『藤屋豆腐店』 @上野桜木 さじ加減は手でわかる お客さんに愛され続ける手作りの味 「おたくの豆腐は毎日食べてるけど飽きないねってよく言われたよね」、そう話してくれたのは『藤屋』の二代目にあたる高橋敬(ひろし)さん。 自…
画像ギャラリーシンプルな材料だけに、作り手らしさがそのまま豆腐の味になる。それぞれのこだわりは大豆の種類やにがり、全体のバランスなどさまざまにみんな違って、みんないい!東京の豆腐店は、幅広い選択肢も魅力です。
『とうふ工房 ゆう』 @青梅
いかにこの大豆のよさを引き出すか 面白くて仕方ない
朝6時。前日の夕方から浸漬した大豆をざるに開け、グラインダーに入れるところから豆腐作りが始まる。見せてもらった特選用の大豆は国産の在来種。ブレンドされた青大豆の色合いが印象的で、実に艶やかだ。
ご主人の大久保裕史さんによれば、「吸水具合は大豆の状態や気温、水温などによって毎日変わるので、前日からが勝負」なのだという。濃度を高めるために水を少なめにして擦りつぶされた大豆は、次に釜に移して炊く。
その間、大久保さんは付きっきりで釜に向かい、時折り、釜の蓋を開けながら蒸気の匂いや沸き具合を確認して微調整をする。表情は真剣そのものだ。
大手であれば温度と時間を設定して自動で炊く工程だが、こだわるのにはもちろんわけがある。「炊き具合で甘みの出方や香りが変わってくるんです。数十秒の沸き方で香りが飛んだり。特に青大豆はその幅が狭いので」
母親の実家が豆腐屋だったという大久保さんにとって、豆腐は身近なものだったという。そんな中、高校や大学生時代、周りの友人が「豆腐は味がないから醤油をつけて食べる」と聞いて違和感を抱いた。
“おじいちゃんちの豆腐”は味があったし、今思えばにがりにこだわっていて甘みもあった。「豆腐ってもっといいものなのにな」という思いだ。
そんな大久保さんが選んだのは、要である大豆にこだわるとともに、その特性を活かした甘みと香りを手間を惜しまずに引き出す豆腐作りだ。
「特選よせとうふ」500円 「特選絹ごし」520円
実際、できあがった豆腐をひと口食べたらなんとも甘く、濃い大豆の味わいに「おお!」と驚くに違いない。そもそも、あまりに濃厚な豆乳に天然のにがりを適量打ち、しかも舌触りよくなめらかに固めることひとつとっても、実はかなり難しいという。
そのギリギリを攻めているらしいのだが、「好きですね。面白くて仕方ない」と大久保さん。『ゆう』の豆腐はそんな情熱が爽やかに伝わってくる旨さでもあるのだ。
[住所]東京都青梅市裏宿町570-7
[電話]0428-84-2470
[営業時間]10時〜16時 ※売り切れ次第終了
[休日]日、第4月
[交通]JR青梅線青梅駅から徒歩12分
『とうふや おもむろ』 @国領
食べる人と作る人をつなげる店を目指して
日曜日の夕方、ひょいと路地を入った場所にあるこの店を訪ねると、ひっきりなしにお客がやって来ていた。豆腐を手に店を出てくる顔のうれしそうなこと、なんだかこちらまでうれしくなってしまう。
店主の伊藤正樹さんは、地域の接点となるような店を思い描いてこの街へやってきたという。店前にさりげなく床几(しょうぎ)を置いているのもそんな理由で、ここで井戸端会議が開かれるのを密かに期待しているからだ。
伊藤さんは会社員からの転身組。今の時代にあえて豆腐屋を目指したのは、会社を辞めてモノを造り出す仕事がしたいと考えていたときに、とある街の豆腐店の豆腐を食べて衝撃を受けたことがきっかけだ。
豆腐作り、原材料選び、農業のことなど豆腐の先にある世界観を表現する姿勢に強く感銘を受けてその店の門を叩いた。さらに大豆問屋でも働き、豆腐作り、大豆、農業のことなどを現場で学び昨年独立。
現在は在来種を中心に、修業時代に知り合った生産者の大豆を使い豆腐を作る。
「汲みゆば」500円 「絹とうふ」250円
口に含むとミルキーな大豆の甘みと香りが立ちのぼる豆腐は印象的で、手にするなり今夜の食卓を想像して思わず笑顔になる。みんなのうれしそうな顔の理由はこれだったのか。
[住所]東京都調布市国領町4-46-17 エクレール国領104
[電話]042-445-2423
[営業時間]12時〜19時
[休日]月・火
[交通]京王線国領駅南口から徒歩4分
『ゆばと豆腐の店 豆源郷(とうげんきょう)』 @両国
口に含んだときの濃醇な味わいを あくまでさりげなく
小さいときから食べるものは何でも好きだったという店主の横井康之さんだが、実は豆腐にはあまり興味がなかったという。興味のきっかけは、京都で豆腐屋を営む親戚から届いた豆腐。「明らかにいつも食べているものと違う。何でこんなに違うのと」。
大学を卒業すると京都に向かい、原料となる大豆やにがり、豆腐作りの細かな工程を修業すること7年。生まれ育った両国に戻り“豆腐屋”を開業した。
「今は肉屋も魚屋も少なくなってきたけど、スーパーじゃなくて昔っから知ってる人が買いに来てくれるような“○○屋”をやりたかった。おいしいのは当たり前。でも毎日でも食べて飽きないような」
気取りなく話す横井さんだが、『豆源郷』の豆腐には大豆の旨みや甘みがたっぷり閉じ込められていて、何より口に含んだときの食感がやさしい。
「黒豆とうふ」(土日限定)596円 「青竹とうふ」625円
当たり前と言いながら、その味を引き出すために行うことには妥協がない。たとえばにがり。
ようやく出合ったというそれは、海水から釜でじわっと炊いた古式製法で、「これだと喉にチクチクしない」。口あたりのやさしさには、そんな秘密もあるわけで。豆腐の旨さはさりげなく、ますます円熟味を増している。
[住所]東京都墨田区石原2-15-7
[電話]03-3622-8087
[営業時間]11時〜18時半
[休日]月
[交通]都営大江戸線両国駅A2出口から徒歩12分
『藤屋豆腐店』 @上野桜木
さじ加減は手でわかる お客さんに愛され続ける手作りの味
「おたくの豆腐は毎日食べてるけど飽きないねってよく言われたよね」、そう話してくれたのは『藤屋』の二代目にあたる高橋敬(ひろし)さん。
自身は80歳を境に引退したというが、お父さんが大正3(1914)年に開いた店を継いで、60年以上にわたり“藤屋の豆腐”を作り続けてきたその人だ。
藤屋の豆腐は確かに飽きない。そして「ああ、これだよな」という昔ながらの味がする。ずしりとした木綿豆腐は素朴な風合いで、そのままでも旨いが、薬味をのせてちょっとだけ醤油をたらすとまたいい。
「もめん豆腐」250円 「玉どうふ」(2個入り)270円
口の中で後からふっと豆腐らしい旨さが広がる。「手作りだから毎日同じのはできないわけだ」と高橋さんの話は続く。
乳白色の豆乳ににがりを入れ、自家製の杓子でかき回す。その波立ち具合や手応えでさじ加減を調整する。機械であれば1年中同じ。でもこちらは毎日少しずつ違う。「それがお客さんの波長に合えばおいしいって言ってくれるのかな」。
基本的な製法は変わらない。昔からの良質な井戸水を使い、国産の大豆と天然にがりを使う。先頃は、四代目になる孫の茂さんが加わった。「俺は口を出さないよ」。そう言いながら敬さんはうれしそうだ。
[住所]東京都台東区上野桜木1-12-9
[電話]03-3821-3578
[営業時間]7時〜19時
[休日]日、祝日の午後
[交通]JR山手線鶯谷駅北口から徒歩8分
『あらいや豆腐店』 @雪が谷大塚
老舗三代目が紡ぐ 豆腐の未来を切り開く新しい試み
「父や母も新しいものが好きだったけれど、やっぱり血筋かな」。そう言って笑うのは『あらいや豆腐店』の三代目にあたる木村哲祥さん。店に並んだ目を見張るような多彩な商品に対してのセリフだ。
「季節のがんもどき」、「豆乳おからドーナツ」に「揚げ出し豆腐」とまあこの辺は想定の範囲内。だがポンデケージョならぬ「ソイデケージョ」や生春巻きに擬態した「梅ちゃんロール」にはびっくり。
こちらは木村さん夫婦を筆頭に、長男・次男夫婦という大家族経営。その総指揮を執るのが木村さん。ふたりの息子さんを大学と並行して調理師学校に通わせたというから、木村さんの未来構想はそのあたりから始まっていたのだろう。
長男は和食、次男はイタリアンの料理人を経験し家業へ戻って来た。今では世代や得意分野の違う6人が、毎日のようにアイデアを出し合って個性的な商品を生み出す。
「ざる豆腐」594円 「本絹豆腐」259円
『あらいや豆腐店』は創業からずっと国産大豆にこだわり、本物の豆腐を作り続けてきた。そこはブレることはないが、その一方で木村さんは新しいことにも積極的に取り組んでいる。自身の店はもちろん、豆腐の未来をも切り開こうとしているのかもしれない。
[住所]東京都大田区南雪谷2-11-19
[電話]03-3729-1742
[営業時間]製造完了後(11時頃)~18時
[休日]日・祝
[交通]東急池上線雪が谷大塚駅から徒歩1分
撮影/鵜澤昭彦(とうふ工房 ゆう、あらいや豆腐店)西崎進也(とうふや おもむろ、ゆばと豆腐の店 豆源郷、藤屋豆腐店)、取材/池田一郎(ゆばと豆腐の店 豆源郷、藤屋豆腐店)、岡本ジュン(とうふや おもむろ、あらいや豆腐店)
※2022年10月号発売時点の情報です。
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