音楽の達人“秘話”

ローリング・ストーンズが北米ツアーを開始、名盤中の名盤『レット・イット・ブリード』からの選曲はあるか【休日に聴きたい名盤】

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、ザ・ローリング・ストーンズが1969年に発表した『レット・イット・ブリード』です。ス…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、ザ・ローリング・ストーンズが1969年に発表した『レット・イット・ブリード』です。ストーンズの最高傑作ともいわれる名盤中の名盤。収録されているのは、「ギミー・シェルター」や「無情の世界」など計9曲です。新作アルバムを出したストーンズは2024年4月28日から北米ツアーをスタートさせますが、新作以外ではどんな曲が演奏されるのでしょうか。この名盤からの選曲も期待したいところです。

ロックンロールは70年、ロックは60年の歴史

「Rock and Roll~ロックンロール」という言葉は1950年代、セックスを意味するスラングだった。1950年代初期、アメリカの人気DJだったアラン・フリード(1921~65年)が自身の番組の中で、ロックンロールと叫び、以来、チャック・ベリー(1926~2017年)、リトル・リチャード(1932~2020年)などのミュージシャンによるブラック・ミュージックが、ロックンロールというジャンルとして定着するようになった。

ロックンロールは揺らして転がすという意味で、それがセックスをイメージさせたわけだがロックという言葉はロックンロールの“Rock”の部分を単に抜き出したわけではない。揺らすという意味を持つ「rock」と岩を指す「rock」のイメージを合わせたのがロック・ミュージックで、こちらは1960年代半ば頃から音楽ジャンルの一部となった。

ロックンロールはおよそ70年、ロックは60年近い歴史を今では持つ。そしてロックにはどこかアウトローや不良のイメージがあった。

ストーンズのベストに推される『レット・イット・ブリード』

ザ・ローリング・ストーンズの1969年発表 の『LET IT BLEED(レット・イット・ブリード)』は、初期ロックの名盤中の名盤だ。数多い彼らのアルバムから、この作品をベストに推すファンやマスコミは多い。

1962年に結成されたザ・ローリング・ストーンズの最初のリーダーは、1969年7月3日に 27歳でこの世を去ったブライアン・ジョーンズだった。が、ブライアンのドラッグ問題などもあって、リーダーシップは徐々にミック・ジャガーとキース・リチャーズに移って行った。

『レット・イット・ブリード』のCD

ブライアン・ジョーンズは不在、ミックとキースの2人で事実上制作された

「レット・イット・ブリード』ではブライアン・ジョーンズはほとんどスタジオに現われず、ミック・ジャガーはブライアンに代わるギタリストとしてミック・テイラーを採用することに決めていた。「レット・イット・ブリード」ではブライアン・ジョーンズはギターを演奏していない。 新加入のミック・テイラーも2曲に参加しただけだった。

「レット・イット・ブリード」はミック・ジャガーとキース・リチャーズのふたりによって制作されたといって良いだろう。つまり、現在のザ・ローリング・ストーンズ~ミック・ジャガーとキース・リチャーズによる2人体制となったスタートのアルバムとなる。

『レット・イット・ブリード』にはブライアンの不在を埋めるようにアル・クーパー、レオン・ラッセル、ライ・クーダーなどアメリカのミュージシャンが多くロンドンに招かれた。ただ、ライ・クーダーはアルバムの中の1曲「カントリー・ホンク」(後の大ヒット「ホンキー・トンク・ウィメン」の原型) を自身も作曲に加わったとして、後にザ・ローリング・ストーンズを提訴したが敗訴している。

「無情の世界」が世界的人気に

発売当時日本ではシングル・カットされたタイトル・チューン「レット・イット・ブリード」が人気となった。が、世界的な人気となったのは、最初に録音が始まった「無情の世界(You Can’t Always Get What You Want)」だ。7分を超える大曲で、60人のロンドン・バッハ合唱団による壮大なコーラスで曲が始まる。詞の内容は彼らの全米No.1ソング「サティスファクション」(1965年)への自らによるアンサー・ソングと言える。

もう1曲、「むなしき愛(Love In Vain)」も忘れられない。キース・リチャーズらしいアコースティック・ギターのイントロで始まるこの曲は、彼らが愛して止まないルーツ・ブルーズ・ミュージシャン、ロバート・ジョンソン(1911~38年)のカヴァーだ。

全体的に激しいロック・ヒートの曲は少ないが、各曲のエネルギー感は抜群で、単なるロックの古典でなく、現代のザ・ローリング・ストーンズに通じる名盤と言える。

『レット・イット・ブリード』のジャケット裏

18年ぶりのオリジナル新作『ハックニー・ダイアモンズ』

2024年4月28日(日本時間29日)、米国のヒューストンを皮切りに、彼らは北米ツアーをスタートさせる。2023年10月に発売された18年ぶりのオリジナル新作『ハックニー・ダイアモンズ』のためのツアーだが、この『レット・イット・ブリード』からの選曲があるかも知れない。

『レット・イット・ブリード』(1969年)

『LET IT BLEED(レット・イット・ブリード)』
1.「ギミー・シェルター」
2.「むなしき愛」
3.「カントリー・ホンク」
4.「リヴ・ウィズ・ミー」
5.「レット・イット・ブリード」
6.「ミッドナイト・ランブラー」
7.「ユー・ガット・ザ・シルヴァー」
8.「モンキー・マン」
9.「無情の世界」

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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