音楽の達人“秘話”

知る人ぞ知る1967年の『007』で流れた超名曲!ダイアナ・クラール『ザ・ルック・オブ・ラヴ』は巨匠バカラック作曲の大傑作だ【休日に聴きたい名盤】

ダイアナ・クラール『ザ・ルック・オブ・ラヴ』

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライヴで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、女性ジャズ・シンガーのダイアナ・クラールのアルバム『ザ・ルック・オブ・ラヴ』(2001年)です。実は、アルバム収録の表題曲は、映画『007』の主題歌がオリジナルです。

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライヴで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、女性ジャズ・シンガーのダイアナ・クラールのアルバム『ザ・ルック・オブ・ラヴ』(2001年)です。実は、アルバム収録の表題曲は、映画『007』の主題歌がオリジナルです。

2023年に94歳で亡くなった米ポップスの巨匠バート・バカラックが、『007カジノ・ロワイヤル』(1967年)の主題歌として作曲。この映画は、従来の『007』シリーズとは路線の違ういわばパロデイのようなスパイコメディですが、巨匠ジョン・ヒューストン監督も演出を担当し、自身も出演したほか、ジェームズ・ボンド役にデヴィッド・ニーヴン、ピーター・セラーズやオーソン・ウェルズ、ウィリアム・ホールデン、ウディ・アレン、ジャン=ポール・ベルモンドら大スターたちが登場する知る人ぞ知る作品です。

映画を観てから聴くもよし、曲を聴いてから観るもよし。まずは、岩田さんのダイアナ・クラールのお話をお楽しみください。

ジャズ・ヴォーカルの最重要シンガー

音楽好きと言っても様々なタイプがおられると思う。J-POP好き、ロックマニア、ある特定のミュージシャンしか聴かない方。クラシック・ファン…。で、ぼくが思うには世の中、こんなに沢山の音楽があふれているのに、その一部しか聴かないのはもったいなくないだろうか?

今回、御紹介するダイアナ・クラールは現代のジャズ・ヴォーカル・シーンの最重要ミュージシャンのひとりだ。美しくて、声が良く、ピアノも達者。とても惚れがいのある方だ。

ダイアナ・クラール『ザ・ルック・オブ・ラヴ』

カナダ出身、バークリーで学び、1993年にデビュー・アルバム

ダイアナ・クラールは1964年にカナダで生まれ、アメリカ・ボストンのバークリー音楽大学で学んだ。1993年に初めてのアルバム『Stepping Out(ステッピング・アウト)』を発表。この作品がアメリカの名プロデューサー、トミー・リピューマ(1936~2017年)に注目され、それ以降、彼をプロデューサーに迎え、キャリアをステップアップさせていく。

2000年には同じジャズ・シンガーの大御所トニー・ベネット(1926~2023年)と全米ツアーを行ない、その名はさらに広く知られるようになった。そして2001年、第6作目としてこの『The Look Of Love』を発表。アルバムは全米トップ10入りするなど世界中で大ヒットした。

邦題が麗しい!「恋の面影」

タイトル曲の「The Look Of Love」は、その昔の邦題が“恋の面影”。バート・バカラック(1928~2023年)が作曲し、盟友のハル・デヴィッド(1921~2012年、「雨にぬれても」などバカラックとのコンビで有名な米作詞家)が作詞した。

1967年に、ダスティ・スプリングフィールド(1939~99年、英出身の女性歌手)が映画『007カジノ・ロワイヤル」の主題歌として歌い、世界中で大ヒットした。機会があれば、このダスティ・スプリングフィールドのヴァージョンも聴いて欲しい。

ダイアナ・クラール『ザ・ルック・オブ・ラヴ』のドイツ版のジャケット裏

名編曲家クラウス・オガーマンが参加、スタンダード・ナンバー揃い

本作はバンド演奏にプラスして、ロサンゼルス・セッション・オーケストラ、ロンドン・ シンフォニー・オーケストラなどの華麗なオーケストレーションも聴き処だ。

選曲はまずは25曲がオーケストラ抜きでレコーディングされた。そこに名アレンジャーのクラウス・オガーマン(1930年~2016年、数々の名曲を手がけた独出身の編曲家)の手を借り、オーケストレーションを入れて16曲に絞り込まれた。 そこからプロデューサーのトミー・リピューマや参加ミュージシャンと協議して、最終的 に10曲に絞り込まれた。

タイトル曲の「The Look of Love」以外にも、ジョージ・ガーシュイン(1898~1937年、「ラプソディー・イン・ブルー」など数々の名曲を作曲した米作曲家)の「S’ Wonderful(ス・ワンダフル)」、ヴィクター・ヤング(1899~1956年、「星影のステラ」などの名曲や数々の映画音楽を作曲した米音楽家)の「Love Letters(ラヴ・レター)」、ラテンの 「Besame Mucho(ベサメ・ムーチョ)」など、名スタンダード・ナンバー揃いだ。

エルヴィス・コステロと結婚

ややアルト気味のダイアナ・クラールのヴォーカルと彼女の流麗なピアノ曲を盛り上げるオーケストレーション、ラッセル・マローン(1963~2024年、米ジャズ・ギタリスト)、ジェフ・ハミルトン(1953年~、米ジャズ・ドラマー)など現代の名バック・ミュージシャンが生み出す世界は美しく、華麗につきる。

このアルバム発表後、ダイアナ・クラール は英国人ロッカー、エルヴィス・コステロ(1954年~)と結婚した。そのコステロも大のバカラック・ファンで、バカラックとの共作・共演で『The Songs of Bacharach & Costello』(2023年)という素晴しいアルバムを生み出している。

グラミー賞に輝く良音、お酒のお供に聴きたい“夜のアルバム”

この『The Look of Love』は夜のアルバムだとぼくは思う。夜半、お酒でもお供にじっくりと聴いていると、心がゴージャスになってくる。雨の夜のドライヴにもぴったりだと愛用ならぬ愛聴している。

もうひとつ、このアルバムの特徴は録音が素晴しいことだ。グラミー賞では良音アルバムに贈られる最優秀エンジニアリング部門賞を受賞している。グラミーお墨付きの良音アルバムというわけだ。ちょっと良いステレオ・ セットやカーオーディオをお持ちの方なら 録音の素晴しさにすぐ気付けるだろう。

CD はオリジナル盤の他に2020年秋にハイレゾ・ サウンドが聴けるMQA-CDが発売されている。ハイレゾ再生ができなくてもこのCDは UHQCDという普通のCDより高品質の音が楽しめるので、これを機会に購入しようとする方にはそちらをお勧めしたい。

『ザ・ルック・オブ・ラヴ(The Look Of Love)』
1、ス・ワンダフル (’S Wonderful)
2、ラヴ・レター (Love Letters)
3、アイ・リメンバー・ユー (I Remember You)
4、クライ・ミー・ア・リヴァー (Cry Me A River)
5、ベサメ・ムーチョ(Besame Mucho)
6、ザ・ナイト・ウイ・コールド・イット・ア・デイ (The Night We Called It A Day)
7、ダンシング・イン・ザ・ダーク (Dancing In The Dark)
8、アイ・ゲット・アロング・ウイズアウト・ユー・ヴエリー・ウェル(I Get Along Without You Very Well)
9、ザ・ルック・オブ・ラヴ (The Look Of Love)
10、メイビー・ユール・ビー・ゼア(Maybe You’ll Be There)

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。近著は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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