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就労をサポートするパン屋さんで美味しいパンを見つけた!

就労をサポートするパン屋さんで美味しいパンを見つけた!第3回
障がい者が働く銀座の
ベーカリー&カフェ

 知的および精神障がいを持つ人たちや、引きこもりなどで社会に溶け込めない人たちの就労支援を行っているパン屋さんがあります。こだわりの材料を使い、美味しいパンで人気を呼んでいるところを、実際に訪ねてみました。温かみにあふれた商品は、どれも優しい味わいに包まれていました。

障がい者の工賃の低さから発案

  ガラス張りの店内は、昭和通りから差し込む陽を浴びて、とても明るい。並べられた数々のパンにも、ふんわりした温かみを感じる。

 1日に50~60個売れるショコラ、ほぼ同数を売り上げるクイーンシュー。お昼時には、これらの人気メニューが陳列棚から消えていく。ふわっとした生地にチョコチップがふんだんに入ったショコラも、クリームのボリュームたっぷりのクイーンシューも、まろやかな味である。

 この店――『スワンベーカリー』は、ヤマト運輸の2代目社長でヤマト福祉財団を設立した小倉昌男さんが立ち上げた銀座のパン屋さんである。小倉さんは福祉活動のひとつとして、阪神淡路大震災後の被災地を訪れた。彼は、当地で障がい者が働く作業所を見学した。

「働いている障がい者の工賃が1万円にもみたないという現実に直面したんです。福祉財団として何か出来ることはないかと考えたなかで、タカキベーカリーの高木誠一社長と対談する機会がありまして、冷凍生地を紹介されました。冷凍生地ですから、粉をこねる必要はなくて、障がい者でも作業が可能だと判断しました。当然、パンですから、美味しければリピーターがついてきますよね。それで1998年6月に銀座の1号店をオープンしたんです」(株式会社スワン総務部マネージャー 藤野広一さん)

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大事なのは“働く喜びを与える”こと

 小倉昌男さんについて、藤野さんは説明する。
「クロネコヤマトでも障がい者を雇用していましたが、バックヤードの仕事が多いじゃないですか。もっと表に出てもらって、銀座のベーカリーの店舗に出て、直接、お客さんと接してもらおうと。かつ、パン作りは障がい者に適しているんじゃないかと。現在、4店舗の直営店、24店舗のフランチャイズを合わせて、350名くらいの障がいを持つ方が働いています。
 自分で通勤ができて、身の回りのこと、挨拶程度はできるという採用基準はありますが、最低10万円は稼げるようにしています。ウチに来るまでは、お金を稼いだことがないと思うんです。自分の口座に給料が入ってくるわけですから、そこに喜びを感じているようですね。オープンして18年になりますが、よほどのことがなければ離職しません。銀座スワンベーカリーとカフェは従業員35名のうち、18名が障がい者です」

 パン生地に詰め物をしたり、チーズを乗せたりと加工作業が主になるが、仕上げ、販売、レジ打ち、接客など、本人に合ったことを担当させるのも藤野さんの仕事だ。
「トレーニングマニュアルはありません。作れないんです。ひとりひとりに合ったサポートをしなければいけないので。その子に合った場所を見つけてあげる必要があります。障がい者が働いていますが普通のパン屋さんなわけですから、彼らがミスをすれば当然叱りますし、いいことがあれば褒めます。
 肝心なのは、“働く喜びを与える”ということじゃないでしょうか。私もそうなのですが、福祉の看板を出しているわけではないので、特別な勉強もしたことはないです。私は元々クロネコのドライバーで、ここに異動になって付き合うようになったんですよ」

 2000年の10月からスワンで働くようになった藤野さんは、当初から、違和感なく障がいを持つ方と付き合ってきたが、4~5年してさらに手応えを感じ、ベーカリーの隣にレストラン、『スワンカフェ』を立ち上げた。

「接客の経験のない障がい者をお客さんの前に出せるようになるのに、2年かかりました。みんな、壁際に立って、動こうとしないんです。今、カフェは指示がなくても動けるようになっていますが(笑)。小倉は、お客様の目線になって、喜ぶことをやりましょうと宅急便を始めた人ですから、スワンもそうです。彼の教えが浸透していますよ。それがないと務まらないですね」

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障がい者も健常者も、結局は「個」

 ランチ時は混雑する。忙しく動きまわる店員たちは、笑顔を忘れず、機敏に動く。ホールには障がいを持つ何名かのスタッフの姿があった。

『スワンカフェ』の店長・鈴木敦士さんにも話を聞いた。
「一緒に働いてみて思うんですよ。障がい者と健常者の違いって何なのか? そんなものは、全くないですよ。僕には障がい者だから、健常者だからという考えがなくなりました。教え方も、注意の仕方も健常者と同じです。もちろん個人差はありますし、覚えるスピードも違いますが、教えていけば何でもできます。障がい者も健常者も同じように接しています。結局は個なんですよね。皆、ひとりひとり違います。それを勉強させられました。
 一般のお客さんって障がいを持つ人と接する機会がないじゃないですか。だから、どうしても身構えちゃう。でも、ここに来ると、障がいのある人が話しかけてきてくれる。会話できる、仕事ぶりも見られる。あるお客さんに『健常者が障がい者と接するリハビリ施設になってるね』って言われたことがあります。あ、そういう考え方もあるんだな、と思ったりしました。銀座でしっかり営業して、店として成り立たせることを常に考えています」

 連日、ランチではかなりの行列ができる。この日の日替わりメニューである、有機トマトホールで作ったトマトソースのパスタを注文した。銀座の一等地を混み合せる納得の味。皿から、鈴木店長の言葉の説得力を感じた。

■スワンベーカリー 銀座店
住所:東京都中央区銀座2-12-15/電話:03-3543-1066

■スワンカフェ 銀座店
住所:東京都中央区銀座2-12-16/電話:03-5148-5860

2015年5月23日公開

●林壮一(はやし そういち)/
アメリカ合衆国で20年にわたってボクシング、NBA、MLBの取材を重ねる。昨年、少年向けに日本代表の20年史「進め! サムライブルー」(講談社)を敢行。埼玉県図書館の推薦本にも選ばれ好評を博す(現在7刷)。10年の月日を費やした自信作『マイノリティーの拳』(新潮社)も、先日文庫化されている。

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