華やかな種もの蕎麦とは真逆の世界観の蕎麦が「かけ」と「花巻」。その静謐で奥ゆかしく、けれど心底「旨ぇ・・・」と感じる沁み渡る味わいは、姿は地味にして味わいは滋味深い、温蕎麦の宝なのです。
画像ギャラリーかけそば 『手打ち蕎麦 成冨』
「風のない水面のようなイメージ」という澄んだつゆは「かけそば」専用のもの。鼻先で心地よく誘い、飲めばすっと身体に染み込み、旨い! 細めに端正に打たれた十割の蕎麦とバランスよく絡み、気持ちよくすすったあとの風味も秀逸だ。
手打ち蕎麦 成冨のかけそば 1100円
曇り無く澄んだダシと
十割の端正な蕎麦が
体にすっと染みわたる
「お客様の美味しいものに対する感覚も、進化してますよね」とご主人の成冨雅明さんは言う。銀座という土地柄、感度の高さもあるのだろう。そのお客さんに出す「かけそば」のつゆは、雑味がないもの、体にすーっと染みて、スキっとするものにしたいと考えている。蕎麦は、本来持っている味・香りを生かすべく十割にして、まるで二八のようなのど越しのよさも追求。気持ちよくすすれて、風味豊かな味わいが魅力である。
[TEL]03-5565-0055
[営業時間]11時半~14時LO、18時~20時25分LO、第2・第4土曜日はコース料理のみ
[休日]日曜日・祝日・第1/3/5土曜日
[アクセス]地下鉄大江戸線築地市場駅2番出口から徒歩3分
「お客様の美味しいものに対する感覚も、進化してますよね」とご主人の成冨雅明さんは言う。銀座という土地柄、感度の高さもあるのだろう。
花巻そば 『つきじ 文化人』
蓋を開ければ、ぱあっと磯の香り。三つ葉の香りも相まって、粋な香りに包まれる。薄削りのダシでさらっといけるつゆに、しっとりと海苔が馴染んでいく。わさびもちょんと乗せ、細打ちの十割蕎麦をすすれば、旨ぇなあとしみじみ。
つきじ 文化人の花巻そば 並980円、上1070円
ぱあっと広がる 磯の香りを楽しみつつ あと味までまた旨し
「海苔と蕎麦、それだけでシンプルですし、何でもありの時代とは真逆なところがいいですよね」とは、ご主人・松田裕次郎さんが語るところの「花巻」の魅力だ。今は少なくなった浅草海苔に変わって、現在は荒すさび海苔という品種が多く使われるというが、中でも香りがあるものにこだわっている。パリッとした海苔がつゆにしっとり染みていく風情がいい。〝新しい老舗〟を目指すというお店の花巻。あと味までしみじみ旨い。
[TEL]03-6228-4293
[営業時間]11時半~13時半LO、17時半~21時半LO
[休日]日曜日・祝日(月曜日不定休)※ランチタイム有
[アクセス]地下鉄日比谷線築地駅2番出口、東銀座駅5番出口から徒歩3分
「海苔と蕎麦、それだけでシンプルですし、何でもありの時代とは真逆なところがいいですよね」とは、ご主人・松田裕次郎さんが語るところの「花巻」の魅力だ。
つゆに心を澄まし 香りに風情を感じるべし
蕎麦とつゆ。言うまでもなく、「かけそば」を構成するのはシンプルにこの2つ。逆に言えば、それゆえに蕎麦屋にとっては何のごまかしもきかず、すっぴんのこだわりが現れる一杯。温蕎麦の粋を味わうならまずこれだ。
さてそこで、かけそばではどこにこだわるか、『成冨』の主人・成冨雅明さんに聞いてみた。「蕎麦のどこをこだわるかといえば、まず蕎麦そのものの味が一つ、ダシが一つ。かけそばは、その後者の典型です。私の場合は、あくまで澄んだきれいなダシでありたいと思っています」
『成冨』では、鰹節と昆布に干し椎茸で味の厚みを出してダシを取る。その鰹節も血合い抜きの本枯節で薄削り。天種が入るような種ものでは、それを受け止める強さが欲しいので血合い入りと使い分ける。いわば和食の世界の一番ダシのイメージだ。
そしてもう一つ、つゆの提供温度にもこだわっている。「ダシの美味しさは、熱々より少し下がった方が感じやすい。一番美味しいと感じるのが85〜86℃位。その温度で供します」
今回の取材では、ほかにも各店で「かけそば」のつゆについて聞いてみたが、共通していたのは「味わって、飲み干してほしい」ということ。ダシの素材や削り方、取り方は実は驚くほどそれぞれ違う。心を澄ましてじっくり味わうべしだ。
かたや「花巻」。こちらはまた別の風情がある。元来この蕎麦は蓋付で提供され、蓋を開けると湯気と一緒に、ふわーんと磯の香りが漂うのが醍醐味。かけそばに焼き海苔を散らし、花に見立てた風流な蕎麦だ。
その名前の由来は諸説あるが、『つきじ 文化人』の店主・松田裕次郎さんによるとこうだ。「浜辺に干した海苔が花のようで『磯の花』と謳われた。蓋を開けたときの景色がそう見えるところからと聞いています」
文化人ではちょっと青海苔が混ざった香りのいい海苔を選んでいるが、ほかでは、花巻の海苔はつゆにしっかり溶けるものを使うとも聞いた。いやはや海苔一枚にしても奥が深いのだ。
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