独自のボール文化にひたれる呑兵衛天国 「控えめに言って最高」と最初に言った人のセンスは賞賛に値するが、こうも多用される今となっては、「感謝しかない」と同じくらい無味乾燥な表現だ。あえて高らかに宣言しよう。堀切は「ちょっと…
画像ギャラリー昼飲み、センベロなどの店が集まり、呑兵衛天国だった京成立石。しかし駅周辺の再開発により名物店などが閉店、移転を余儀なくされた。立石に続く天国はどこだ!?そこで今回は、京成線沿線の堀切菖蒲園の安くて旨くて人情も濃い、通いたくなるいい店を集めてみました!堀切菖蒲園は甲類焼酎+シロップの“もと”と炭酸からなる焼酎ハイボール(通称・ボール)を出す店が目白押し。この下町のカクテルが特に肉料理と相性抜群だからか、居酒屋に加え焼肉店、焼きとん店がそこかしこに。ポスト立石の最右翼。
『隠れ家 やまさん』
永ちゃんへの想いと愛情料理で満ちあふれたくつろぎ酒場
店が佇むのは「えっここに!?」という住宅街。扉を開ければ、矢沢永吉さんへのリスペクト全開の異空間が広がっている。ドリンクの9割を占めるという焼酎ハイボールは大きめのグラスに氷なしスタイルで280円の良心価格。
伝説のタンみそ 300円、手作りメンチ 350円、焼酎ハイボール 280円
「2年前のオープン時はつまみも全部300円以下がコンセプトだったけど、昨今の物価上昇で350円も紛れ込ませてあるの。ごめんね」と店主。その350円のメンチは、お肉みっちりのメンチが2個に付け合わせにはナポリタンも!安すぎますよ。
金額のことばかり言ってすみません。実は料理のすべて、丁寧な手作りでどれもホッとする旨さだから驚くばかり。出色はたくさん飲んだ人への感謝として提供される〆メニュー。食べたかったら、飲むべし、飲むべし!
[住所]東京都葛飾区堀切3-15-3
[電話]非公開
[営業時間]16時~21時(土は~23時)
[休日]日
[交通]京成本線堀切菖蒲園駅から徒歩5分
『居酒屋 きよし』
堀切で一二を争うディープ酒場でしみじみ酔う
「週に何度も来てくれるお客さんが多いから、値段を上げられないの。料理の品数もいつの間にか増えちゃって、こっちはてんてこ舞いだよ」と気風がいい二代目女将・後藤さん。
壁の短冊にあるグランドメニュー以外に、ホワイトボードに掲げられる日替わり料理は200円台を中心とする40種以上のラインナップ。それを後藤さんがちゃきちゃきと調理する。
小肌酢刺 250円、わかめえのき和え 280円、梅ごぼう 280円、ホッピーセット 480円
駅前で創業し、移転を経て来年60周年を迎えるという。客の多くが杯を重ねるど定番の酒、焼酎ハイボールは初代女将がつくり上げた味を頑なに守る。
美味しくリーズナブルなものをとつまみを進化させながら、もてなしの心意気は変わらない。ボール片手にゆるりと過ごせば、わざわざ通う人の気持ち、ストンと腑に落ちる。
[住所]東京都葛飾区堀切5-23-6
[電話]03-3690-9947
[営業時間]17時~23時(日は15時~)
[休日]木
[交通]京成本線堀切菖蒲園駅から徒歩3分
『炭火のかえで』
店主と味、そして常連が作り出す堀切の小さな桃源郷
堀切生まれ堀切育ちのかえでさんが昨年末に開いた、駅近くの焼きとん屋さん。名物の焼酎ハイボールに合わせて何を焼いてもらうか迷っていると「ハラミすじ、珍しいから食べていきなよ」と気さくに声をかけくれたのは常連さんだった。噛み応えがあって、縦の焼き焦がしが香ばしく、確かに旨い。
「おいしいけど手間がかかるんで、出す店は少ないかもしれません」とはかえでさん。なおさら、食べられてよかった。常連さん、ありがとう。
豚バラしそ巻き 250円、ハラミすじ 150円、厚切りラム 250円、レバーねぎ塩 120円、かしら 120円、焼酎ハイボール 300円
女性のかえでさんが店を切り盛りしていること。きんぴらやポテサラといった一品料理も少しずつ増やしていること。そして先の方のようにやさしい常連が多いことで、女性のひとり客も増えているそう。新しい名店の誕生の予感だ。
[住所]東京都葛飾区堀切4-52-5
[電話]03-5680-5161
[営業時間]17時~22時(21時LO)、土・日・祝15時~20時(19時LO)
[休日]不定休
[交通]京成本線堀切菖蒲園駅から徒歩1分
『本格炭火焼肉 牛将』
正肉、ホルモンと一緒に故郷の味のチキンとカレーを
バングラディシュ出身の店主・羅名さんが営む焼肉店。国産牛は部位ごとに6つの精肉卸から仕入れ分けるこだわりぶりだ。本格派の正肉よし、鮮度抜群のホルモンよしだが、まずは名物の店独自のスパイスに漬けたタンドリーチキンを炭火で楽しみたい。
「ボクのお母さんの味を再現したもの。スパイスの味は、日本の味噌汁みたいなもので、家ごとに違うね」。
タンドリーチキン 790円
つまみを焼いて食べたいという常連の声で誕生した逸品は噛み締めた時の弾力、スパイシーな味わいが快楽的で、にんにくと青唐辛子の特製タレで味変させると辛味がピンと立ってこれまた美味。
お土産に用意されたカレーもスパイス使いがエレガントでまろみある味わい。リピーターが多いのも大いに納得の店なのだ。
[住所]東京都葛飾区堀切3-9-6
[電話]03-5698-2198
[営業時間]15時~23時(22時LO)
[休日]月
[交通]京成本線堀切菖蒲園駅から徒歩2分
独自のボール文化にひたれる呑兵衛天国
「控えめに言って最高」と最初に言った人のセンスは賞賛に値するが、こうも多用される今となっては、「感謝しかない」と同じくらい無味乾燥な表現だ。あえて高らかに宣言しよう。堀切は「ちょっと盛って最高」だと。
堀切菖蒲園駅にはこの3年で20回は降り立っている。その目的は飲み歩きだ。駅名の由来となっている江戸時代からの観光名所「堀切菖蒲園」にはまだ行ったことがない。花より団子、いや酒だ。堀切の街はこぢんまりとしていながらも個性的な個人経営の店が密集する呑兵衛タウンだ。
わざわざ飲みに来る左党たちの心を掴んでいるのが、堀切が発祥とされる焼酎ハイボール。焼酎に梅エキス、炭酸を合わせた酒で、昭和20年代から界隈では「とりあえずボール」と注文されるくらいに親しまれている。
ちなみに「ボール」のアクセントは「バール」と同じ。堀切に行ってみたい読者へ、日々のフィールドワークで培った飲み歩き法を指南させていただく。
・レッスン1 『隠れ家 やまさん』で「ボール」を注文してみよう。店主の山田さんは、生まれてから62年間堀切から出たことがないという生粋の堀切人。永ちゃん風にキメているが、陽気で話好きな方なので、堀切のことをいろいろ教えてくれるはず。
・レッスン2 『居酒屋 きよし』で昭和の空気にひたってみよう。堀切の魅力はどこか時代に取り残されたようなノスタルジックな雰囲気。昭和40年創業の同店には、昭和の良き時代の大衆酒場文化がそのままに保存されている。炭酸水の空き瓶は自分の前に並べていくのがこの店のルール。店それぞれに確立された流儀に従う面白さをぜひ体験してほしい。
もつ焼きに焼き肉 肉食飲みがアツい!
・レッスン3 いつも賑う『炭火のかえで』に空席を見つけたら、すかさず滑り込むべし。うら若き女店主は、やはり生まれも育ちも堀切&筋金入りの酒好き。堀切の飲み屋で誰もが知る呑兵衛アイドル、ノンアルだ。そんな言葉はないが、堀切で英才教育を受けた人がどんな飲み屋を営んでいるか、一見の価値あり。
・レッスン5 日本庭園「堀切菖蒲園」へ行ってみよう。見どころの6千株の菖蒲は6月上旬から咲き誇るそうだが、他にも一年中、季節の花が園内を彩っているとのこと。昼は花鳥風月を愉しみ、夜は「まずはボールで」とクールに振る舞える大人が目標だ。
堀切飲みの楽しみは尽きることがない。ちょっと盛って最高なのである。
撮影/橋本真美(やまさん、きよし)、小島昇(かえで)、浅沼ノア(牛将)、取材/渡辺高(やまさん、きよし)、輔老心(かえで、牛将)
※2024年4月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。