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“ポップス職人”と言われる方が嬉しい

俺の中のイメージでは、アーティストというのは、自分で一から創造する人のことなんだ。でも、自分の音楽は、これまであったものを紡ぎ直しているだけなんだ。だから、アーティストではなくアルチザン=職人なんだ。俺としても、アーティストと呼ばれるより、「ポップス職人」って言われる方が嬉しいんだよね。若いミュージシャンが、自分のことをアーティストなんて言っているのを聞くと腹が立つね。その人がアーティスト=芸術家だったかなんて、何十年、何百年後の人たちの評価で決まることでしょう

そう言ったのは山下達郎だ。1988年、アルバム『僕の中の少年』を発表した頃のインタビューだ。1988年と言えば「クリスマス・イブ」(1983年)がJR東海のクリスマス・キャンペーンに使われ、大ヒットしている。

それから約3年後『ARTISAN』(アルチザン)というアルバムがリリースされた。1991年のことだ。

2021年、『ARTISAN』の発表30周年を記念して、リマスタリングされたCDと、オリジナル発売時はCD時代だったので、リリースされなかったアナログLPも同時発売された

「アトムの子」、「さよなら夏の日」など名曲の多い、このリイシュー・アルバムには山下達郎直筆のライナーノーツがある。そこで彼は、市井に暮らす“職人”が大好きで、静かな格調とも言うべき重みに魅せられ続けて来たと記している。

その上で、“ロック・フォークの隆盛にともない、青田買いのバンド・コンテストやオーディションが増加する1980年代中期あたらりから、ミュージシャンを「アーティスト」と呼称する風潮が生まれ、ミュージシャン自身も“我々アーティストは”などと自称してはばからない時代が訪れました。私はその語法が大嫌いで、せめてフランス語の「Artiste(アルティースト)」くらいで留めてくれと思いましたが、残念なことに今ではすっかり常用語として定着してしまっています”(『ARTISAN』のライナーノーツより)。

言葉=詞も大切にしている人

山下達郎は、単に誰もが、アーティストと言う言葉を軽々しく使う風潮に苛立っているわけではないと思う。言葉の使われ方の軽さを憤っているのだとぼくは思う。

世の中には軽々しく使われてはいけない言葉もある。それは多くあるのだが、そのひとつとしてアーティストに的を絞ったのではないだろうか?

芸術家と名乗るのは尻込みしても、外来語のアーティストなら、何となくオシャレっぽくて良いね。そういう言葉の軽い使われ方に山下達郎は、もの申しているのだと思う

3歳年下の山下達郎を、その無名時代からずっと見守ってきた。巧みなサウンド構築、メロディー、そして歌唱力に眼が行きがちだが、彼の書く詞は実は、言葉がとても丁寧であることはあまり語られることがない

サウンドと歌唱力の人と思われがちな山下達郎だが、言葉=詞も大切にしている人なのだ

1991年の『ARTISAN』(中央下)は30年後の2021年夏、最新リマスターによる『ARTISAN(30th Anniversary Edition)』としてCDとLPが発売された

岩田由記夫

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

【連載第2回】ドラクエに熱中、開演直前の杉真理に電話で聞いたこと 音楽の達人“秘話”・山下達郎(2)

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