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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第25回

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第25回
オバケのささやきと
ヤギの脳味噌スープ 後編

「目に見えないもの」と同居している不思議な島、バリ。友人が語る”オバケの学校”とは? そして訪れたヤギ屋でのスープと串の味は? 前編に続き、バリ後編もお楽しみください。

オバケの国でも先生に……

友人によると、バリには精霊をはじめとした、いろいろな種類の「目に見えないもの」が住んでいるらしい。

「幽霊や妖怪のようなサマールと呼ばれるオバケが住んでいて、国みたいなものもあるんだよ」
「国!?」
「そうそう、学校も建ってるとか」
「オバケの学校かあ。『ゲゲゲの鬼太郎』では、オバケに学校も試験もないと歌っていたような」
「うん。連れ去った人間が先生だと、前職を生かしてオバケの国でも先生をやらされるんだって。人間の世界に戻ってきてもオバケの文字とか書けるみたい」

友人の話によると、連れ去られる人は村に一人か二人くらいの高い割合でいて、体ごといなくなる場合と、魂だけ抜いてしまう場合がある。その時は、修行した僧侶がオバケの国へ探しに行って、オバケと交渉して連れ帰ってくるのだそう。

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イケメンに注意!?

「オバケはどんな姿をしているの?」
「普通に人間の姿をしているらしいよ。だから美女に恋をしたら実はオバケなんてことも」
「それは怖いね。見分け方ってないの?」
「それがね、オバケは鼻の下の窪みがないんだって!」
「なんと!」

友人は鼻の下を指差して笑うのだが、もしバリでイケメンが目の前に現れたら、鼻の下の窪みがあるかないかジッと見ることにしよう。

バリの串焼き屋とは……

不思議な場所だ。オバケを追い払うのではなく、オバケと共存する世界……この発想は仏教やキリスト教にはないかも。

ふむふむと感心して聞いていると友人が、おいしいスープと串を出す店があるから、そろそろランチに行こうという。

友人のバイクに二人乗りして街なかへ繰り出すと、もくもくと煙を吐く炭火焼きの店を見つけた。入り口に何やら動物の骨が吊るしてある。なんだか日本のラーメン屋みたいだ。

「そこがヤギ串屋」
「えっ!? ヤ、ヤギ?」

ど、ど、どうしよう。一生食べないと誓った、かわいいヤギを食べていいのか。しかし、気持ちとは裏腹に、いい匂いに反応してグウグウおなかは鳴るが、「ヤギは悪魔」という学生時代の友人の言葉も蘇る。食べても呪われないだろうか? いや、バリというのは常識が逆転していく場所なのだ。かわいいヤギを食ったって……。

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ヤギの脳味噌スープ、その味は?

しばし考え込む私を横目に「串を二人前と~」とさっさと注文する友人。この店のメニューは、ヤギのスープ「グレ」とヤギ串「サテ・カンビン」の2種類だけ。店のおじさんは注文を受けると、さっそく店の外でヤギ串を並べて焼き出した。日本の焼き鳥よりもやや小さいけれど一人分で7本もある。

一方、奥さんがかき混ぜている大きなヤギ鍋を覗くと、ぐつぐつと濃厚なスープが湯気を立てている。中身の具をサッとお椀に入れて、ご飯と一緒に持ってきてくれた。
うわー、スパイシーないい香り。ヤギ、ごめん! どうにも、旨そうよ!

「おばちゃん、これって何が入っているの?」
「ええと臓物と脳味噌」
「脳味噌!?」
「そうそう、ここ。今日はいっぱい入れた」

頭を指差しながら、おばちゃんはフフフと笑うのだが、この白くてプカーンと浮かんでいるのが、脳味噌かしらね? イランでヒツジの脳味噌サンドイッチを見た時も怖気づいたけど、そんなときは脳味噌ではなく高級な白子なのだと思い込めばおいしくいただけるはずだ。

香りはトンコツラーメンに似ているが、ひと口、スプーンですくって口に入れてみると、なんとも優しい味。スパイスは使っているが辛すぎず、濃厚だがしつこくはない。

もはや、あんなに大学時代、かわいがっていたヤギのことはすっかり忘れ、「こんなに旨いなら、もっと早く食えばよかった」と思うのだから、人間とは勝手な生き物だ。

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ピーナッツとの相性は抜群!

「旨い、旨い」とヤギスープを飲み干したころ、ヤギ串が焼きあがったらしい。注文を受けてから焼くので、時間はかかるけれど仕事は丁寧だ。

おじさんがピーナッツソースをかけるか聞くが、焼き鳥はさっぱりとした塩派なので、そのまま食べてみる。肉は硬いが牛とヒツジの間のような味わいだ。

次に、「甘いのはなあ……」と思いつつ、おじさんの特製「ピーナッツソース」をかけると、これが病み付きに! ヤギとピーナッツって相性いいのね! そういえば、ヤギの目ってピーナッツに似ているなあ。

「ヤギ、最高~!」
「よかった、喜んでもらえて。ヤギってさ、精力をつけたいときに食べるんだよ」
「なるほど、男性にとってはウナギみたいなものかしらね?」
「そうそう、血流が良くなるから女性はお肌にいいみたい」

焼き鳥屋に焼きとん屋さんはあるけれど、焼きヤギ屋が日本にもできないかしら? 高価なウナギよりも安くてサラリーマンのお財布にも優しそうだ。


2015年5月6日公開

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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