いつもそこにある味、存在が、どれほど私たちにとって大切か。その長い歴史には、たくさんの苦労や喜びが、ぎゅっと詰まっている。そしてその結晶は、味覚を超えた“味わい”として、今日も誰かの心に残る。 自由が丘 梅華 自由が丘…
画像ギャラリーいつもそこにある味、存在が、どれほど私たちにとって大切か。その長い歴史には、たくさんの苦労や喜びが、ぎゅっと詰まっている。そしてその結晶は、味覚を超えた“味わい”として、今日も誰かの心に残る。
自由が丘 梅華
自由が丘に『梅華』あり。特に地元の人ならば、うんうんと頷いているに違いない。ママとも大女将とも呼ばれて親しまれている梅井清香さんが、夫と共にこの地に看板を掲げたのは昭和29年のこと。当時はまだ今みたいに中華料理がポピュラーじゃない時代だ。他店がラーメン1杯30円程度だったのをここでは清湯麺として50円で出していたというから、それほど味と食材に誇りを持っていたんだと思う。ハイカラを好む画家や俳優など常連客に支えられ、木造の小さな店をビル一棟の立派な繁盛店に成長させた。その清香さんは何と、今なお現役の社長。御年92歳。誌面からも若々しさは伝わるだろうが、実際はもっと……個人的に今年一番の驚きだ。
現在の現場を仕切る娘の孔香さんから聞いた印象的な話がある。「30年ぐらい前でしょうか、入店を待つお客様の会話が聞こえてきたんです。『並んでまで食べたいなんて、お父さんは本当に中華が好きね』と言った方に、その男性が『中華じゃなくて、梅華が好きなんだ』と。有難いですよね、一生忘れることができません」。これぞ冒頭の言葉を知らしめるエピソード。孔香さんの心にしっかりと刻まれている。
その『梅華』の味を守るのがママの親族ら熟練料理人だ。創業から変わらない店の命は清湯スープ。親鶏のガラや皮などで取ったダシは濃厚な旨みがあり、麺類など多くの料理に使われる。大きな寸胴2個を使って途切れないよう時間差で仕込んでいるが、スープが無くなったらその日の営業は終了。料理長は言う。「親鶏の旨みを出し切り、絶対に水を足してはダメだと大女将の旦那さんから教えられていました。今も大女将が店の味を確かめているので、調理場も気を抜くひまはありません」。
このスープを使う「排骨麵」は、カレー風味の排骨がのる定番の人気メニューだ。ブロックで仕入れる豚肉を店で切り分け、特製のタレに3日以上漬けてカラリと揚げる。上質なスープに、ちょいと刺激が加わる肉のスパイシーな香りがたまらなく美味しい。ちなみにママはこの排骨を2枚ペロリ、なんてこともあるんだとか。一体、その元気の源はどこから?「常に目標があるからじゃないかしら。創業当初も大変な苦労だったけど、頑張って年中無休で仕事したと聞いています」。孔香さんはそう言いながら、ママを自慢げに見つめる。苦労を重ねても店の繁栄のためにあきらめない心、80歳を過ぎるまで餃子の仕込みを手伝っていたという勤勉さ。そして最近では昨年の東京オリンピックの聖火ランナーに挑戦したことは、コロナ禍で沈む地元までも元気にした。感染症対策で沿道は走らなかったが、トレーニングを積んで当日のイベントに挑んだそうだ。
さて母娘の次なる目標は……2年後の創業70周年。それまで当然、ママが現役社長だ。盛大に迎えるその日を、自由が丘の街を上げて待ちわびている。
[酒]ビ生グラス550円~ 焼グラス660円、ボトル3300円 ワグラスなし、デキャンタ770円~、日(1合)550円~、紹興酒ショット550円~ [その他のメニュー]昼ランチ1 0 4 5円など 昼夜清湯麺825円、三鮮炒飯1320円、叉焼肉(小)2365円など
東京都目黒区自由が丘1-12-2
撮影/菅野祐二 取材/肥田木奈々
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※店のデータは、2022年5月号発売時点の情報です。
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