『マルシン飯店』 @東山 スープのような黄金のあんと、ふわふわ卵に包まれた名物「天津飯」 朝6時までの営業とあって、深夜帯には名だたる料理人やバーテンダーが通ってくる。名物は「餃子」と「天津飯」で、ことに丸い味わいのチキ…
画像ギャラリー一般的に、“京都に行ったらまずは和食”という方が多いと思われます。が、しかし! 京都は伝統の食文化を守りながら、新たな味への探求を積み重ねてきた街。それゆえ、外国料理店にも光る店が多く、なかでも「京都の中華」は知る人ぞ知る存在でもあるのです。有名なカラシソバからニンニクを使わないやさしい料理まで、地元の人たちの味覚に合わせて独自に進化を遂げてきた京都の中華の魅力とは?京都の中華を愛してやまない「おとなの週末」ライター・オカモト氏がおすすめする、今こそ食べておきたい店をここに厳選してご紹介。次の京都旅行の際にはぜひ足を運んでみてください!
『京都中華彩館 鳳舞楼(ホウマイロウ)』 @今出川
王道京都中華の系譜を受け継ぐ、香り立つ「カラシソバ」
この店で、ぜひ食べていただきたいのが「撈麺(ろうめん)」、通称“カラシソバ”と呼ばれるあんかけ麺だ。
撈麺(ろうめん) 950円
その生みの親こそ京都中華界のレジェンド・高 華吉(こう かきち)さんであり、最後の愛弟子として知られるのがここ『鳳舞楼』の店主・相場さんだ。できることはすべて手作りにこだわったという、職人肌の師匠の姿勢を受け継ぎ、相場さんもさらにより良くと、日々精進を欠かさない。
自家製麺も粉の配合から熟成まで何度も研究を重ねている。「食べた時に香るように、辛子の香りをあんで閉じ込めるのがコツ」というカラシソバひとつとっても、京都中華の手仕事を物語るかけがえのない味なのだ。
[住所]京都府京都市上京区新町通中立売下ル仕丁町327-7
[電話]075-555-5568
[営業時間]11時半~14時、17時~21時(20時LO)
[休日]火、水
[交通]地下鉄烏丸線今出川駅から徒歩8分
『美齢(メイリン)』 @今出川
細い路地に隠れた民家で、たおやかな中華料理に魅了される
猫の通り道のような細い路地の途中に、おっとりとした佇まいの店が現れる。そんなシチュエーションも旅の楽しみのひとつだろう。物静かな店主・曽根さんが作る料理はきれいで澄んだ味わい。
石焼き麻婆豆腐 1155円
「見た目だけでなく音や香りも楽しんでほしい」という「石焼麻婆豆腐」は熱したネギ油をかけているので匂い立つが、辛さは控えめ。山椒も別添えで、昨今のスパイス弾ける麻婆とは真逆をいく奥ゆかしさ。
蒸し鶏は丸鶏を捌くところから、カラスカレイの蒸し物は「他の魚ではこの味が出ない」とカラスカレイでしか作らない。たおやかに見えて決然とした京都の美学がここにもあった。
[交通]京都府京都市上京区黒門通元誓願寺上ル寺今町511
[電話]075-441-7597
[営業時間]11時半~14時、17時半~21時
[休日]月(祝の場合は営業)、不定休あり
[交通]地下鉄烏丸線今出川駅から徒歩8分
『廣東料理 糸仙』 @上七軒
北野天満宮門前の花街には、芸妓さんも喜ぶ楚々とした中華がある
フォトジェニックな「酢豚」にひと目ぼれしてしまった。具は芸妓さんのおちょぼ口でもパクリといけそうな豚肉だけ。ちょこんとした彩りのパイナップルが愛らしい。透明なあんからはほのかに甘い酢の香りが立ち上る。
すぶた 825円
「このお酢でないとこの味にはならんやろうね」と店主の内海さんは教えてくれた。創業以来この味を支えてきたのが、京都で170年の歴史を持つという無添加の「孝太郎の酢」。
この酢を中心に、醤油と砂糖であっさりと味を付けている。ニンニクやネギを使わない京都中華の流れをくむ『糸仙』。かつてお茶屋だったという建物も花街の風情を色濃く残している。
[住所]京都府京都市上京区真盛町729-16
[電話]075-463-8172
[営業時間]17時~21時(20時半LO)
[休日]火
[交通]都市バス上七軒バス停から徒歩4分
『マルシン飯店』 @東山
スープのような黄金のあんと、ふわふわ卵に包まれた名物「天津飯」
朝6時までの営業とあって、深夜帯には名だたる料理人やバーテンダーが通ってくる。名物は「餃子」と「天津飯」で、ことに丸い味わいのチキンスープを飲むような「天津飯」のファンが多い。
天津飯 750円
「中華版のTKGをイメージしています」と笑うのは2代目の流史郎さん。彼はなかなかのアイデアマンで、ブルワリーに頼んで自慢の餃子に合うクラフトビールまで作ってしまった。
その発想もユニークで「タレの替わりになるビールです」と胸を張る。飲んでみれば確かに口中で一体となって旨いのだ。いやびっくり。地元の料理人が通う店は、やはり奥深い楽しさに満ち満ちている。
[住所]京都府京都市東山区東大路三条下る南西海子町431-3
[電話]075-561-4825
[営業時間]11時~翌6時(翌5時45分LO)
[休日]火
[交通]地下鉄東西線東山駅2番出口から徒歩1分
『華祥(カショウ)』 @元田中
ここだけのお楽しみ。淡雪のような卵白と炒飯の絶妙な掛け合い
「卵白あんかけ炒飯は、うちだけの名物を作ろうと父が考案した料理です」と話すのは、料理担当の田口貴典さん。
卵白あんかけ炒飯 900円
卵白液をふたつに分け、一方は鶏ガラスープとエバミルクを加えて煮込み、低温で油通しする。残りの卵白は水溶き片栗粉で溶き、後から混ぜる。時間差で仕上げるからなめらかでふんわりとした卵白ができあがる。
それをパラリと炒めた炒飯に被せれば完成。見た目も美しいが、食べればハマる味わいだ。美味なる皮の水餃子、絶妙なハーモニーの春巻きなど、どの料理も創意工夫と丁寧な仕事ぶりが光っている。「何を食べても美味しおす」と地元の常連も笑顔でこの店を推す。
[住所]京都府京都市左京区田中里ノ内町41-1
[電話]075-723-5185
[営業時間]11時~14時、17時半~21時半(21時LO)
[休日]水
[交通]叡山電鉄元田中駅から徒歩2分
『私房菜 すみよし』 @清水五条
京都らしさも併せもつ、現代らしいスタイルの一軒
面白そうな店だなぁというのが第一印象。料理名が書かれた黒板を見て、その予感が的中したことを確信する。品書きを眺めているだけで食欲が湧いてくるのだ。
カウンター奥に下がった飴色のダックや現代料理だという「フカヒレのステーキ」もあり、店全体から店主・住吉さんの熱心さが伝わって来る。お客さんを楽しませようというサービス精神もきっと旺盛なのだろう。
Bランチ 1800円
その証拠にランチセットは実にお得。香港風蒸しスープからデザートまで充実の内容で、これでワインが1本飲めそう(笑)。昼でも夜のメニューが注文できるというのも、旅行者にはうれしい限りだ。
[住所]京都府京都市東山区妙法院前側町420 メゾン・ナイアーデ 1階
[電話]075-585-5707
[営業時間]11時半~14時、17時半~21時
[休日]火
[交通]市バス・今出川大宮、堀川今出川各バス停から徒歩2分
独自に進化を遂げた「京都の中華」の面白さ
京都の食べ物で、なぜかハマってしまったのが“中華”。京都人に長く愛され、この街で育ってきた中華は他の街のものとは少し違っていたからだ。そんな味に魅せられ、訪れる度についつい足を運んでしまうのだ。
京都で育った中華はあっさり、はんなり
編集長から「京都の中華、やりません?」と言われ、ヤッター!と思わず心の中でガッツポーズ。好きなんですよ、京都の中華。帰り道であこそとここと……とニヤニヤしながら頭の中で思案していたら、たまらなくなって翌日には京都駅に降り立っていた。京都の友人一同の胃袋を借りつつ、もう一度昼夜みっちり食べ歩き、紹介する店を決めようという作戦である。
初めて京都の中華と出合ったのは「カラシソバ」だ。レタスや海老などが入ったあんかけ麺で、パッと見はやさしそうな風貌だが、酢で溶いた辛子が入っていて食べるとツーンと来る。そのツンデレ(?)なギャップにハマってしまったのだ。
「カラシソバ」を生んだのが京都中華のエポックメイキングな人物といわれる、『鳳舞(ほうまい)』(現在は閉店)の高 華吉(こう かきち)さん。広東省出身の高さんは、中華食材が手に入らなかった大正時代、工夫を凝らして料理を作り上げたという。
その直系『鳳舞楼(ほうまいろう)』では「撈麺(ろうめん)(カラシソバ)」のほか、酸味のあるチリソースをまとった「椒醤酥鶏」(通称・からし鶏)など、高さん直伝の料理を味わえる。作り方を見せてくれた店主の相場さんは「東京の人には初めて出合う味でしょう」と笑った。
カラシソバをはじめ、高さんの料理を引き継ぐ店は多く、鳳舞系と呼ばれることもある。店によっても微妙に味は変わり、例えば『平安』(祇園四条)のカラシソバは、中学、高校、大学と辛子の量が選べて、辛さにパンチが効いている。
もうひとつ、京都で特徴的なのが春巻き。卵ベースの生地を1枚ずつ焼き、そこに具を包んで揚げ、食べやすいサイズに切って出す。長方形のいわゆる春巻きもあるが、そちらは「僕らはパリパリ春巻きと呼んでるね」と京都の友人が教えてくれた。
鳳舞系以外にも老舗の中華は多い。例えば作家・池波正太郎に愛された『盛京亭(せいきんてい)』(祇園四条)は路地奥の立地がいかにも京都らしい。
北京料理ながらも淡くあっさりした味付けで、それも旅人には目新しいのである。
また、京都は学生の街でもあるので町中華も多い。『マルシン飯店』や『華祥』にはそれぞれ名物があって食べてみたくなる。新しいところでは、スタンド中華の『小小幸福』(四条)が面白い。香港で料理人を務めた店主が作るローストダック弁当がローカル中華好きの注目をジワジワと集めている。
御所があったことから京都は明治初期に外国人が立ち入れなかった。そこで中華料理も独自の進化を遂げたといわれる。祇園の芸妓さんが食べても匂わないよう、ニンニクやネギを使わず、京都人の味覚に合わせて油を控え、上品なお酢で旨みを利かせる。
京都の文化と様々な工夫が折り重なってこの味わいはできあがったのだ。その背景は京都出身の姜尚美氏著『京都の中華』(幻冬舎文庫)に詳しく書かれているので、興味があったら読んでみてはいかがだろう。ここにきてポツポツと登場したローカル中華も含め、温故知新の中華店を食べ歩くのも京都の意外な一面を知る面白さだ。
撮影/貝塚隆、取材/岡本ジュン
※2022年5月号発売時点の情報です。
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