春カキが旨い季節だ。夏の産卵期を控え、たっぷりと太った甘く旨みの濃いカキである。衣はカリッと身はジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。
そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。
「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。
連載15回「なんと、岩ノリの生育には「黄砂の力」が関係していた…!その「成長のカラクリ」をオーストラリア「世界第2位の鉱山」で目撃」にひきつづき、カキの旨みに欠かせない鉄を産出するオーストラリアのハマスレー鉱山と世界遺産シャーク湾をめぐる旅である。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
鉄を掘る現場へ
この山のもっとも新しい層は、約17億年前のものだそうです。つまりそれは、海にあった最後の鉄からできた層で、17億年前から海に鉄がすっかりなくなったことを意味します。
高台から露天掘りの現場を見下ろしました。写真では見ていましたが、日本では想像もつかない光景です。鉄鉱マンの篠上さんも丸い目を見開き「すごいものですね」と驚いています。15億年以上かけて沈み続けた鉄のかたまりである山を掘り出しているのです。
グルグル回るようにつくられた道を、下までおりていきました。
「危険なので、ふつうはここまでこられませんが、今回は特別なお客様ですので」
と担当者が、ウインクしました。わたしも細いカキのような目で、送り返しました。
上からは小さく見えていたダンプカーやブルドーザーの巨大なこと。タイヤだけで背丈の三倍はあります。コマツや日立建機など日本製でした。
この中にあるトム・プライス鉱山は鉄の含有量が60パーセント以上という世界一品質のよい鉱山だそうです。もう50年以上も掘り続けていて、学校や病院もある人口5,000人の町になっているのです。
掘った鉱石はそのまま売れるわけではありません。製鉄所がある地まで運ぶ運賃を減らすため、なるべく純度を高くしなければなりません。生の鉄鉱石を砕いて選別し、さまざまな処理をします。そのための工場もあります。
でも発見された当時、ここトム・プライス鉱山は、アメリカからもヨーロッパからも遠いので、なかなか鉄鉱石の買い手がつかなかったのです。そこに訪れたのが日本の日本製鉄(当時・八幡製鉄)の社員でした。将来性を見きわめ、いち早くトム・プライス鉱山と長期の買い入れ契約を結びました。それで設備投資ができるようになったのです。
もっともお金がかかるのが、積み出し港までの鉄道を敷くことです。1キロメートルにつき十億円。インド洋のダンピア港まで450キロメートル、鉄道だけで4,500億円の投資が必要でした。