑な味わいを生み出すよりも難しいことなのかもしれない。
しかも、いずれもシンプルなラーメンとチャーハンを交互に食べると、シンプルではなくなるから不思議。これがチャーラーの醍醐味であり、楽しさでもある。
正直、完食できるか心配だったが、懐かしさのあまり食べ盛りの中学、高校時代に戻ったようにペロリと平らげてしまった。お腹だけではなく、心も満たされた。新型コロナや物価の高騰など飲食店にとっては苦難が続いているが、何とか長く続けてほしいと願うばかりである。
取材・撮影/永谷正樹
※本記事に掲載されている価格は令和4年4月以前のものであり、原材料費の高騰で変更されている可能性があります。
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