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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「ドイツの謎の行事
『ファッシング』に迫る」

2月にドイツで行われる「ファッシング」。この謎の行事を、ドイツに嫁いだ日本人女性が真相に迫ります。戸惑いの日々を、イラストとともにご紹介します。

それは山盛りのドーナツから始まった

その謎の行事が始まったのは、山盛りのドーナツからでした。
1月下旬、お義母さんのうちでお茶をするからと、いつもなら手土産のケーキをせっせと焼くはずの夫が、「“ファッシング”期間だしね」と、パン屋で売られていたドーナツを大量に買って持って行ったのです。

そのクラップフェン(Krapfen)と呼ばれる穴なしドーナツは、粉砂糖がこれでもかとまぶされたふわっとした生地の中に、アプリコットのジャムが入った親しみやすい味。近頃は中身をクリームやチョコに変え、さまざまにトッピングされたものも登場していて、この時期、ドイツ人たちはこれをパクパクと1度に2個も3個も平らげます。

2月中旬になると、街中では、ちょっとお馬鹿なパレードに遭遇したり、特設舞台の音楽に合わせて歌い踊る仮装姿の人々の姿も見かけるようになりました。

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知らないのは日本人だけ? 世界で有名なお祭り

「ファッシングっていったい何?」
調べてみると、キリスト教由来のものだというのがわかりました。
3月から5月にかけてのいずれかの日曜に行われるイエス・キリストの復活祭、イースターのことは日本でも知られていると思います。
その復活祭の前日から46日前までの「四旬節」と呼ばれる期間、敬虔な人々は肉やお酒を口にすることを控え、心静かにつつましく過ごすそうです。
その46日前にあたるのが今年は2月18日。つまり、ファッシングというのは、自粛期間前になるべくカロリーの高いもの(=ドーナツ)を食べて、飲んで騒いでおこう! という人々の思い、そして真冬の寒さを追い払うための世俗的な祭礼が混ざってできたもの、ということのようです。

呼び名も、ここ南ドイツ、オーストリアなどではファッシングと言われますが、地方によってカーニバル(Karneval)、ファストナハト(Fastnacht)と異なります。
冬の国際ニュースの定番、セクシーな女性がぷりぷりとお尻を振ってパレードを盛り上げるブラジルのカーニバルも、起源は同じ。謎のお馬鹿行事だと思っていたファッシングは、全世界的な超メジャーなお祭りだったのでした。

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鯉を食べる「灰の水曜日」

さて、その後も朝食時や、ちょっとしたおやつに何度も登場するドーナツをかじりながら、ファッシングについていろいろ質問する私に、夫は得意顔で衝撃発言をしました。

「もうすぐコイを食べマス」
「コイ? 恋を食べるの?」
「ノーノーノー、コイだよ! フィッシュフィッシュ!」
「ええっ、コイってあの鯉? 鯉を食べるの? ドイツで?」

そうなのです。ドーナツ三昧をした後の、46日間の初日にあたる「灰の水曜日(Aschermittwoch)」と呼ばれる日。その日に、肉絶ちの決意表明的な意味合いでもってか魚を、とくに海の少ないドイツでさかんに養殖されている鯉を食べるのだと言うのです。地域によっては、クリスマスや新年を祝って鯉を食べる習慣も残っているそう。

「鯉ねえ……。ちょっと苦手意識は否めないし、ましてや外国で食べたいものではないけれど、聞いたからには試さないわけにはいけないよね」
と、「灰の水曜日」の数日前からレストランで聞きまわったものの、鯉メニューを準備している店は見つかりません。すると夫が「じゃあ市場で買って作ろう!」と言うではありませんか。
「ええっ、素人が鯉料理なんて作れるものなの?」
「だって日本人は魚のプロフェッショナルでしょ?」
「ちょっと待ってよ、食べるほうにはそれなりに意見はあるけど、作るとなると……しかも鯉なんて……」
「大丈夫大丈夫、やってみよう!」
と、どうしてだか自宅で鯉料理を作ることに。

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いざ、鯉を調理・実食!

灰の水曜日を2日過ぎた金曜、事前に電話をして確かめておいた市場の鮮魚店に「鯉を1尾」と伝えると、威勢のいい若者がびたびたと暴れる鯉を水槽から網で取り出しました。
まさか生きているものが出てくるとは、と私がぎょっとしている間に、若者は鯉の頭に豪快に3度、4度と棍棒を打ち付け締めると、ウロコを落とし、腹を開いて内臓を取り出します。
仕上げにホースの水でざざっと洗って紙で包むと、「はい、18ユーロね」と目にもとまらぬ早業。

「よい週末を!」と若者の声に送られながら、ちょっとしたショック状態のままずっしりと重い鯉を手にぶら下げて家に帰ると、ドイツ伝統料理のレシピ本に書いてあるとおりにさっそく調理開始。
レモン汁と塩・胡椒を鯉にすり込み、お腹に丸のままのじゃがいもと束にしたパセリを詰め、玉ねぎやニンジンなどの各種野菜を周りに並べ白ワインをじゃばじゃばとかけ、バターをのせてオーブンで1時間蒸し焼きに。本当にこれだけでいいのか? と不安になるくらいの豪快簡単料理です。

1時間後、こころなしかちょっと恨めしいような目をしてこちらを見上げる鯉にナイフを入れ、ひと口。
「うん……鯉だね」
上手な処理がされていたためかドイツの鯉の特徴か、独特の泥くささはかなり軽減されていますが、調理法がよくなかったのか骨も多く食べにくく、美味しい美味しいとフォークが進むものでもありません。白ワインで流し込むようにしてなんとか完食。
「次はマクレレ(鯖)で作ろうね」
魚についてはこだわりのない夫ですらそう言う、ちょっと残念な食卓になってしまいました。

しかし、ドーナツのあとに鯉とは。頭と骨だけになった鯉を眺めていると、真面目で理路整然とした国のイメージだったドイツが、なんだか知れば知るほどおかしな国に感じてくるのでした。

イラスト/なをこ

2015年3月1日公開

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