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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「きっかけはパスタ。
声を荒らげて大喧嘩」

ドイツ人の男性と結婚した日本人女性。
食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともにお届けします。
第3回目は、ランチの店選びから大喧嘩に発展したふたり。
ドイツ夫が“彼女”になり、ヒートアップ! 一体どうなることやら。
(ふたりは主に英語で会話していますが、日本語に翻訳してお届けします)

日本人妻、怒る

「フードファイト」と名の付いた本コラムではありますが、大ざっぱな私と温厚な夫の間で声を荒げるようなケンカになることは稀です。

ですが、先日、思わずカッとなってしまった出来事がありました。
それはある日曜のこと。バタバタと食事も摂らず休日出勤しようとする私に向かって、夫は不満そうに「せっかくの日曜日なんだから、一緒にランチくらい食べようよ」と言いました。

家族と一緒に週末の朝ごはんを食べるために、早朝から1時間ドライブすることも厭わない夫(義理の姉の家が、夫の地元ミュンヘンからちょうど車で1時間程度のローゼンハイムという街にあるのです)。大切な休日の食事を軽んじるような私の行動に、黙ってはいられなかったのでしょう。

内心「めんどくさいなあ」と思いつつ、ケンカになるのはもっとめんどくさい。
にっこり笑顔を作って「そうだね。でも私ちょっと急いでるから、近所でささっと食べよう。何にする?」と尋ねると、夫は機嫌を直してウンと頷き「なんでもいいよ」と答えました。

揃ってマンションを出たところで、「あの角のイタリアンのパスタでどう?」と聞いてみました。

そのイタリアンレストランは、小さな店舗ながら、イタリア人オーナーの下、元気のいい若い料理人たちがきびきび立ち働く、なかなか素敵なお店。とくにオリーブオイルへのこだわりは並々ならぬものがあり、雑誌やレストランガイドにも登場する名店なのです。

しかし。

「えぇ~、パスタぁ~?」

もう足はお店に向かっていたのに、夫のその返事に、私の歩みはぴたっと止まりました。
仕事が立て込んでいて、ピリピリしていたせいもあるかもしれません。いつになく激しい口調でこう怒鳴ってしまいました。

「あんたはわがままなガールフレンドか!!!」

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やわやわのゆで置きパスタ

気分は気まぐれな彼女に振り回される男子。心底うんざりしながら「いまさっき『なんでもいい』って言ったじゃん!!!」と畳みかける。
すると夫は、「だってパスタなら僕も作れるし……」と反論を試みる。

あなたの作るパスタと、あのイタリアンのパスタを一緒にしないでもらえますか?
……という言葉は、かろうじて飲み込みました。

私が忙しいときなどにささっと手早く作ってくれるパスタには本当に感謝しているし、もちろん決してマズイわけじゃない。でも麺はいつもかなり柔らかく、味も薄い。

「アルデンテって知ってる?」と聞いてみると「もちろん! でも、麺はソフトなほうが好きなんだ」と胸を張って答える。たしかに、私の知る限り、ドイツではレストランのパスタもちょっと柔らかめです。

そしてこれだけはちょっといただけないのが、なんと、麺を「ゆで置き」するのです。

初めて夫がパスタを作ってくれたとき、ほくほくしながらビールを取り出そうと冷蔵庫を開けると、ん? ゆでたスパゲッティがざるに山盛りになって鎮座しています。

「あれ? ゆですぎちゃったの?」
と聞くと、夫はこう答えたのです。
「ううん、それは明日の朝ごはん用!」

ゴミ箱を見れば、空になったスパゲッティの袋が顔をのぞかせています。
この人、一気にひと袋ゆでちゃったんだ……(平均的なスパゲッティの袋ひとつで、4~5人前はありますよね)。

日本と同じく、ドイツでも残り物を上手に料理することを大切にします。

ゆで残ったパスタは、同じく残り野菜などと一緒に「Auflauf(アウフラウフ)」というドイツ風グラタンに。固くなったパンを潰してお団子にして食べる「Knödel(クヌーデル)」という料理もあります。

しかし翌朝、わざわざ大量にゆででまで食卓にのったのは、フライパンで温められ、フォークをさせばごそっとまるごと持ち上がるような塩味のスパゲッティだったのでした。

夫のパスタはそういうパスタ。もう一度言いますが、それはそれで好きなのです。
でも、とにかくその“わがまま彼女”な反応には、苛立ちを抑えられませんでした。
「もういい。今日はこのまま仕事行くから!」と、彼を置いて、ぷいっと駅を目指しました。

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ドイツ人夫の粋なお詫び

「ただいまぁ……」

その日の深夜、すっかり朝の苛立ちは消え、「ちょっときつく言い過ぎたかなあ」と気まずい気持ちで帰宅しました。すると、

「ジャーーーーーン!」

エプロンをつけた夫が、手にご飯茶わんを持って玄関までスライディング。

面喰っていると、
「今日はごめんね! これ作ったから食べて!」
と差し出されたのは、ご飯茶わんのふちから表面張力のように盛り上がった、茶色い物体。
「これ、なに?」
「なにって、ティラミスだよ!」

パスタはイマイチですが、実は、夫の作るデザートは売り物にも劣らない絶品なのです。
器選びのミスと、量の多さには目をつぶり、
「こっちこそごめんなさい」
と、残さず全部いただきました。

その後、家にあるご飯茶わんをすっかり使って、同じティラミスが5個も6個も冷蔵庫に入っているのを見た時には、「これ、どうしよう……」と思ったけれど。

イラスト/なをこ

●文:溝口シュテルツ真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)/
1982年生まれ、石川県加賀市出身。編集者。週刊誌編集、グルメ誌編集を経て、現在はドイツ人の夫とともにミュンヘン在住。ドイツを中心に、ヨーロッパの暮らし、旅情報などを発信中。私生活ではドイツ語習得、新妻仕事に四苦八苦する日々を送っている。

2014年5月11日公開

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<次ページへ続く>

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