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気の利いたつまみできゅっと一杯、はあ、たまらんですな~。昼飲みや夕暮れ飲みにぴったりなのがゆるりと飲んで、つるりと〆る蕎麦前。幾多の蕎麦特集を担当し、身体を張って覆面調査と取材を敢行してきた「おとなの週末」スタッフ。「ココで飲むのが好き」というお気に入りをこっそり公開します。

【ライター肥田木奈々が太鼓判!】『蕎麦 おさめ』 @目白

一点の曇もない誠実な姿勢と味に心底惚れる

店へと誘う石畳はいつもスキップだ。築100年の家屋を進めば四季を感じる坪庭、趣のある和室。今一番好きな蕎麦屋は?と聞かれたら即答する。『蕎麦おさめ』。在来種の魅力を伝える納さんの店である。

まず玉子焼き、にしん。特に前者はかけ汁を含ませ焼いた上品な味に感嘆。

お通しにしん 1430円、玉子焼き 880円、日本酒五勺 660円~

『蕎麦 おさめ』(手前)お通しにしん 1430円、(奥)玉子焼き 880円、(左)日本酒五勺 660円~ 玉子焼きはやさしいダシの風味。数日かけて仕込むにしんは滋味深い。かつて茶人や音楽家の住居だったという日本家屋はその風情でも飲める

そんな王道もいいが、若き感性の新作に出合えるのもまた喜びだろう。唸ったのは羊ロース。定番の鴨と同じ手法で挑戦したそうで、しっとり力強い旨みに驚くやらうれしいやら。そして野趣あふれる十割で〆ればもう至福の極み。帰りの石畳もスキップ、のはずがほろ酔いでおっとと。これもいつものことですけどね。

『蕎麦 おさめ』

[住所]東京都新宿区下落合3-21-5
[電話]03-6908-2362
[営業時間]11時半~14時半(14時LO)、17時半~21時(20時LO)
[休日]月・火
[交通]JR山手線目白駅から徒歩7分

【編集武内慎司が太鼓判!】『翁庵』 @上野

自身の変化にうれしくなった地味うまな一品

容姿は地味だ。薄めの油揚げを蕎麦つゆベースの調味料で煮ただけ。わさびの緑がよく映える。しかし、初めてこれをつまみに松竹梅のぬる燗をクッとやった時、ちょっと心が震えてしまった。まずはそのおいしさ。揚げにはキレのよい甘じょっぱい味が染み込み、わさびを絡めればさらに清々しさが加わり、酒が進んで仕方ない

油揚甘辛煮 450円、親子煮 900円、日本酒 600円

『翁庵』(手前)油揚甘辛煮 450円、(左奥)親子煮 900円、(右奥)日本酒 600円 甘辛煮は元々、夏限定の冷やしきつね蕎麦の具材で、これで飲みたいという要望に応えたもの。親子煮は椎茸、長ネギ、かまぼこと具沢山。親子丼には玉ねぎを使用。日本酒は松竹梅の樽酒のみという潔さだ

もうひとつは、このひと皿を喜べる大人になれたこと。それまで鴨や天ぷらなどを楽しむことが多かった自分なのに、蕎麦前には力の抜けたこれがいいと思えるだなんて。

まずはこの地味うまな一品で酒を飲み、自慢の蕎麦で〆る。常連がさっと手繰っては帰っていくなか、少しだけの長居が定番になりそうだ。

『翁庵』

[住所]東京都台東区東上野3-39-8
[電話]03-3831-2660
[営業時間]11時~20時(土は~19時)
[休日]日・祝
[交通]JR山手線ほか上野駅浅草口・広小路口から徒歩4分

【ライター菜々山いく子が太鼓判!】『蕎麦カネイ』 @西荻窪

ほっとする酒肴と気取らない風情に心がととのう

この店にやってくるのは平日の昼の混雑が過ぎた頃合い。扉を開けるといつもと変わらない女将さんの柔らかな笑顔に迎えられた。靴を脱いで上がる土禁スタイルもちょっと変わっていて、なんだか友達の家に来たみたい

つまみの揃えは江戸前伝統の蕎麦味噌や板わさに、旬やひと手間を+αした小鉢などで、華やか過ぎないそんな味がほっと舌に馴染んでくれる。

うずら卵の味噌漬け 600円、本日の白あえ 600円、大信州 1000円、鴨皮茗荷ポン酢 500円

『蕎麦カネイ』(手前から時計回りに)うずら卵の味噌漬け 600円 半熟のポーチドエッグにした卵を麹味噌に漬けた絶好の酒の肴だ、本日の白あえ 600円 この日はグリーンピースと空豆を練りゴマでコクを持たせた衣で和えて春らしい香り満点、大信州 1000円、鴨皮茗荷ポン酢 500円 爽やかなミョウガの香りと食感が湯引きした皮の旨みを引き立てる

お膳に乗り切るくらいの2~3品を頼んで手触りのいい盃を傾ける。ちなみに通し営業なので時間を気にする必要もなしだ。

ほろ酔いで〆の蕎麦選びに頭を悩ませるのも最後のお楽しみ。ゆるりと気の向くままに過ごせるこの店の蕎麦前は、私の心がととのう時間だ。

『蕎麦カネイ』

[住所]東京都杉並区西荻南3-16-5
[電話]非公開
[営業時間]11時半~20時(19時半LO)
[休日]水、第2・4火
[交通]JR総武線ほか西荻窪駅南口から徒歩3分

【編集門脇宏が太鼓判!】『しらかめ』 @経堂

ここにしかない浮浪雲のようなのびやかな余韻

頼むのは出汁巻き、時々鴨ロース。〆は気分でいろいろと。それがここでの過ごし方だ。

特に好きなのは出汁巻きで、ひと口食べるとダシの多さに驚かされる。海外から帰ってくると真っ先に食べたくなるのがここの出汁巻き、といえばその魅力が伝わるだろうか。これほどたっぷりのダシを使った出汁巻きはあまり他所では見かけない。

聞けば、最大限強火にしてふわっと仕上げているとか。どこまでも舌にやさしくて、心も解きほぐされていくようだ。

鴨ロース 1120円、出汁巻き 830円、新政 600円(90ml)

『しらかめ』(手前)鴨ロース 1120円、(左奥)出汁巻き 830円、(右奥)新政 600円(90ml) 皮目を焼いた鴨肉を自家製のタレに漬け、低温で火を入れてから休ませる。この作業を繰り返しながらゆっくり仕上げていく。ねっとりとした食感がイイ。出汁巻きは穴子入りもある(1120円)

鴨ロースも舌に絡みつくような食感と確かな旨みで酒を呼ぶ。〆の蕎麦はキリリとした十割の細切り。店を出ると、いつも朗らかでのびやかな気分になる。この余韻が『しらかめ』なのだ。

『しらかめ』

[住所]東京都世田谷区経堂1-27-13 ディアコード経堂1階
[電話]03-3420-1988
[営業時間]11時半~20時半(売り切れ次第終了)
[休日]火・不定休あり
[交通]小田急線経堂駅から徒歩5分

撮影/貝塚隆、取材/肥田木奈々(おさめ)、武内慎司(翁庵)、菜々山いく子(蕎麦カネイ)、門脇宏(しらかめ)

2024年5月号

※2024年5月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部
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