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工房と養殖の共通点

製品づくりとカキ養殖の現場は、たしかに共通するものがあります。そして、

「わたしたちは職人気質の『石頭(ヴィトン)』兄弟ですね」

と語り合いました。

少し沖に出ると、漁師が植林している山が見えます。1989年(平成元年)から「森は海の恋人植樹祭」と名付けて、毎年植林を続けてきたのです。ルイ・ヴィトン社はその活動を早くから知っていました。そして、東日本大震災の支援先に決めてくれたのです。

わたしは、

「あそこに降った雨が森の養分を含ませ、ここまで流れてきてカキの餌となる植物プランクトンを育てています」

と説明しました。するとパトリックさんは、

「森から海までを一つの風景として捉える、これはデザインですね。ここにも共通性がありますね」

と語ったのです。

パトリックさんが「森は海の恋人植樹祭」に参加

2014年6月、第26回の「森は海の恋人植樹祭」が行われました。連載第1回『「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」』でお話したように、気仙沼湾に注ぐ大川上流に岩手県の室根山に漁師たちが落葉広葉樹の苗を植えるのです。

この日は、フランスからパトリック・ルイ・ヴィトンさんも参加してくださったのです。2011年の東日本大震災のときにたくさんの援助をしてくださってから、3年の月日が経っていました。

パトリックさんとわたしは、2人で苗を植えながら、カキがとりもつ不思議な縁を実感し、確かめ合うことができました。パトリックさんは、わたしのことを、

「相変わらずなんとも気持ちのいい人です」

と持ち上げてくれます。人と接して気持ちがいいというのは、感覚的なものなのです。

「実はわたしもそう思っているんです」

と、わたしは答えました。

海にも案内しました。凪いだ海の水面は鏡のようで、海辺まで迫る森を映し出していました。津波で破壊され、やっと再建した木造和船「あずさ丸」を漕いでもらい、震災前の風景を取り戻した天国のような海と、カキやホヤの味を楽しんでもらったのです。

パトリックさんは、舞根湾の風景が気に入ったようで、写真を多く撮っていかれました。絵を描きたいというのです。「天国のような海」の風景は、彼の心象風景のひとつとして刻まれたようでした。

…つづく「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。

連載カキじいさん、世界へ行く!第22回
構成/高木香織

●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)

1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。

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高木 香織
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