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ある晩の偶然は必然だった

話は前後する。

ある晩、四谷の『寿司金』の秋山は親友が営む『焼肉ゆうじ』から出てきたとき、入れ違いに入ってきた若い職人の姿に目が止まった。

『寿司金』といえば四谷荒木町で極上のマグロ握りを出す江戸前のお店として超有名店である。某漫画家の大御所が寿司はこちらの赤身しかいただかなかったのは出版界では有名な話である。遅れて店から出てくる店主のゆうじに秋山は言った。

「ゆうじ、今日もごちそうさま。相変わらずゆうじのところは旨いよな〜!」
「おー。ありがとう秋山」

ひと通り挨拶を交わし秋山はゆうじに聞いた。「あいつ何者?」

「彼か? 彼は、ほら、うちの横のビルの一階。いや違うよ、そっちじゃなくて、左側面に最近できた寿司屋さんの主人でさあ、時々刺身の差し入れをしてくれるんだよ」
「へぇー、俺も寿司職人かな〜て思ったんだよ」
「彼と話しても良い?」
「ど〜ぞ」

秋山は「ちょっと良い?」と声をかけた(以下、秋山:秋、敦士:敦)。

秋:俺、四谷の『寿司金』の秋山だけど。
敦:寿司金の若旦那?
秋:そう、四谷の寿司金。
敦:はぁ、なんでしょうか?
秋:その若さで、店出したんだって?
敦:はい。
秋:説教じみたことを言うようだけど、東京はマグロだよ。マグロに力を入れるんだぜ。
敦:はい、僕もそう思っています、本当に東京では鮨ネタにマグロは大事だと感じています
秋:そう思っているのなら、豊洲仲卸の『石司』さんに行ってみれば。本当に良いマグロが並んでいるから。
敦:はぁ、しかし……しかしですよ、僕も『石司』さんの存在は伺っていますが、『石司』さんに紹介なしで飛び込むのはちょっと相手にされないような……

「あのさぁ」。秋山はぶっきらぼうに言った。
「俺が紹介してあげるよ」

敦:………。
秋:コロナ禍で鮨屋開店って、半端じゃないよな。
敦:……。
秋:何かの縁だよ。話しておくから。
敦:ありがとうございます、今度豊洲に行った時に『石司』さんに伺ってみます。

そこから『石司』と『鮨 敦士』の付き合いが始まった

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摩擦がなければ熱は生まれない...
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鵜澤 昭彦
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