カキが旨い季節がやってきた。ジューシーなカキフライ、炊きたてのカキご飯、茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。
そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。
「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。
これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載21回「あのルイ・ヴィトンも絶賛…!「日本のカキ」は、なぜかフランス人に愛されている「納得の理由」」にひきつづき、東日本大震災のカキ復興の手助けをしてくれたルイ・ヴィトン家を訪ねる旅である。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
【前回まで】
東日本大震災で壊滅的被害を受けた気仙沼のカキ養殖は、仲間との協業や仮設住宅の人々の協力で再建に動き出しました。その過程で、かつてフランスのカキが病気で壊滅しかけた際、日本の宮城産の種苗が救った恩義から、ルイ・ヴィトン社やノルマンディの漁業団体などが支援を表明。さらに世界的シェフのアラン・デュカスが慈善パーティを企画し、フランス料理界や市民が復興支援に立ち上がりました。カキを介した絆が再び希望を灯したのです。
ルイ・ヴィトンのアトリエを訪問
パリでは、ルイ・ヴィトン社からも招待を受けていました。わたしは、初代ルイ・ヴィトンがパリ郊外のアニエール・シュル・セーヌに1859年に構えた、最初のアトリエに向かいました。隣にはヴィトン一族の屋敷があり、その一部は博物館として招待客のみに公開されています。
アニエールに着くと、どっしりした体格のにこやかな紳士が出迎えてくれました。創業家5代目当主、パトリック・ルイ・ヴィトンさんです。開口一番、
「私はカキに目がありません。別荘のあるブルターニュはカキの産地で養殖組合長は親友です。日本のカキ種苗がフランスのカキを救ってくれたことも知っています。このたびは津波被害大変でしたね。お母さまを亡くされたそうで、お悔やみ申し上げます」
と言われました。支援についてお礼を述べると、こう語られたのです。