前回は、ポルトガルワイン試飲会でマデイラワインの繊細かつエレガントなおいしさに出合い、すっかり魅了されてしまったって話をした。そこで今回は、おいしいマデイラワインに出合えるとっておきの“マデイラの入り口”、銀座にある『マデイラ エントラーダ』を紹介しよう。さらなるマデイラ沼へようこそ!
天国への、もとい、マデイラの入り口
外堀通りに面した銀座六丁目のとあるビルの3階にその店はある。日本における最大のマデイラ情報発信基地ともいえるマデイラワインバー。3年ものからなんと1850年ヴィンテージ(!)に至るまで、200種類のマデイラワインを、すべてグラスで楽しめる『マデイラ エントラーダ』だ。
先日のポルトガルワイン試飲会でもお世話になった佐藤岳さんが店長。いろんなマデイラをグラスで楽しめるのはもちろん、こちらでは、品種や熟成年数、メーカー違いなど、いろんな形で比較試飲ができる“味わいセット”があったり、フードペアリングの体感セットなどもあり。マデイラワインの魅力のさらなるディテールにハマっていくにはピッタリなのだ。
マデイラが抜栓しても長期保存できるわけ
早速比較試飲に行きたいところなのだが、せっかくなので前回の宿題をひとつ。マデイラワインは一度抜栓しても味わいはほぼ変化せず、一度に飲み切る必要がないという話をしたけど、それはなぜなのか。
その理由は、マデイラ独自の製法にある。酒精強化(アルコール添加※前回参照)によって発酵を止めたあと、マデイラでは“加熱熟成”させる。これが最大のポイントだ。
通常はワインの大敵である熱を加えることで、意図的にワインの酸化と酸度、糖度、アルコール度数を凝縮させる。色調も琥珀色に変化し、熟成とともにドライフルーツやスパイスなどブーケ(第3アロマ)も出てくる。こうして独自の風味を持つ美酒ができあがるというわけだ。
抜栓後に劣化の心配がないのは、通常のワインと違い、すでに酸化されているためだ。だが利点はそれだけではない。同じ理由で、他のワインに比べて圧倒的にオールド・ヴィンテージが豊富で、しかもおいしく飲めてしまうのだ。
100年以上前のワインも現存し、しかもほかのワインに比べればずっと割安で飲めてしまう。そんな楽しみがあるのもマデイラならではだ。
甘みと酸味のバランスをじっくり比較試飲
今回まず選んだテイスティングセットは、バーベイト10年熟成の品種違い(4杯/各15ml・1100円)だ。先日の試飲会でも実は同様の飲み比べをしているが、佐藤さんに解説していただきながら、改めて腰を落ち着けて味わってみようという次第。
メーカーは、繊細かつエレガントなスタイルで定評のあるヴィニョス・バーベイト社。いずれも白ブドウ品種の単一品種による10年熟成。グラスに注がれた美しい琥珀色は、左から順にセルシアル(辛口)、ヴェルデーリョ(中辛口)、ブアル(中甘口)、マルヴァジア(甘口)。
共通しているのはいずれもきれいな酸があってみずみずしさを感じることなのだが、比べることで香りや口当たり、後口など、ディテールの違いもわかるし、自分の好きな甘みもわかる。
セルシアルであれば少し香木っぽい香りやきれいに伸びるような酸、ブアルであればハチミツめいたニュアンスも感じさせつつ、酸も甘みも割としっかり。カステラとかも合うのだとか……。
ワインの敵はマデイラの友!?
ここエントラーダでは、ポルトガル料理を中心とした食事や、チーズやスイーツとのマッチングも楽しめるのだが、面白いフードペアリング体感セット(1650円)もある。
※内容はその時によって変更の場合あり
そこで早速フードペアリングにも挑戦してみた。まずその1は、塩辛、カニ味噌、カラスミ、海苔の佃煮の4種類だ。さらにその2として、納豆&かんぴょう巻き、チャンジャ、漬け、穴子の4種類。
ご存知かと思うが、スティルワイン(発泡系以外のいわゆる普通のワイン)は魚卵や生臭い系のものは合わないと言われている。合わせると生臭さが強調されてしまうからだ。納豆やツメの塗られた穴子、刺激の強いチャンジャなんかも苦手とされる。
が、合わせてびっくり。不思議とマデイラワインとは無理なく合う。包むというか、寄り添うというか。食材の香りも気持ちよく受け止めておいしく飲めるのは面白い。
なんでも「ワインの敵はマデイラの最良の友」と言うらしい。魚介の多い和食や、スパイス使いされた中華やコリアンなどなど、合わせてみたい料理の幅は広がるなと思えて楽しみだ。
オールド・ヴィンテージ。そして日本のウイスキーとのコラボ
せっかくなのでオールド・ヴィンテージを一杯。さらにここにしかないちょっとユニークな美酒もいただいてみた。
オールド・ヴィンテージとして選んだのは、バーベイトの2005年マルヴァジア(880円)だ。誕生から18年の時を経たマデイラの液体は少しくすんだようにも見える黄金色だ。鼻先をかすめるアロマはなんとも複雑。口に含むとスーッときれいに甘い。塩カカオのビーン・トウ・バー・チョコレートと合わせてみたのだが、シャリっとした食感、ワインの酸味も生きて、う~ん、最高!
そして最後がこちらの2本。バーベイトのマデイラワイン「ブアル コリェイタ2002」と、嘉之助蒸溜所の「KANOSUKE シングルモルト マデイラワイン・カスクフィニッシュ」(セットで3300円)だ。
2002年収穫のマデイラワイン(前者)を熟成させた樽を、ボトリング後に日本に送り、熟成の最後のフィニッシュ11ヶ月にその樽を使ったのが後者のジャパニーズ・シングルモルト。同じ樽を使った兄弟のようなマデイラとシングルモルトっていうわけだ。
それぞれの香りを楽しんだあとに、マデイラ、ウイスキー、マデイラと飲む。不思議なことに、それによってよりマデイラの香りや繊細な味わいが増幅されて感じられてくるようでもあり……。ストーリー込みで楽しめる、なかなかに印象深いチャレンジだった。
きっとまだまだマデイラの扉のほんの入り口。数々のボトルが並び、興味は尽きない。まずは一歩、あなたも扉を開けに来てみてはどうだろう。
■『マデイラ エントラーダ Madeira Entrada』
[住所]東京都中央区銀座6-5-16
[電話番号]03-6264-6602
[営業時間]17時〜23時(22時半LO)
[休み]日・祝、第4土
取材・撮影/池田一郎