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アラン・デュカスの招待で、パリの慈善パーティに参加

そのころ、フランスから支援の申し出が次々にありました。

漁業団体から大量の養殖資材が届き、カキの産地ノルマンディ地方の水産高校からは「気仙沼向洋高校(前身は気仙沼水産高校)へ渡してください」と義援金が送られてきました。

これらの支援は、以前、フランスのカキにウイルス性の病気が発生して海から消えかかったとき、日本の宮城県産の種苗が救ってくれたことへの恩返しだというのです。ルイ・ヴィトン社と同じ理由だったのでした。

当時、生産者はもとより、飲食業、サービス業に携わる人々の苦悩は計り知れず、宮城種でカキが復活した喜びは、語り継がれるほど価値がある出来事だったのです。彼らも昔の絆を忘れないでいてくれたことに、心を動かされました。

フランス料理のシェフ中村勝宏さんからも連絡がありました。我が家は、ヨーロッパヒラガキ(フランスガキ)の養殖もしていたので、日本のフランス料理人がよく訪れていました。中村さんはそのひとりで、世界の首脳が集った北海道洞爺湖サミットの総料理長を経験したこともある、日本を代表するシェフです。

東日本大震災が発生し、宮城種の産地が壊滅的な被害を受けたとの報が伝えられると、フランスではいち早く料理人組合がカキ種苗の支援を決定し、そのための慈善パーティを企画中だというのです。組合長は世界にレストランを展開するアラン・デュカスさんです。中村さんはこう言いました。

「種苗産地の事情に詳しくないので、協力してください。生産者代表として、7月にパリで行われる慈善パーティに出席してくれませんか」

7月、中村さんとともにパリに渡りました。慈善パーティの会場は、外務省近くの迎賓館で、政府関係者やパリの名士でいっぱいです。フランス在住の日本人料理人、そして日本からも応援の料理人が、デュカスさんのもとに駆け付け、調理を手伝っていました。

慈善パーティが始まると、デュカスさんは、昔の恩義に報いるためにこのような会を開催した、と挨拶されました。パーティでは、料理に日本の食材が多く使われていて、心遣いが感じられました。

最後に、日本の生産者を代表して、わたしがスピーチしました。

「昔の出来事を忘れずに、このような形で支援に結びつけてくださったことに心から感謝します。カキを通した交流が、これからも続いていくことを願っています」

会場から、大きな拍手をいただきました。

…つづく「日本を訪れた「ルイ・ヴィトン一族」が「気仙沼産のカキ」に漏らした、感動の一言…まさかこんな共通点があるなんて」では、漁師のカキじいさんとアパレルブランドの「ルイ・ヴィトン」との不思議な縁を明かします。

連載カキじいさん、世界へ行く!第21回
構成/高木香織

●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)

1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。

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高木 香織
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