10種類の餃子、お薦めは中国で主流の水餃子 池袋から山手線で3駅行った新大久保にも足を運んでみよう。この駅で乗下車する客は、外国人の方が多いほどだ。 駅の広い改札口の左手に、出口専用の小さな改札があり、そこを出て左手に歩…
画像ギャラリー街の風景は、見る人によって異なるものだ。「中国ウォッチャー」である私の場合、繁華街を彷徨すると、まず漢字が目に飛び込んでくる。だが最近、「飯(※実際は、「へん」と「つくり」が簡略化された簡体字)」(ファン=飯)「面」(ミエン=麺)など、中国大陸で使う簡体字の看板が増えた。それらの店こそ、「中国そのものの料理」を提供する「ガチ中華」(ガチンコ中華)店だ。
8割がハズレだった!聖地・池袋と、アジア人街・新大久保を歩く
私はここ数年で、100軒以上の東京都内の「ガチ中華店」を食べ歩いてきた。ざっくり言うと、8割がハズレ、1割がまあまあ、残る1割が当たり! その「当たり店」ばかり16軒を集めて、このほど『進撃の「ガチ中華」中国を超えた?激ウマ中華料理店・探訪記』(講談社刊)を上梓した。以下、「ガチ中華」の聖地・池袋と、アジア人の街・新大久保で、「名店」を歩いてみよう。
残ったら「ダーバオ!」
まず池袋駅の西口、もしくは北口に出る。西口なら向かって右手、北口なら正面に広がっているのが、いわゆる「ガチ中華街」だ。だが横浜中華街のように、大門があるわけではなく、和風の居酒屋などに交じって、そこはかとなく点在している。
「ガチ料理初心者」に足を向けてもらいたいのが、ロマンス通りを進んで1分ほど、右手の飲食ビルの4階にある『四季海岸』。この店のウリは海鮮料理と四川料理だが、分厚いメニューには一通りの中華料理が並んでいて、何を注文してもハズレがない。100席以上ある大型店で、常に中国人客で賑わっている。
私がよく注文するのは、麻婆豆腐、水煮魚、刀削担担麺など。日本人が考えるより大盛りで供されるので、残ったら「打包」(ダーバオ)と言えば包んでくれる。
上海ガニのない時期にどんな蟹を?
続いて、近くにあるビルの2階に位置する上海料理の名店『新天地』。店内ではいつも上海語が飛び交っている。名物は上海ガニだが、9月にならないと入荷しないので、いまの時期、上海人たちは江南賽●蟹(●は「虫」へんに「旁」)に舌鼓を打っている。この料理は名前に蟹が付されているが、「蟹が食べられない時節に蟹を想って食べる料理」。具体的には、蟹の身を擬した白身魚と卵白の黒酢炒めである。上海人が「黒八年」(ヘイバーニエン)と呼ぶ庶民的な紹興酒『石庫門』との相性が抜群だ。
回族料理の名店
さらに2分ほど歩くと、回族料理の名店『アリヤ真清美食』が見えてくる。回族は中国に約1200万人住むイスラム系少数民族で、「真清」は豚肉を使わないハラル料理のこと。そのためこの店は、中国人の他にも、アジア、中東、アフリカなどのイスラム教徒で溢れている。イスラム教で「聖なる色」の「青の世界」が店内に広がっている。
お薦め料理は、果仁菠菜(ほうれん草のナッツ和え)、羊肉串(羊肉の焼き鳥)、油●刀削麺(油ラーメン)(●はサンズイに「發」)などなど。羊肉には、日本の生ビールよりも、爽快なテイストの青島牌酒(青島ビール)がお薦めだ。
10種類の餃子、お薦めは中国で主流の水餃子
池袋から山手線で3駅行った新大久保にも足を運んでみよう。この駅で乗下車する客は、外国人の方が多いほどだ。
駅の広い改札口の左手に、出口専用の小さな改札があり、そこを出て左手に歩くこと数十メートル。中国式水餃子の名店『兆奎餃子』がある。ここでは、瀋陽で「餃子名人」と仰がれた王海峰師傅(親方)が、日々800個もの餃子を握る。その職人芸はオープンキッチンの工房で見られ、寿司職人のように「握る」という動詞が一番ピッタリくる。餃子は肉三鮮餃子(豚肉・エビ・玉子・ニラ入り餃子)以下、10種類。それぞれ水餃子・焼き餃子・蒸し餃子から選択できるが、やはりお薦めは中国で主流の水餃子だ。
「西安式ハンバーガー」「朝鮮族式クレープ」「三西式フライドポテト」とは?
次に、同じく山手線の外側、大久保通りから細い路地に折れて辿り着くのが、西安屋台料理の『張小記』。わずか16席しかないが、いつも若い中国人たちの行列ができている。この店のお薦めは、「西安式ハンバーガー」の「牛肉夾●」(●は、「食」へんに「莫」)と、「ビャンビャン麺」。「ビャン」の漢字は57画もあって、印字不能!
大久保通りを山手線の内側に入ると、東京最大のコリアタウンが広がっている。その一角の地下に、ひっそりと佇むのが、中国朝鮮族料理の『延吉香』。激辛の韓国料理でも、水辛い北朝鮮料理でもない、甘辛の中国朝鮮族料理の逸品が味わえる。「延吉冷麺」と「●冷麺」(朝鮮族式クレープ)(●は「火」へんに「考」)は納得の味だ。
さらに大久保通りを進み、明治通りとの交差点を右折した地下にあるのが、山西料理の名店『山西亭』。私はこの店を「黒酢の魔法使い」と呼んでいるが、「山西式フライドポテト」の「不爛子」を始め、現地の黒酢を使って炒めた絶品が揃う。
さあ、日常とは異なる東京――「ガチ中華の旅」に出かけよう!
文/近藤大介
こんどう・だいすけ。講談社『週刊現代』編集次長、コラムニスト。講談社入社後、北京大学に留学し、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。『現代ビジネス』の連載コラム「北京のランダム・ウォーカー」は700回を超え、日本で最も読まれる中国関連コラムとして知られる。