夏の蕎麦といえば、せいろを思い浮かべる人が多いハズ。でも、それだけではありません。冷たいおツユの冷やかけ、もり汁や蕎麦切りにひと工夫した変わり種まで。夏を感じる一杯をお届けします。
画像ギャラリー【すだち蕎麦】『手打ち蕎麦と和食 楽』@代々木上原
・冷やかけすだち(1100円)
ツユは薄削りのマグロ節やサバ節に、白醤油や薄口醤油のかえしを合わせている。淡くも繊細な風味がすだちの香りや酸味をストレートに引き立ててくれるのだ
農家直送の粉で打つ香り高く美しい蕎麦 大注目の最新店!
キンと冷えた汁をゴクリとやると、すぐさますだちの涼しげな香りが鼻腔を抜ける。
細打ちの蕎麦は喉をすべり落ち、その冷たさを直接胃まで運んでくれるようだ。
汁に溶け出した爽やかな酸味によって、ぐんと引き立つ蕎麦の甘みもたまらない。
最後の一滴を飲み干し思わず漏れた、ため息までもすだち色。この一杯さえあれば、今夏の酷暑も乗り切れる!
作り手は長濱大さんで、2020年5月に独立したばかり。修業先は、すだち蕎麦といえばの『土山人』。
大阪と東京にある2店舗を渡り歩いて磨いた技は、蕎麦にも蕎麦前にもしかと表れている。
訊けば、間もなく石臼を導入予定とか(2020年6月の取材時)。
自家製粉によって、さらなる高みを目指す蕎麦の味を想像するだけで、居ても立ってもいられなくなる。
・せいろ(825円)
淡い冷やかけとは裏腹にもり汁はどっしり濃厚で、蕎麦の香りがさらに膨らむ
・つまみ盛り(1100円)
白バイ貝のそば茶煮、ナスの揚げ浸し、ゴーヤのきんぴらなど旬の味を盛り込む
『手打ち蕎麦と和食 楽』
テーブル席や半個室もある
[電話]070-7781-8950
[営業時間]11時半〜14時、17時〜22時
[休日]不定休
[交通]小田急線ほか代々木上原駅東口から徒歩1分
【おろし蕎麦】『おろしそば みぞれ』@学芸大学
・辛味おろしそば(935円 ※昼は900円)
親田辛味大根に青首大根も少し加えて、舌触りをなめらかに。大根の辛さによって、蕎麦の甘みをより繊細に感じられる
交互に押し寄せる辛さと甘みが爽快感を演出する
料理用語で大根おろしを指す、みぞれ。十数年前の開店から変わらぬ名物が、福井県のご当地蕎麦“越前おろし”だ。
頂上にたっぷり盛られているのが、長野県下條村の一部でのみ栽培される、希少品種の親田(おやだ)辛味大根。
濃厚なツユやカツオ節と和えて食せば、一瞬涙がにじむほどの辛さがビシッと走り、直後におだやかな甘みがじわ〜っと舌を包み込む。このビシッ&じわ〜のコントラストがクセになる。
蕎麦は店内で石臼挽きした玄蕎麦と丸抜きのブレンドで、田舎風のふくよかな風味と、都会的なのど越しを両立させた見事な出来ばえ。暑さを吹き飛ばす、なんとも爽快な一杯だ。
・すだちせいろ(880円)
濃口仕立てのもり汁とすだちの相性抜群。薬味の辛味大根おろしを入れるとほのかな甘みが加わり、蕎麦湯を注ぐと爽やかな香りがさらに引き立つ
・夏野菜の揚げ出し豆腐(660円)
自家製の揚げ出しと素揚げした夏野菜を香り高いツユで食す。旬の食材を使った蕎麦前も充実のラインナップ
[電話]03-5724-4573
[営業時間]11時半〜14時半LO、17時〜21時LO
[休日]月
[交通]東急東横線学芸大学駅西口から徒歩2分
【とろろ蕎麦】『蕎麦火鉢 ゆみば 卯の方』@湯島
・冷やかけとろろ蕎麦(1320円)
すり鉢で丹念に当たったとろろは、ひたすらなめらかな舌触り。冷やかけのダシは昆布を強めに利かせ、じんわりとした旨みが広がる
甘みと香りが段違い 石臼手挽き粉で打った極みの蕎麦に感動!
ひと箸たぐって衝撃を受けた。どこまでも深い穀物の甘みと、ひたすら続く香りの余韻。
俄然興味が湧いてこの蕎麦の来歴を尋ねると、なんと機械式の石臼でなく店主自身による手挽きだという。
「その方が蕎麦の個性が出るから」と淡々とした口調で語るけれど、一日2時間以上も重〜い石臼をひたすら回し続けるのは、途方もない労力だろう。
丸抜きで仕入れる実の品種や産地はその時々によるが、骨太で素朴な風情の在来種に限定。
蕎麦、山芋、ダシのそれぞれの香りと風味が複雑に織りなす「冷やかけとろろ」が今夏の一押し。
この味に出合えた幸運に感謝したい。
・お揚げの甘辛煮のお浸し(528円)
濃厚な味付けにも負けない厚みのあるお揚げで、豆腐の風味を感じられる
・旬のお造り三点盛り(1980円)
つまみは、蕎麦屋としては珍しく刺身や炭火焼きも用意
[電話]03-6284-4711
[営業時間]11時半〜14時、17時〜22時(21時半LO)
[休日]日・祝
[交通]地下鉄千代田線湯島駅4番出口から徒歩2分
【とり天蕎麦】『北池袋 長寿庵』@北池袋
・冷やしとり天(800円)
数種類の粉をブレンドして打つ蕎麦は歯切れの良さと弾力あるコシも抜群!
正統派の老舗による斬新アレンジ蕎麦 その実力に、唸る!
一見、昔ながらのシブ〜い蕎麦屋。60年ほど前、祖父の代に長寿庵の暖簾を正規継承された老舗だ。
蕎麦はエッジがピンと立った二八で、かえしは藪にも負けぬ辛口。
“もり”や“かけ”といった古典もこれぞ江戸蕎麦!と膝を打つ旨さだが、サーフィン好きの店主のアイデア光る創作もめっぽう面白い。「冷やしとり天」は三杯酢で油淋鶏風に、「とろろカルボナーラ」はチーズとオリーブ油で冷製パスタ風にとアレンジしても、蕎麦とツユがしかと主役を張っているのは確かな土台があればこそ。
池袋の片隅で巻き起こった蕎麦のニューウェーブに、この夏乗ってみませんか?
・とろろカルボナーラ(800円)
とろろ、卵黄、チーズに、濃口醤油を利かせた辛口のもり汁が不思議なほどマッチする
・トマトの天ぷら下町風(490円)
衣を厚めに揚げた完熟トマトにソースや青のりでたこ焼き風にアレンジ
[電話]03-3971-5695
[営業時間]11時半〜14時、17時〜21時(20時半LO)
[休日]木
[交通]東武東上線北池袋駅から徒歩1分
【きつね蕎麦】『手打そば 太古福』@三鷹
・冷しキツネ蕎麦(1078円)
本枯節のみでダシをとったツユはすっきりとした風味だ
汁ダクの特大お揚げ 蕎麦に、酒のお供に、楽しみ方は自由自在
やってきたのは特大のお揚げ。「食感と風味が落ちるから」とその都度炊いた熱々だ。
冷たい蕎麦を包んで食べれば、ジュワ〜とたっぷり染み出す甘いお汁が、辛口仕立てのぶっかけツユと相まって、蕎麦を一段と旨くする。このお揚げを先出しで、半分は酒のアテに、なんて楽しみ方も大いにあり!
毎朝手打ちする蕎麦は50〜60食限定で売り切れ終い。なので基本的に昼のみの営業。
店主自身が「田舎蕎麦が好き」と言うように、二八に鬼殻を散りばめて、厚みのある朴訥とした香りが持ち味だ。
担担風やクリーム系といった創作も、この力強い蕎麦は懐深く受け止めてくれる。
上から順に、
・炙り〆鯖(748円)
・クリームチーズの醤油漬(418円)
脂ののった〆サバ、かえしで風味づけしたクリームチーズなど、つまみも抜群!酒は宮城の銘酒が中心だ
・冷しタンタン蕎麦(1210円)
ピリ辛の肉味噌と冷しゃぶ、味玉とボリューム満点のぶっかけだ
[電話]0422-26-6780
[営業時間]11時〜13時半頃※蕎麦が無くなり次第終了
[休日]月
[交通]JR中央線ほか三鷹駅南口から徒歩2分
【毛ガニ蕎麦】『食楽 太太太』@目黒
・毛ガニ蕎麦(1980円)
ショウガやすだちの香りを利かせ涼やかな味わいに
和食の技で作る蕎麦 華やかさと美味しさを兼ね備えた一杯
人気の和食店が今年の夏から始めた蕎麦がこちら!
こんもり盛られた毛ガニの身を主役に、ミョウガとトマトの甘酢漬けや菊花のおひたしを添え、すだちのジュレをあしらった、華やかで繊細な一杯に仕上げている。ひと箸ごとに違う食感や味わいが響き合い、食べる楽しさも演出。
そこで気になるのが毛ガニと蕎麦との相性だが、これが予想をはるかに飛び越えた。少しだけ酢を加えてさっぱりとした一番ダシが縁を取り持ち、両者が器の中でガッチリ手をつないでいる。
21時まではボリュームを抑えてコースの先付けとして、それ以降はアラカルトで注文できる。
・おまかせコースの一例(4950円)
季節の食材を使った小皿が並ぶ前菜の盛り合わせと、コース中程の一品料理で、この日は鮎の肝醤油焼き。コースの内容は半月ごとに変わるが、毛ガニ蕎麦は夏中ずっと楽しめる
・おまかせコースの一例(4950円)
産直の魚のお造りとメインの鴨のロースト
[電話]03-6721-9432
[営業時間]17時〜24時半(コース注文は22時まで)
[休日]日・月不定休(月2回)
[交通]JR山手線ほか目黒駅東口から徒歩1分
【トマト切り】『手打ち蕎麦 雷鳥』@石神井公園
・トマト切り(1100円)
ペースト状にしたトマトを練りこんで鮮やかな色合いだ
旬の素材を練りこんで季節の移ろいを表現した、3週間ごとの変わり蕎麦
変わり蕎麦といえば思いつくのが柚子、シソ、抹茶あたり?でも発想次第でその世界は無限に広がる。
こちらはだいたい3週間ごとの入れ替えで、取材時は「トマト切り」。
コリっとした更科独特の歯触りの向こうから甘みと香りが穏やかにやってくる。
何がすごいって、つけ汁もその蕎麦専用に作り分けること。炒めた玉ネギやセロリ入りのトマトソースをダシで伸ばし、どこかガスパチョ風の味わいだ。
美味しくて面白くて、次の変わり蕎麦を楽しみに、また出かけたくなる。
奥から順に、
・稚鮎の天ぷら(968円)
・刺身三点盛り(1628円)
蕎麦前には、旬を感じさせる料理も豊富に揃える
・ピリ辛スタミナ坦々ぶっかけそば(1595円)
四川風の肉味噌にニラ、ネギ、天かすをトッピングした台湾まぜそば風。暑い時期限定の1杯だ
[電話]03-6913-1596
[営業時間]11時半〜14時LO、17時〜21時LO、日・祝11時半〜16時LO
[休日]火
[交通]西武池袋線石神井公園駅南口から徒歩4分
三ツ星冷蕎麦を振り返る
都内の新店に老舗、様々な蕎麦店で夏にピッタリの冷やし蕎麦を求めた約1ヶ月。夏の定番に加え、麺やツユに趣向を凝らした「これこれ!」と唸る一杯を、『おとなの週末』ライター菜々山と編集戎が振り返ります。
戎「今回僕が特に印象深かったのは『楽』。『冷やかけすだち』が忘れられない!」
菜々山「うん、“猛暑で死にそうになっても、この蕎麦を食べれば生きていける”ってマジで思ったもん。あの清涼感、のど越し、完ペキ!オープンしたばかりだけど、もはや名店の風格だね」
戎「それと『ゆみば』はリニューアルオープンでした」
菜々山「うん。手打ちに変更したって聞いてたけど、よくよく取材してみたら、粉も手挽きしてるって、一体どうゆうこと!?」
戎「石臼を回させてもらいましたけど、1分で腕が死にました」
菜々山「都内で日頃から手挽きを貫いている店は他にないと思う」
戎「そんなレアなんですか!すごい情熱だなあ、イケメンなのに(←単なるやっかみ)」
菜々山「あと、感慨深かったのが『雷鳥』。オープンしたばかりの頃に取材していてね。久しぶりに行ったら、変わり蕎麦が名物になっていた。トマト切り、面白いアイデアだよね」
戎「創作系だと、『長寿庵』もお気に入りです」
菜々山「蕎麦もツユも王道の江戸前だけど、いや、だからこそ大胆にアレンジしても味が崩れない。老舗の看板はダテじゃないね」
戎「まさにそれ!創作系ってどこか軽くみられてしまうと思うんですよ。邪道みたいな?でも、しっかりしたベースがあるから、変化球が成立するということをしみじみ思いました」
菜々山「『太古福』の『冷しタンタン』もすご〜く好き!蕎麦って値段が高くなればなるほど“これっぽっち?”って思う店が多いでしょ。ここは並でも他店の大盛り。手打ちなのに値段も良心的。ご飯はサービス。店主はきっといい人だ」
戎「夏に合う蕎麦を探すべく気合いを入れてリサーチしたおかげで、バラエティに富んだラインナップになりましたね」
菜々山「うん。冷たい蕎麦って、暑い昼に食べるのも、夜の酒の〆で食べるのも、美味しいんだよねえ。もう、たまらん!」
※店のデータは、2020年8月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
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