チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。今回は出張先・三重県四日市市で見つけたチャーラーです。久々に美味しいものに出合ったという、そのチャーラーとは!?
画像ギャラリー長年、グルメライターを生業としていると、店構えを見ただけで旨い店か否かがわかる。うまく説明できないが、旨い店は独特のオーラを放っているのである。
少し前、某テレビ番組で店は汚いけど料理は美味しいという店がクローズアップされたことがあった。それはごく稀なケースであり、旨い店は店内も厨房もピカピカというのが定説である。
「ジャケ買い」的な店選びも楽しい
さて、先日、撮影の仕事で三重県四日市市へ行った。仕事は午前中に終わり、どこかで昼食を摂ろうと思い、車を走らせていた。出張先での食事は、食べログやGoogleなどで探すこともあるが、このときは店構えを見たときのフィーリングで決めようと思っていた。
四日市市と鈴鹿市の境界あたりで目に飛び込んできたのが、ここ『パンダ食堂』である。もう、この店名と店構えから伝わる美味しいオーラに吸い込まれるかのごとく車を駐車場に止めた。
店へ入ると、予想通り、店内の隅々まで掃除が行き届いていた。カウンター席に案内され、そこから厨房の様子をチェックすると、やはりピカピカに輝いていた。うん、これは期待できるぞ。
ただ、この日はチャーラーではなく、「エビフライ定食(大)」(1380円)を注文してしまった。いや、どうしても食べたくなってしまったのだ。名古屋人のDNAがエビフライを求めていたのだとしか言いようがない(笑)。
気になったのは、(大)。メニューには(小)や(中)の表記はない。これはエビが大きいことを意味するのだろうか。そんなことを考えていたら、料理が目の前に運ばれた。皿の上には2本の大ぶりな海老フライが鎮座している。付け合わせはナポリタンとポテトサラダ、千切りキャベツ、レタス。タルタルソースは別添えだった。
エビフライに一家言ある名古屋人を代表してこのエビフライ定食に意見を述べさせていただくと、「完璧」のひと言に尽きる。実際に食べてみると、サクサクの衣に閉じ込められたエビのプリッとした食感やほのかな甘みを存分に堪能することができた。
チャーラーを求めて、『パンダ食堂』へ再訪
エビフライの美味しさもさることながら、驚いたのはご飯の美味しさ。粒が立っていて、噛むごとにじんわりと甘みが広がるのだ。うん、食堂はやっぱりご飯が旨くなきゃ。ご飯の旨さに感心していると、店員さんができたての炒飯を他のテーブルへ運んでいるのを見た。
それがめちゃくちゃ美味しそうで、このクオリティの高すぎるご飯で炒飯を作ったら、いったいどんな味になるのか。もう、頭の中は炒飯に占領されている。
とはいえ、「エビフライ定食(大)」を食べた後では完食する自信がない。次回は絶対に炒飯とラーメンを注文すると心に決めて、この日は泣く泣く諦めて店を後にした。
それから約2週間後、奈良へ出張した帰りに立ち寄った。夜7時半を回っていたが、店内は多くの客で賑わっていた。やはり、ここは人気店なのだ。
注文したのは、「中華そば」(650円)と「焼きめし(並)」(550円)。食堂ゆえにラーメンや炒飯と呼ばないことにも好感が持てた。
まず、目の前に運ばれたのは「中華そば」。想像していた通りの、あっさり系のスープに心が和む。具材はチャーシューとメンマ、ナルト、山盛りのネギ。ビジュアルも昔ながらの中華そばそのもの。これ、これっ! 私はこんな中華そばを探していたのだ。
まずは、スープをひと口。ほんのりと甘くて、やさしい味わいが身体に染みわたる。やんわりと縮れのある中細麺の適度な弾力も素晴らしい。町中華のラーメンはコショウをパパっとかけて食べたくなるが、これはデフォルトがよい。味変するのももったいないほどクオリティが高いのである。
ラーメンマニアにとっては、尖った味ではないので物足りなく感じるかもしれない。しかし、チャーラーにおいてはこの普通さ加減が重要なのである。わかるかなぁ。
感激しながら「中華そば」を食べていると、「焼きめし」が目の前に。具材はチャーシューとネギ、ニンジンと、超シンプル。
早速、レンゲを突っ込んで頬張ってみる。あれ? 「エビフライ定食(大)」で食べたご飯からパラパラ食感をイメージしていたが、しっとりと……。いや、違うな。フワフワとした今まで味わったことがない食感。なっ、何じゃこりゃぁ!
冷静に分析してみると、その食感の秘密は卵。たっぷりの卵がご飯のひと粒ひと粒をコーティングしているのだ。噛んでいると、コーティングが剥がれて、塩とコショウの絶妙な味付け加減とともに美味しいご飯がひょっこりと顔を出す。もう、たまらん!
なぜか口の中がいっぱいになるまで頬張りたいという欲望に駆られ、レンゲを忙しく動かして掻き込んだ。ゆっくりと飲み込んで、まだ口の中に残る味の余韻を「中華そば」のスープで洗い流す。すると、ふたつの美味しさがひとつになる瞬間がある。これこそがチャーラーの醍醐味だ。
こんなにも旨いチャーラーを食べたのは久しぶり。しかも、地元ではなく地方で。私の中で『パンダ食堂』は、“チャーラーブックマーク”入り決定。三重県方面へ行ったら、遠回りしてでも立ち寄りたい。
撮影・文/永谷正樹
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