国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、アメリカの人気バンド「アース・ウインド & ファイアー(EW&F)」の名盤『All 'N All』です。「神殿と宇宙」をテーマにした1977年発売のオリジナル・アルバム。ディスコブームの70年代で、グルーヴ(身体を揺り動かしたくなる)感を堪能できるEW&Fを代表する1枚です。ただ、日本では原題よりも『太陽神』という邦題が有名でしょう。なぜ、そのような日本語タイトルが付いたのか。なぜ、収録曲「宇宙のファンタジー(Fantasy)」は本国よりも日本で大ヒットしたのか。岩田さんがその理由、背景をつづります。本稿の公開日の9月21日は「セプテンバーの日」です。EW&Fの大ヒット曲に由来します。
画像ギャラリー国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、アメリカの人気バンド「アース・ウインド & ファイアー(EW&F)」の名盤『All ‘N All』です。「神殿と宇宙」をテーマにした1977年発売のオリジナルアルバム。ディスコブームの70年代で、グルーヴ(身体を揺り動かしたくなる)感を堪能できるEW&Fを代表する1枚です。ただ、日本では原題よりも『太陽神』という邦題が有名でしょう。なぜ、そのような日本語タイトルが付いたのか。なぜ、収録曲「宇宙のファンタジー(Fantasy)」は本国よりも日本で大ヒットしたのか。岩田さんがその理由、背景をつづります。
日本ではEW&Fの曲はどれも人気です。2012年には、レコード会社がアンケートを募り“日本のファンが選ぶEW&Fの「推し曲」の上位20曲”を発表しましたが、「宇宙のファンタジー」は2位でした。1位はやはりと言うべきか「セプテンバー(September)」(1978年、『ベスト・オブ・EW&F Vol.1』収録)。ちなみに「9月21日」は、「the 21st night of September」という歌詞の一部から「セプテンバーの日」としても知られています。EW&Fの結成50周年を記念して日本記念日協会から2020年に認定されました。本稿の公開日は9月21日。『All ‘N All』だけでなく、EW&Fの名盤の数々を改めて聴いてみてはいかがでしょう。
『All ‘N All』は、一般の音楽ファンからも支持された
『All ‘N All』は1977年、アース・ウインド & ファイアー(EW&F)が発表した大ヒット作だ。当時ブームだったディスコのみならず、一般の音楽ファンからも広く支持された。
2024年の現在、クラブDJにも人気が高いのが1970年代のディスコ・サウンドだ。この EW&F以外にもアメリカのディスコ・バンド「シック」、アメリカの女性シンガー、ドナ・サマーなど 当時の人気ディスコ・ミュージシャンのレコードがDJプレイされている。
「Earth, Wind & Fire」は、リーダーのモーリス・ホワイトが名付け親
「Earth, Wind & Fire」(土、空気、火)と 名付けたのはリーダーのモーリス・ホワイト(1941~2016年)だった。これはモーリスの占星図に、土、空気、水の3つの要素があることに由来していた。
『All ‘N All』、邦訳すると“全体を見て”などといった意味になる。邦題は”太陽神”として知られていて、このアルバム以前にも彼らのアルバムは邦題が特徴的だった。『太陽神』の前には『魂』、『灼熱の狂宴』、『暗黒への挑戦』などといった邦題が付けられていた。そういった“邦題群”の中でも 本作『太陽神』と次作『黙示録』は分かりやすく秀逸である。
長岡秀星のジャケットを見て閃いた!
『太陽神』という日本語のタイトルを思いついたの は当時のCBSソニー・レコードの名物ディレクター、Tさんだった。『太陽神』のジャ ケット・デザインは、宇宙やSFをイメージした作風で国際的に人気の高かったイラストレーターの長岡秀星(ながおか・しゅうせい、1936~2015年)が手掛けた。Tさんは、アメリカから送られて来た『All ‘N All』のジャケットを見るや、“太陽神”という言葉が脳内をかけめぐったと、電話でリリースのニュースを伝える時に教えてくれた。
それまでアメリカではEW&Fは超人気バンドだったが、日本では今ひとつ、一般的な人気に欠けていた。そのサウンドもさることながら、ジャケットのイメージとぴったり合った『太陽神』というタイトルも、このアルバムの日本でのヒットに貢献していると思う。
日本人好みの“ドンシャリ音”が特徴的
EW&Fのサウンドは、日本人好みのオー ディオ用語で言う“ドンシャリ”だ。低域がカチッとしていて、高域が対比的にシャリシャリした音質なのだ。
このアルバムのミックスダウン~最終的な音決めをしたアメリカの名エンジニア、ジョージ・マッセンバーグにインタビューした時、何故このような音質に仕上げたのか訊ねた。
ラジオが日本の何十倍も発達しているアメリカではあるが、1970年代、ブラック・ミュージックはFMでなく再生帯域の幅が狭いAM局中心にオンエアされていた。そんな中で EW&Fのように極端とも言えるドンシャリ音の楽曲は、音のエッジが立って、他の曲とひと味違う再生音色になる。要するに目立った音色になるので、そこを狙ったとジョージ・マッセンバーグは語っていた。
「宇宙のファンタジー」は日本とイタリアで大ヒット
「太陽神』と命名したTディレクターのもうひとつのヒットは、アメリカで人気のあったシングル「Jupiter(邦題:銀河の覇者)」でなく、「Fantasy(邦題:宇宙のファンタジー)」をシングルとして重点プロモーションしたことだ。
狙い通り、この曲は日本で大ヒットとなった。アメリカではさほどのヒットにならず、日本とイタリアでのみ大ヒットしたというのは興味深い。
インタールードが素晴らしい!名曲「ブラジルの余韻」
『太陽神』はメインの楽曲だけでなくインタールード(間奏曲)も素晴しかった。アフリカ原産でピアノのルーツと言われる親指ピアノ(カリンバ)をフィーチャーした「In The Marketplace(邦題:市のたつ広場)」、 当時のブラジリアン音楽の鬼才デオダートに作らせた「Brazilian Rhyme (邦題:ブラジ ルの余韻)」などは、間奏曲でなくフル・ヴァージョンを聴きたくなる。モーリス・ホワイ トはカリンバを愛して、当時の自身のオフィスはカリンバ・プロダクションだった。
47年前の音楽なのに「太陽神』には現代の音楽ファンの心も熱くするグルーヴがある。 若いファンにはその新鮮さと熱を味わっていただきたい。
■『All ‘N All/太陽神』
01、「Serpentine Fire」太陽の戦士
02、「Fantasy」宇宙のファンタジー
03、「In the Marketplace」市のたつ広場 (間奏曲)
04、「Jupiter」銀河の覇者
05、「Love’s Holiday」ラヴズ・ホリデー
06、「Brazilian Rhyme(Beijo)」ブラジルの余韻 (間奏曲)
07、「I’ll Write a Song for You」聖なる愛の歌
08、「Magic Mind」マジック・マインド
09、「Runnin」ランニン
10、「Brazilian Rhyme (Ponta De Areia)」ブラジルの余韻
11、「Be Ever Wonderful」ビー・エヴァー・ワンダフル
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。近著は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。