ものづくり大国日本の生命線
日本は1966年からずっと買い続けていて、輸入する鉄鉱石の65パーセント(2000年ごろまで)がこの地域の鉱山からだそうですから、ここはものづくり大国日本の生命線といえます。ここから運び出された鉄が、ここで働くブルドーザーや、巨大なダンプカーに姿を変えて戻ってきているのですから、日本の置かれている立場がよくわかりますね。
わたしが小学生だったころ、日本は、「持たざる国」(資源が少ない国)といわれていたことを思い出しました。その後、中国が鉄の生産で世界一となり、この地域の鉄鉱石は奪い合いになりました。当然価格はうなぎのぼりになりました。24時間フル生産しても注文に応じきれません。
鉄鉱石を満載した貨物列車が走ってきました。積み出し港のダンピア港まで時速80キロメートルで6時間ぐらいかかるそうです。列車の車両の数を1、2……と数えてみました。なんと208両。鉄はいろいろなことを教えてくれます。
南極海は、「地球の肺」
日本に帰る日がやってきました。
日本に向けてパースを飛び立った飛行機は、インド洋上を飛んでいます。インド洋の南は南極海です。南極海は全海洋の5~7パーセントを占め、全海洋とつながっていることから「南大洋」と呼ばれています。「HNLC海域」という海域があります。Hはハイ(たくさんある)、Nはニュートリエント(肥料分)、Lはロー(少ない)、Cはクロロフィル(葉緑素)を意味する言葉です。窒素やリンなどの植物を育む養分はいっぱい含んでいるのに、葉緑素=植物プランクトンの発生が少ない海域のことです。この海域があることはずっと謎でした。
1989年、アメリカのジョン・マーチン博士が、「それは鉄分が不足しているため」とイギリスの科学誌『ネイチャー』に発表し、海洋生物学者に大きな衝撃を与えたのでした。マーチン博士は海水を採取し、ほんの少し鉄を入れる実験をしたのです。すると、鉄を入れた海水には大量にプランクトンが増え、鉄を入れない海水は何の変化もなかったのです。