思い思いのスタイルで粋に楽しむのがよし 蕎麦屋が好きだ。それはもちろん蕎麦自体が好きっていうのもあるけど、使い勝手がいいし、どこか粋で居心地がいいからだろうな。 思うに昔の蕎麦屋は通し営業の店がほとんどだったが、するって…
画像ギャラリー蕎麦屋の営業は、休憩なしで夜は早めに閉まる—。それも今は昔。通し営業が珍しくなりつつある。昼から一杯、遅めの昼食、どんなニーズにもピタッとハマるありがたきお店の中から厳選の3軒をご紹介します。
【11時〜20時半】『能登治(のとじ)』@新橋
丁寧に本物を受け継ぐ老舗ながらの味わい
ご主人の七尾信昭さんが6代目、落ち着いた昔ながらの蕎麦屋の佇まいはやはりいい。昔から変えてないという蕎麦ツユはカツオ節に醤油、みりん、砂糖だけを使う。心持ち甘めなのは新橋がかつて花町だった名残りだとか。風味の飛ばない胴搗(どうづき)という製法で挽かれた北海道産の蕎麦はのど越しのいい二八だ。
通しで営業できるのは「家族でひとつの仕事をしているから」とご主人。何十年来というお客さんも多い中、ちゃんと手の入った仕事がされた料理には温かみがある。
鴨とじそば 1670円
自慢のひとつは、近くの鳥肉問屋から新鮮なまま仕入れる国産の合鴨を使った蕎麦や料理。鴨とじの鴨にはムネ肉もモモ肉も入り、噛み締めるほどにジュワジュワ〜。一緒にすする蕎麦がたまらない。
[住所]東京都港区新橋3-7-5
[電話]03-3591-3584
[営業時間]11時〜20時半(20時LO)※土・祝は〜15時半(15時LO ※月の祝日は休み)
[休日]日・祝
[交通]JR山手線ほか新橋駅烏森口から徒歩5分
【7時〜15時】『長生庵(ちょうせいあん)』@築地
圧倒的な旬のバラエティ 築地で朝から満喫!
築地で今年で52年。旨いものを知ってる市場関係者の舌とわがままを支えてきた実力は伊達じゃない。7時から15時までは通し営業。朝から一杯やる人、朝飯や昼飯、昼酒……いろんな客がいる中でその全部に応えるべく増えたメニューに心意気が伝わる。
朝定食 1000円〜(平日朝7時〜 数量限定)
北海道産の粉をベースにした二八に近い蕎麦は昔の出前の名残もあり、伸びにくく、のど越しよし。バランスのいいツユとともに〆にするっと食べるもよし。料理は刺身あり、天ぷらあり。
築地ならではの本マグロはじめ、新鮮な魚介や季節の食材を使ったものが入れ替わり立ち替わり。人気の海鮮10色丼とのセットをはじめ、蕎麦はセットや季節の限定ものも次々。どれも旨いとなれば選ぶのが悩ましい。
[住所]東京都中央区築地4-14-1 モンテベルデ1階
[電話]03-3541-8308
[営業時間]7時(水のみ11時)〜15時(14時半LO)、土:7時〜15時半(15時LO)※夜はコース予約のみ17時〜20時
[休日]日
[交通]地下鉄日比谷線築地駅1番出口から徒歩5分
【12時〜20時】『驀仙坊(ばくざんぼう)』@中目黒
みずみずしく力強い 蕎麦までの一杯も楽し!
モダンながら落ち着いてゆったりしたレイアウトの中、思い思いに蕎麦や一杯を楽しむ人の姿がいい。店主の馬場さん曰く「町場の蕎麦屋がひとつのテーマ」というわけだが、蕎麦も蕎麦前の料理も心を掴む完成度。
天ぷらそば(かき揚げ) 2500円
艶やかな手打ちの蕎麦は玄蕎麦挽きぐるみ。青森の在来種階上早生(はしかみわせ)を使い、味も風味も濃い。それでいて丁寧にふるいをかけた仕事でのど越しもよし。枯れ節でとったツユですすれば香りもしっかり満喫できる。
そして、そこに至る前にぜひ楽しみたいのが焼き物や季節の一品などでの蕎麦前だ。見た目から美しい鴨ローストはしっとりと火が入り、西京焼きのエビは殻までバリリと焼かれ、何ともいい匂いをさせている。〆を楽しみにまずは一杯だ。
[住所]東京都目黒区青葉台1-22-5
[電話]03-3792-8823
[営業時間]12時〜20時LO
[休日]火・水
[交通]東急東横線中目黒東口1から徒歩4分
思い思いのスタイルで粋に楽しむのがよし
蕎麦屋が好きだ。それはもちろん蕎麦自体が好きっていうのもあるけど、使い勝手がいいし、どこか粋で居心地がいいからだろうな。
思うに昔の蕎麦屋は通し営業の店がほとんどだったが、するってえと、昼下がりにちょっと小腹が空いたときにササっと手繰るのもよし。仕事が早く引けたときに、昼から軽く一杯やってても罪悪感なし。おまけにそれが江戸時代から受け継がれてきたスタイルとあっちゃあ、日本人のDNAが自然と揺さぶられるというわけで。
通し営業の蕎麦屋も随分減ったが、そんな昔ながらのよさを存分に味わわせてくれるのが新橋にあるこちら『能登治』だ。創業が安政年間(江戸時代)で2代目が明治に新橋へ移って以来というから年季が入ってる。カツオ節一本でダシをとったツユとのど越しのいい二八の蕎麦。
変わらぬよさがあるかと思えば、「じゃこマヨ」しかり、つまみには蕎麦屋の定番以外にもクセになる変化球も。一杯やるなら、蕎麦焼酎のわさび水割りもいい。蕎麦屋らしく本わさびの香りと甘さが何ともいい。
『能登治(のとじ)』麦焼酎わさび水割り 990円、煮油揚げ 550円、じゃこマヨ 700円
通しと言えば、少し他所と違った朝7時から蕎麦屋の醍醐味を満喫できるのが、築地場外にある『長生庵』だ。もともとは場内の人の仕事終わりや買い出しに来た人が利用できる時間帯であったゆえだが、今も変わらず「朝飲み」する常連さんはいらっしゃる。もちろん腹拵えの客も。
『長生庵(ちょうせいあん)』海鮮10色丼そば付きセット 2500円
「その全部に応えられるよう」メニューが多いのも特徴だ。しかも築地らしく、昔ながらの蕎麦のみならず、本マグロをはじめ、新鮮な旬の食材を使った料理があれこれ。さらにクラフトビールに日本酒も充実。通わずにいられようか!?
モダンな中にも落ち着いた店構え、中目黒の『驀仙坊』もいい。通しの営業は大変なれど「自分がこの時間帯にやっててほしいと思うから」とはご主人の言葉。つまみは酒のアテなので一品でも満足できるよう「コースの店の味よりは濃いめ」とも。
『驀仙坊(ばくざんぼう)』鴨ロースト 1300円、海老の西京焼き(2本) 2500円
2、3のつまみで一杯やって蕎麦で〆るのにちょうどよしだ。玄蕎麦挽きぐるみの蕎麦はツヤっとのど越しよく、蕎麦の風味もしっかり。最後の蕎麦がブレずに受け止めてくれる。それがまたいいんだよなあ。
撮影/小島昇(能登治、驀仙坊)、高井潤(長生庵)、取材/池田一郎
※2023年12月号発売時点の情報です。
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