近頃ますます刷新されている和菓子の世界ですが、集めてみると、華やかで軽やかで、楽しい! そんな個性派"にゅーうぇーぶ系"和菓子を厳選してご紹介。ぜひお楽しみあれ。
画像ギャラリー『鎌倉創作和菓子 手毬』@鎌倉
しきたりの多い和菓子界の門戸を開いた先駆者
お店のねりきりに使う色は、ピンク、黄、青、緑のみ。この4色の組み合わせや濃淡の調整で、すべての形を表現する。「手毬」の中はこしあん、それ以外は白あん。あんには最低限の砂糖しか使っていない
体験は毎月メニューが変わり、取材時の3月は「春てまり」。1時間で生菓子を3 個作れる。参加費2900円。3色のねりきりで形を作る。楽しくてリピーターが多いのも納得。
代表取締役 御園井裕子さん
「和菓子って楽しい!美味しいって思っていただけたら幸せです」
「和菓子職人じゃないから」という代表取締役 御園井裕子さん。だからこそ独自路線を貫き、和菓子の世界を切り拓いてきた。
お店では注文対応のねりきりの販売(月の前半後半で少しずつ入れ替わりながら、約15種が揃う)と、和菓子づくり体験講座を開催。
甜菜糖を使ったオーガニック和菓子のほか、ヘルシーという和菓子の原点を見直し、古代米を使った「古代もち」など大和菓子にも挑戦中
『麻布野菜菓子』@麻布十番
野菜と和菓子のさらなる可能性を日々模索中
柿とバターのきんつば(351円)
あんぽ柿の果肉入り。口中でバターが溶けるとまろやかに
オーナーの花崎年秀さんは、グラフィックデザイナー。畑違いの柔軟な発想で、自分があったらいいなと思うお菓子を企画。
自宅ガレージを改装した小さな店で始めたのが2012年。今では、フィナンシェ、羊羹、野菜チップスなど多岐に渡る。
14年に現在の場所に移転。喫茶も開始し、生菓子がスタートした。夏は、セロリやほおずきなど珍しいかき氷が人気だ
代表取締役 花崎年秀さん
「喫茶で食べられるモンブランもおすすめです」
『タケノとおはぎ 桜新町店』@桜新町
素材の選び方や 色合いのセンスが抜群
祖母の作るおはぎが、小さい頃から大好きだったという店主の小川さん。店のおはぎのあんは、そんな祖母の味がベースだ。
毎日7種のおはぎが登場し、3・5・7個用のわっぱに入れてくれる。
並びのこだわりは、色のグラデーション。スペイン料理は単色のメニューを皿にのせたときに美しく見せていたので、おはぎも同様に。
売り切れが早いので、予約がおすすめ
日替わり七種セット(1860円、内容により異なる)
上から時計回りに、麻の実ときなこ・夜座桜・ミモザ・金ゴマと高糖度かんしょ・つぶ餡・こし餡・桜がくし
「夜座桜」
断面の色合いにもセンスが光る
真ん中の「桜がくし」はさんざしの香りがふわり。桜の塩漬けを練り込んだ白あんと、カカオが絶妙に合う「夜座桜」、オレンジの風味が爽やかな「ミモザ」など。
丸いものは丸いものに(角が立たない)という祖母の教えから、わっぱにこだわる。1個から販売可
代表取締役 小川寛貴さん
「ご要望に合わせたオーダーメイドも受け付けています!」
『和菓子 薫風』@千駄木
日本酒と和菓子の相性のよさは想像以上
りんごのきんとん(660円)
リンゴの羊羹をまとわせ、中はリンゴあん
ディル餅(660円)
カスタードのような黄身あん。ディルのパンチがいい塩梅
割烹料理店で働いているときに、和菓子と日本酒の相性のよさに開眼したという店主。用いる素材で味のバランスを調整するなど、つくださんの和菓子の作り方は料理のよう。
定番の「ごぼう夢」「白羊羹」「焼浮島」のほか、季節の生菓子やぜんざいが登場。日本酒はマニアも唸る品揃えで、組み合わせのバリエーションは無限だ。
果物のコンフィチュールを合わせたどら焼きも人気。
薫風お試しセット(1650円)
和菓子と日本酒各3種のマリアージュを
ブラッドオレンジの寒天ぜんざい(660円)
甘酒ミルクがクセになる
店主 つくださちこさん
「ぜひ作りたての和菓子の美味しさを味わってください」
『SAKATAYA 1793』@豪徳寺
老舗の枠を超えた 新しくも懐かしい販売スタイル
いちごわらび(400円)
口中に広がるイチゴの果汁と共に、ほわほわのわらび餅がとろける
へちかん(450円)
ゴマの風味は濃厚だが、あと味はやさしく軽やか
桃里(450円)
古典的なきんとんもラインナップに入れ込み、新旧を対比させるのも狙い
新潟県村上市の老舗和菓子店『酒田屋』の11代目が始めた新ブランド。生菓子4種、あん焼3種のみと、本店とは異なるラインナップだ。
代々受け継がれている、小豆の渋みを切ったあっさりとしたあんを使い、目指す和菓子は「淡麗甘口」だとか。
和菓子がひとつずつのせられたガラスドームもおしゃれ。しかもなんと、実家の土蔵に眠っていた大正時代のものと聞いてびっくり!
あん焼(ストロベリーローズ、250円)
しっとり感と芳醇な香りが秀逸
11代目 日下 拓さん
「うちの和菓子は紅茶やコーヒーにも合いますよ」
『季節のお菓子 omatsu』@井の頭公園
豆の風味を活かした 穏やかでやさしい味わい
新緑の香り(400円、要予約)
井の頭公園のさわさわと緑が重なり光が溢れる様子をイメージ
甘夏の水羊羹(370円)
愛媛の甘夏を使用。爽やかさの中に豆の風味も
山椒餅(360円)
道明寺粉に山椒をほんの少し混ぜている。山椒の香りに包まれる余韻がいい
和菓子研究家・金塚晴子さんのアシスタントを務めていたという店主が、昨年オープンしたお店。じわじわ、週1回の開店を楽しみにしている人が増えている。
和菓子は季節に合わせて5種類ほど。あんの配合は師・金塚さんのレシピと同じだが、原点は母の味だという。出身地の茨城から取り寄せる果物を使った和菓子にも注目!
席数は少ないが、イートインも可能。
おこしグラノーラ(380円)
お土産のリクエストが多く考案された。ライスパフやカボチャの種、黒豆、アーモンドを黒糖で絡めたもの。
サクサクポリポリの歯触りが楽しい。コーヒーのお供にも◎
店主 松立直子さん
「不定期で和菓子の教室も開催しています」
素材の選び方? それとも、デザイン? 新しい試みが続々
ねりきりの生菓子を普段のおやつで食べてますよ、なんて人がいたら、なかなかの強者。抹茶を点てるときの茶菓子のイメージが強いし、軽い気持ちで食べちゃいけない気がしてた。
その考えがガラッと変わったのが、『鎌倉創作和菓子 手毬』。
代表作の「手毬」は、ころんとした小さな形もかわいいし、パステルカラーのセンスも抜群。
和菓子の手作り体験も、「ねりきりは食べたことがないけど、楽しそうだったから」という女子たちが参加。
味わえば、甘さ控えめのなめらかなあんで、すーっと体に馴染んでいく。これが初めてのねりきりなら、きっと和菓子を好きになるに違いない。
店主の御園井裕子さんが和菓子を作り始めたのは約25年前。和菓子は男性社会で、お店で働かせてもらうのもひと苦労だったとか。今や、世界各国から引く手あまた。
そしてなお「アイデアが溢れてきて、体が追い付かないんです」と涼しい笑顔の御園井さん。かっこよすぎる!
『麻布野菜菓子』では半信半疑で「柿とバターのきんつば」をいただく。ねっとりと熟した柿を食べているかと思うぐらい濃い!
「よくある中途半端な風味のものとは違うでしょ」とは代表の花崎年秀さん。
すべてのお菓子を新しい発想で作るのがお店のモットーなので、製造スタッフは頭の柔らかい新人を採用することが多いとか。
また、和洋それぞれのスタッフがいることで、垣根を越えて自由にアイデアを出し合えるのがこの店の原動力だ。
『鎌倉創作和菓子 手毬』と同じく、SNSで和菓子を検索するとトップに出てくるのが、『タケノとおはぎ』だ。
花のようなデザインやカラフルな色合いは、まさにアート! しかも、オレンジやカカオなど、ハッとさせられるような味ばかり。
どうしたら思いつくのか、店主の小川寛貴さんに聞くと、
「季節ごとに変わる生菓子と同じ感覚です。料理と同じように、あん以外の素材の味も楽しんでほしいので、あんは極力甘さを控えてるんです」。
というのも、小川さんはもともとスペイン料理のシェフ。さらに、
「白あんに使う白いんげんは、サラダや煮込みなどいろんな料理に登場する食材。アレンジ次第でどんな食材とも相性がいいんですよ」。
そう考えると、スペイン料理からおはぎにつながったのも不思議じゃない。
そして、酒飲みにたまらないのが『和菓子 薫風』。初来店なら、まずは「薫風お試しセット」をオーダーしたい。
セットのうちの「ごぼう夢」は、ゴボウの土っぽさとコーヒーの錦玉羹の焙煎香、クミンシードを練り込んだ浮島のスパイシー感が
見事に一体化。
そこへ日本酒の「達磨正宗 熟成三年」を口に含めば、ふくよかな味わいとナッツの香りが絡み合い、大地を想像させる深いコクがじんわり染み入る。
和菓子をパクッ、日本酒をグビッ、美味し過ぎて止まらない!
甘さ控えめの軽やかな味わいなら 毎日でも食べられる!
和菓子店に似つかわしくないモダンな店構えの『SAKATAYA1793』で目が釘付けになったのは、「へちかん」。風変りな言動で知られた茶人「丿貫(へちかん)」をイメージしたそう。
外側は黒胡麻の薄い羊羹で、中には白い外郎が。ゴマの濃厚な香りと、とろとろの舌触りが絶品!
店主の日下拓さんは、固定概念があると新しい和菓子は生まれないと、大学を卒業するまで家業に関わらなかったそう。
日下さん曰く、
「ケーキやカクテルからヒントを得ることも。ここでは新しい材料で攻めた和菓子を作ります」
と意気込み十分。
吉祥寺・井の頭公園の近くで土曜日だけオープンする『季節のお菓子 omatsu』は、「場所#4(イノヨン)」というシェアキッチンで営業するお店。
まず、和菓子では珍しいミントリキュールを練り込んだ「新緑の香り」をいただくと、最初はミントを感じない。でも、いつしか口の中でふわ~っとミントの香りが漂って、同時にあんに使う豆など、素材そのものの美味しさが広がる。
店主の松立直子さんは
「私のお菓子は画期的な味でも、芸術的でもない」
と謙遜するけれど、シンプルで素朴で美味しいというのが、実は一番難しい気がする。
振り返ってみると、和菓子のニューウェーブはただの変わりダネではなく、あくなき挑戦から生まれているものばかり。そのおかげで、和菓子のすそ野が広がってきているのは間違いない。
和菓子はこれから、もっともっと楽しくなりそう!
※店のデータは、2021年5月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
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