牛込神楽坂『手打ち蕎麦 芳とも庵』 11月下旬から2月末までのひそやかなお楽しみがこの「野鴨蕎麦」。新潟の猟師から届く野生の鴨で作る一杯だ。天然のものゆえ仕入れも不安定な上に手に入らないこともある。そのため前日までの完全…
画像ギャラリー湯気をたててやってくる丼の中には、たっぷりおツユに浮かんだ冬の食材。牡蠣か鴨か、はたまたニシンか。それらを絡めて啜る蕎麦がまぁおいしいわけで。そんなごちそう蕎麦、どうぞ召し上がれ。
浅草橋『手打そば さかき』
寒くなってくるとメニューに加わる「牡蠣南蛮そば」は、オープン以来の冬の定番。心待ちにするファンも多い。「生食用の大きな牡蠣が出始めたら解禁です」と店主の榊原弘順さん。
澄んだツユに大ぶりの牡蠣が4つ、少し散らした長ねぎがいい合いの手だ。三つ葉、ゆず、あおさ海苔が湯気の中に香りを放ち、手繰る前に思わず深呼吸したくなる。牡蠣の旨みが解け出たツユも上品で、気づけば飲み干してしまう。
榊原さんが料理で大切にしているのは季節感。蕎麦もつまみも、走りと名残の食材を入れ替えつつ、少しずつ移り変わっていく。だからこそ、またすぐにでも行きたくなるのだ。
西国分寺『武蔵国分寺 潮』
うどんにはあるが蕎麦には鍋焼きがない。そう思っていたらここにありました。
「十割の蕎麦は伸びやすいから平打ちにしています」。そう話すのは料亭の料理長だったという店主の潮幸司さん。ツユは聖護院かぶらのすり流しで甘くとろりとさせ、牡蠣に火が入りすぎない絶妙なタイミングで運ばれてくる。
そう、これは和食の達人だからこそできる離れ業だ。だって繊細な蕎麦を鍋焼きにしようという発想がもう冒険である。日本料理と呼びたくなるつまみも白子やニシンなど冬のごちそう揃い。おまけに冬限定の幻のカレー南蛮もあるというから興味津々。ぜひ両方制覇を目指してみたい。
尾山台『蕎麦前 ながえ』
「鴨南蛮が好きであちこち食べ歩きました」という店主の中溝伊織さん。研究の果てに作り上げたのがこの理想のスタイル。蔵王で育てたという鴨は、肥育期間が長いため旨みがしっかり肉にのり、程よく弾力のある肉質がいいという。それを低温調理でしっとり仕上げる。
ツユの熱で肉が締まるのを避けるため、上にのせた鴨肉は厚く切り、さらに別添えの肉は薄切りに。「そのままつまみにしてもいいですし、ツユに沈めて食べる方もいますね」という。店名からもわかる通り、日本酒や焼酎、つまみが豊富だから飲んで食べてが楽しい店。〆の「鴨南蛮」までの道のりも呑兵衛には最高だ。
牛込神楽坂『手打ち蕎麦 芳とも庵』
11月下旬から2月末までのひそやかなお楽しみがこの「野鴨蕎麦」。新潟の猟師から届く野生の鴨で作る一杯だ。天然のものゆえ仕入れも不安定な上に手に入らないこともある。そのため前日までの完全予約制。そんな高いハードルを乗り越えてでも、やっぱりこの味を求めてしまう。
鴨の滋味が溶け込んだツユを飲めば、本枯節の風味と共に広がるコクと旨み。それはどこまでも力強く、深い。身にたたえた脂は澄んだ甘みに満ちていて、蕎麦をすすった後に鼻から抜ける香りは重厚だ。さらにこの野鴨のガラでスープをとり、身をさっとくぐらせて食す贅沢な鍋のコースも数量限定で用意する。
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『おとなの週末』2023年12月号より(※本内容は発売時のものです)