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「カツさん!おはようございます!!」

俺は早朝の豊洲市場での取材が終わりぶらぶらと場内を歩いていたら、仲卸の『石司』(いしじ)の三代目、カツさんに出会った。

「おはよっ!」「今日仕事?」「もう終わり?」

「はいそうなんですよ」

「カツさん、ところで門仲にある『司』(つかさ)って店のマグロ丼が美味いって噂なんですけど知ってますか? 日曜だけやってる店らしいんですけど」

「あぁ、知ってるよ! 知ってるも何もお袋の店だよ」

「はっ??」

「あの店、平日はお袋が家庭料理を出してるんだ。それで店が休みの日曜日にうちの嫁がマグロ丼を専門に販売してるんだよ」

そういえば『司』って『石司』の『司』じゃないか、迂闊だったぜ。

「じゃあ、日曜だけお店を借りてやってるんですか?」

「まぁ、そういうことになるな」

「えっ、というとマグロはやはり『石司』さんからいってるんですか?」

カツさんはニヤリと笑って「まぁそんなところだな」などと惚けて見せて、「俺急いでいるからまたな」と言って、驚愕している俺を尻目に小走りに店舗の方に走り去っていった。

豊洲市場で最良のマグロを競り落とす『石司』

『石司』といえば生の本マグロ専門の仲卸だ。扱うマグロは数多の有名和食店や寿司屋から絶大な支持を集めている。

その『石司』のマグロは、販売量のほとんど全量が年間を通して取引を継続するお客様のもとに卸すことになっている。

豊洲市場のマグロセリ場

朝5時30分!

豊洲市場で始まるマグロのセリはさすがに世界に誇る魚市場だけあり、巨大な空間に生、養殖、冷凍など、ありとあらゆるマグロが所狭しと並ぶ。

セリ場では一列目から二列目、三列目、四列目と順番に大卸が勧めるマグロが並んでいる、無論一列目が高値がつくと思われる魚体なのだがその第一列目から『石司』は、顧客のニーズに合わせた最良のマグロを競り落していく

魚体を選定するにはマグロの漁獲方法の違い(一本釣り、延縄、巻網、定置網)に加えて、捕獲した地方、見た目、脂ののり具合などの要素が複雑に絡み合う。

一匹のセリ値が数百万円にもなることも珍しくない生の本マグロの中から一流の魚体を競り落とすには、大胆な駆け引き、並外れた度胸、そして冷静な目利きが必要になってくるのだ。

その吟味に吟味を重ねたマグロを、いくら三代目でも一般売りをしては採算がとれるとは到底思えない。これは直接行って確かめて見ないと後悔することになりそうだ。

マグロの解体
『石司』のマグロ

『司』へ。開店前から行列!!

そんなわけでやってきました日曜の『司』さん。11時30分。

どこから聞きつけたか、開店前から店の前はマグロ丼を求める人たちで行列が出来ている

チョット古風な外観がかえって新鮮な印象の店構え

引き戸を開けて中に入ると、
「こんにちは〜」
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

明るい声の長身の女性が声をかけてくれた、恐らくこの女性がカツさんの奥さんかな〜などと考えながら厨房を見るとなんとカツさんがいる!

「あれ! カツさん。今日は板さんですか?」

「おっ! うーちゃん、来たんだ」

「そりゃ来ますよ。俺マグロ好きだし、『石司』さんではマグロを買えないから、『石司』さんのマグロを食べてみたくて」

「今日は忙しいから手伝いにかりだされてさぁ」などとまんざらでもない感じでマグロ丼を作っているカツさんに俺はすかさず「マグロ丼」お願いしまーすと注文を入れた。

そしたらカツさん「今忙しいからさあ、相手できないんだよ。マグロとっとくから14時過ぎに来てよ」と。
いやぁ〜俺取材じゃなくてマグロ丼食べに来ただけなんですけど〜。

でも、店がすいてからなら、マグロの説明もちゃんと聞けるし、なんなら写真も撮っちゃおうかな〜、などと邪なことを思いながら「じゃあ14時過ぎに伺いますね!!」と空腹感を微塵も出さずに颯爽と………と言いたいが、未練タラタラに「本当にマグロ取っておいてくださいよ〜」とリベンジを誓ったのであった。

暖簾をくぐるとまさに家庭料理店の装いだ

さて、14時を過ぎてお店に戻ると照れ臭そうな顔でカツさんが「おーっ。悪いね。もうお客さんはけたからゆっくりしてってよ」って、なんか豊洲の男カッコよいぞ

「カツさんありがとうございます。早速なんですがマグロ丼一つお願いします、それと今日写真撮っても良いですか?」

「おう、了解!! 写真? いいよいいよ」

しばらく待つと、やってきましたマグロ丼が!!

「鉄火丼(赤身)」1500円

「ひーっ、すごい厚みですね〜」

早速、切り身をひと切れ箸でつまんで口に放り込んでみると、これがすごい!

「なんですかこの赤身は。爽やかな酸味とやさしい旨みが口の中で伸びるのなんの。とにかく味の余韻がたまりません、醤油がいらないかもですよ!」

「そう言ってくれるとうれしいね。季節によってマグロの味は変わっていくけど、その季節季節で、できるだけ良質なマグロを競り落としているつもりだよ」

「それにほんのり酸味の効いた酢飯がまた合いますね」と俺。

「よく言ってくれた、酢飯は嫁さんの味付けで好評なのさ! 嫁さんに言っておくよ」。さすがカツさん! かみさんを褒めるの上手! 横で笑ってるって。

そこですかさず俺は訪ねてみた。

「でもカツさん、値段を見たら『石司』さんから引いてるマグロの値段じゃないですよね。これ安すぎませんか、何か秘密があるなら教えてくださいよ」

「え〜秘密、そんなのないけど、まあよいか〜時間あるから説明するよ」

いや〜、閉店後に伺ってよかったのなんの。俺は目をキラキラさせながらカツさんが喋り出すのを待った。

「う〜ちゃんさぁ、俺たち仲卸がお客さんにお出しするマグロって、買ったその日より次の日の方が旨いんだよ、それで、そのまた次の日の方がもっと旨いんだよ、知ってた?」

「えっ????」

「だって、その日しか旨くなかったら次の日からお客さんに出せないじゃない」

「???」

「つまり味のピークの話さ」

「『石司』のお客様には、旨みが徐々に良くなって、その旨みのピークが長く続くマグロをお出ししてるのよ」

「はぁ」

「うちで出してるマグロ丼のマグロは、味のピークが今日で最後なのさ。もっと言うなら明日からは旨みが減っていくマグロなの」

「あ〜っ。なるほど、なるほど。」

「だからそういった熟成されたマグロだから店から融通できるってわけよ」

「なるほど、ようやくわかりましたよ、『司』の秘密が。笑笑」

「じゃこれ熟成マグロ丼って呼びましょうよ」

「なに言ってるのさ、普通の鉄火丼だよ普通の。笑」

「そんなことよりうちにはまだ丼のメニューがあるけど食べてみるかい??」

「むむっ、望むところです。どんどん出してください。でもそんなに食べるとページが足りないかも?」

「おい、ページって記事にするのか」

「はぁ、写真も撮らしてもらったし、美味しいし」

「まあ良いけど、ちゃんとマグロの美味しさも伝わるように書いてくれよ!」

「写真は自信ありますけど文章はちょっと……」

「おい頼むぜ、本当に」

最強、贅沢なマグロ丼のオンパレード

「ミックス丼(中トロ・赤身・づけ)」2000円

かえしにつけ込まれたづけが程よい感じに赤身と中トロに絡み、口の中はまさにマグロ天国。いや〜感動。

「マグロ贅沢丼(中トロ・赤身)」2500円

中トロの良質な脂身が鮮やかに滑らかに口の中で溶けていきます(冬のマグロなら濃厚でしなやかな酸味が感じられるはず)。

そのあとは赤身の酸味が口の中に広がります。二つの部位のコラボレーション、たまりません。

「マグロ最強丼(大トロ・中トロ・赤身)」3000円

「今の季節はさぁ初夏だから、さすがに大トロは北大西洋アイルランド沖(北緯60度水温10℃以下の極寒)で獲れた本マグロの冷凍を使ってるけど凄いよこれ」ってカツさんが言うから食べてみたけど、本当に物凄い品質の良い大トロなんです。

「どうしたらこんなにすごいことになるんですか!」と内緒で聞いたら、提携している静岡の『八洲水産』さんから引いているものだとか。くどいようでくどくないガツンと濃厚で良質なマグロの脂が五月雨のように身体全体に染み込んでくること間違いなしの最強丼だ(うーむ、絶対静岡の「八洲水産」も訪ねてみるぞ、待ってろよ!!)。

「カツさん、ちょっと脇道に逸れるんですけど、この卵焼き軽くてとっても美味しいんですけどこれも作ってるんですか?」

「この卵焼き? 美味しいだろう、プロの味だよ。これは築地の『山長』さんの。流石に渋いところ突っ込んでくるね、うちの丼はさ、プロの選んだマグロにプロの作った卵焼きのコラボだよ。ワッハッハ」。高らかに笑うカツさんでありました。

(『山長』さんにも行かなければと心の中でつぶやく俺)そんなこんなで、俺の昼飯はまだまだ続くのであった。

■家庭料理『司』
(日曜だけ、三代目魚河岸鮪仲卸 天然本マグロ丼専門店『司』と名前を変えて営業)
[住所] 東京都江東区牡丹1-6-1
[電話]03-3630-1681
[営業時間]日曜日11時半~14時(13時半LO)
[席数]16
[テイクアウト]あり

料理撮影/鵜澤昭彦 映像提供/鮪仲卸『石司』

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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