「フラミンゴオレンジ」「Amazing」って何だ?“新感覚焼酎”を生み出す鹿児島の蔵元2軒を訪ねる

若い世代が焼酎の未来を切り開く かつて鹿児島では、各家庭で焼酎を造っていた時代があったという。やがて集落の中に専業で焼酎を造る酒蔵が生まれた。集落の中に佇む中村酒造場は、その歴史を物語る。 創業は1888年、当時の面影を…

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最近、焼酎が面白くなってきた。“らしさ”を大切に造られてきた焼酎が、もっと自由に、遊び心あふれる造りへと進化してきているのだ。心震わす斬新な香り、感動を呼ぶ味わい。美味しい新世界を案内したい。

旨さのヒミツを求め、いざ鹿児島へ】

話題の芋焼酎はこうして生まれた

その名も、インパクト絶大な「フラミンゴオレンジ」。みずみずしい柑橘の香りが広がる、ミラクルな本格芋焼酎だ。2018年の発売直後から話題を呼び、今では入手困難な人気銘柄。芋だけで造っているのにオレンジのような香りがするのはなぜ?その謎を追いかけて鹿児島の国分酒造を訪ねた。

サニークリーム、フラミンゴオレンジ、クールミントグリーン

左からバナナやクリームのような風味の「サニークリーム」、「フラミンゴオレンジ」、爽やかな「クールミントグリーン」

蔵は、田んぼが広がるのどかな山間部にある。モダンなラベルから想像した洒落たイメージとはかけ離れた、昔ながらの酒蔵だ。現代の名工に選ばれた安田杜氏は御年70歳。飄々とした人柄で、笑顔がとてもチャーミング。「ちょっと」と手招きされついていくと、そこには小さな花壇が。米麹に使う稲と主原料のさつま芋を育てる試験畑だという。

「稲を育てて初めて米麹のことがよくわかったんです」と安田杜氏。原料を栽培することが焼酎造りにもたらすものは大きいという。研究家肌の安田杜氏はこれまで芋焼酎の世界に斬新な変革をもたらしてきた。

例えば、古(いにしえ)の焼酎の味わいを求めて大正時代のさつま芋・蔓無源氏(つるなしげんじ)を復活させたり、米麹が主流の芋焼酎で、蒸した丸芋に直接麹菌をつける芋麹を初めて成功させたり。その背景には自身が思い描く焼酎を造りたいという圧倒的な熱量があるのだ。

「フラミンゴオレンジ」の前哨戦となったのは、減圧蒸溜への挑戦だ。芋焼酎は一般的に常圧蒸溜でどっしりとした酒質を出すが、減圧蒸溜はもっとライトな酒質になる。最初の年は「なにかインパクトがなかったなぁ」と苦笑い。そこでアイデアを出してきたのが笹山社長だ。「酵母を変えたらどうだろう」。

選んだのは鹿児島で開発された香り酵母。これが当たった!華やかなオレンジを思わせる香りが立ち昇ったのだ。調べてみると、柑橘性の香りをもたらすシトロネロールとネロールという成分が他の焼酎の10倍も含まれているという。「できちゃった焼酎だね」と安田杜氏はちゃかすが、そんなわけはない。確かな技術とゆるぎない信念に基づいた、二人三脚による夢の結晶なのだ。

『国分酒造株式会社』 @国分

『国分酒造株式会社』スペックの異なる蒸溜器2基を使い分けている

『国分酒造株式会社』の情報

[住所]鹿児島県霧島市国分川原1750
[電話]0995-47-2361
※一般の見学は不可
https://kokubu-imo.com/

若い世代が焼酎の未来を切り開く

かつて鹿児島では、各家庭で焼酎を造っていた時代があったという。やがて集落の中に専業で焼酎を造る酒蔵が生まれた。集落の中に佇む中村酒造場は、その歴史を物語る。

創業は1888年、当時の面影を残す赤レンガの建物が印象的だ。「子供の頃は隣に実家があったので、ちょろちょろしながら焼酎造りを手伝っていましたね」というのは6代目・中村慎弥さん。農大醸造学科を卒業後、山形の日本酒蔵で働いたこともある。

地元へ帰り杜氏を引き継ぐと、「Amazing」という焼酎を造り、一躍話題に。有名アーティストを起用したラベルで従来の芋焼酎と全く違うスタイルを強調したこの焼酎は、味わいも独特の個性が光る。その発端は「ランビックのような焼酎を造れないか」と考えたことだった。

なかむら、STILL LIFE、Tear Drop

左から代表銘柄の「なかむら」。地元農家が作るさつま芋と蔵仕込みの米麹を使用する。2021年に初リリースされた限定の「Amazing」シリーズ。「STILL LIFE」(中)はグレープフルーツやライムの香り。パンケーキやヨーグルトの風味がある「Tear Drop」(右)

ランビックは、自然発酵させたベルギーの伝統製法ビール。そこで中村さんは蔵に生息する麹菌を使った麹造り、酵母無添加に挑戦する。酵母を添加せず自然に発酵を促す方法は気温の高い鹿児島では難しいとされる冒険であり、完成には5年を要したという。

一見とても斬新に思える「Amazing」だが、その背景にはなかむら酒造場が培ってきた伝統が詰まっている。中村酒造場の主力商品は「なかむら」という芋焼酎。しっかりとした造りで高く評価されている。

「父や祖父が大切にしてきたものを否定するのではなく、その延長線上で新しい世界を切り開きたい」と中村さん。「Amazing」も伝統のルールを踏み外さないよう、とても慎重に対処しているのだ。

夜、地元の食材にこだわる『手しごと屋 潤』で飲みながら中村さんは語る。「鹿児島の食材で焼酎を味わってもらえる店が地元にあるから、伝えられることもある。いつも可能な限り、ここへお連れしているんですよ」

焼酎の世界が変わって来た理由を尋ねると「私も含めて若い世代に代替わりしたことも大きいですね」という。先祖が脈々と繋げてきた伝統をもう一度新鮮な目で見つめ直すこと。その結果が焼酎の新時代を呼び込んでいるのかもしれない。

『中村酒造場』 @国分

『中村酒造場』赤レンガの蔵が風景に映える

『中村酒造場』 の情報

[住所]鹿児島県霧島市国分湊915
[電話]0995-45-0214
※一般の見学は不可
https://nakamurashuzoujo.com/

『手しごと屋 潤』 @国分

『手しごと屋 潤』

『手しごと屋 潤』の情報

[住所]鹿児島県霧島市国分中央3-36-15
[電話]0995-55-6116
[営業時間]18時~23時(22時LO)
[休日]日・祝
[交通]JR日豊本線国分駅から徒歩8分

撮影/村川荘兵衛、取材/岡本ジュン

※2022年8月号発売時点の情報です。

※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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