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好きなバンドのライブで号泣

その日は、お目当てのバンドを見に来たお客さんで会場はいっぱいだった。

他のお客さんたちの、ワクワクが私にまで伝播してくる。

友人たちと来ている人は口々に楽しみを伝え合っているけれど、私のような独り身での参加者も声に出さなくとも内なる感情が自然と体外へ漏れ出ていて、高揚感が伝わる。

これはライブならではの感覚だろう。

ライブが始まると、盆と正月が一緒に来たような、運動会と文化祭を一緒にしたよな、悟空とベジータがフュージョンしたような、とにかく物凄い熱気に包まれた。

お客さんも、素直にまっすぐ音楽にのめり込んでいる。

お笑いだと良くも悪くもネタに対して点数をつけたり評論をするお客さんも中にはいるけれど、音楽ライブは、そんな点数とか一切関係ない。

シンプルに、エンターテインメントを浴びに来ている人たちの集いなのだ。

一心不乱に曲に乗って、周囲の人たちは汗をダラダラかくほどジャンプしたり腕を振って演者に応えていた。

私はというと、普段から体力を温存しすぎているためか、汗をかくほどの運動ではなかったものの、汗の代わりに涙をダクダクに流した。

泣こうとしている訳ではないのだけれど、自然と涙が出てくるのだ。

ただ目の前で人が歌っているだけなのに、心を動かされる。

お前は頑張ってるよな、偉いな、周囲の人間は分かってくれないよな、辛いよな、と、そんな歌詞はないのに、エネルギーをぶつけられることで、普段自分にはかけてあげないような言葉を自分にかけている自分がいた。

マスク着用の元でのライブだったので、気がつくとマスクは涙でビショビショに濡れ、空気が通りにくくなるため呼吸がしにくくなる。

ヒーヒーと大きく呼吸をしながら、ダクダクに泣いている男が周囲にいたら、さぞ怖いだろう。

ただ、そんな醜態も、音楽ライブで気にする人なんていない。

何故なら、参加している者が皆、醜態を晒しているからだ。

ここでは皆が等しく体裁など気にしないでいられる時間が流れているのである。

隣の男性も、私と同じようにマスクをグショグショに濡らしていた。

次々と曲が変わっていくのを楽しみながら声を押し殺しながら「うっうっ」と泣いているうちに、気がつけばライブが終わっていた。

音楽ライブで沢山いい曲を浴び、キラキラとした栄養を得て、溜まっていた澱を目から流すことで、ライブが終わった後の私は、泣きすぎて疲れたはずなのに、活力に漲っていた。

いやあ、ライブ最高。

ライブ最高!

大切なことなので2回言ってみた。

ジャンルも違うし、入るお客さんの数も違うけれど、同じエンターテインメントを提供する人間として、今回見たライブと同じくらい人の心を動かせるものを、いつか来てくれる人に提供するぞ、という目標もできたのであった。

前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で画力を披露したり、複数メディアでコラムを執筆するなど、マルチな活動で注目を浴びている。

ティモンディ
高岸宏行・前田裕太によるお笑いコンビ。コンビ結成は2015年、グレープカンパニー所属。高岸のポジティブなキャラクターや、二人の野球経験と身体能力などがバラエティ番組で引っ張りだこに。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディチャンネル』の登録者数は約28万人。

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